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《ただ物を運ぶだけだったのに…》闇バイト逮捕者が供述する「騙された」 SNSに増殖する「ホワイト案件」に誘われて指示に従った人たちの顛末

NEWSポストセブン 2024年10月16日 16時15分

「案件」とはもともと、解決すべき問題や訴訟事件のことを指す言葉だった。ところが数年前から「案件」といえば、インフルエンサーが商品やサービスのPR投稿をすることを呼び、それが広がって報酬が発生する仕事の一種という意味を持つようになっている。そして今、SNSでは働き手募集の際に「ホワイト案件」と加えることで、ブラックな仕事ではないとアピールされているという。特殊詐欺関連の取材を続けているライターの森鷹久氏が、「ホワイト案件」の書き込みに誘われた人たちの顛末をレポートする。

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 今年8月以降、首都圏で相次いで発生している連続強盗事件。強盗に入った実行役らが相次いで逮捕され、またしても「闇バイト」に応募して集まった男らであることも判明し、警察庁は被害地域の刑事部長を集めて捜査会議を実施して、捜査関係者に発破をかけたと伝えられている。

「闇バイト」の危険性は、マスコミや捜査当局の発表により周知されてきており、事前に約束された報酬が支払われない、個人情報を渡すことで逆に脅され組織から抜けられなくなるなどの実態は知れ渡っていたはずだった。にも関わらず、なぜ、闇バイトに応募する者が後を絶たないのか。事件を取材している大手紙社会部記者が解説する。

「今回の事件で逮捕された男たちの一部からは、当初は”ホワイト案件だ”と(指示役から)説明された、騙されたという供述が出ています。要は、闇バイトだと知らずに応募し、犯行に加担してしまった、もしくは加担せざるを得なくなった、ということです」(大手紙社会部記者)

 この「ホワイト案件」とは、犯罪にならない仕事のことを指す。対義語は「ブラック案件」であり、特殊詐欺の受け子や出し子、さらに傷害や殺人を伴う強盗などの犯罪がそれにあたるという。

「最近では、SNSを通じた闇バイトや、闇バイトに加担したことで逮捕されたり人を殺めたり大変なことになる、ということがある程度、周知されている。だからこそ、指示役は最初に”ただ物を運ぶだけ”などといって強盗や受け子、出し子ではない”ホワイト案件”であることを強調し人を集めるようになっています。一連の強盗に加担した者の中にも、このように本当に騙されてしまった者が複数人いるとみて捜査が進められています」(大手紙社会部記者)

SNSに増える偽装「ホワイト案件」

 実は筆者も数年前に、なぜ闇バイトに応募し犯罪に加担してしまう者が減らないのか、取材をしたことがあった。当時は、どうしても金に困っている人物や、借金や人間関係に悩み自暴自棄になった人などが応募者の大半で、リクルート側も「いくら(闇バイトのことが)報道されても応募者は減るはずがない」「人間は詰まったら(どうしようもなくなったら)詐欺師でも犯罪者にでもすがりつく」と自信を見せていた。ところがこの数年のうちに、闇バイトのほとんどが、指示役やその上の首領らに「使い捨て」にされることが明らかになると、応募者は激減した。

 今回逮捕された容疑者のうちの一人も「報酬を受け取りに行ったら強盗をするよう指示された」と供述しているように、最近は「闇バイト」ではなく、偽装した「ホワイト案件」をSNS上でちらつかせて、人集めをするという。

「どうしても金に詰まっていた。犯罪じゃないホワイト案件なら、金だけ稼げるんじゃないかと安易に連絡を取ってしまいました」

 筆者の取材にこう答えるのは、かつて特殊詐欺事件に受け子として加担し、検挙された経験のある男性(30代)。有罪判決を受け刑務所にも入ったが、コロナ禍真っただ中に”シャバ”へ復帰したところで仕事はなく、思いつめた末に「ホワイト案件」を募集していたSNSのアカウントに連絡を取ったという。ところが、応募元と接触すると愕然とさせられた。

「犯罪ではないホワイト案件だが、内容を伝えるのは身元確認が終わってからといわれ、テレグラム(匿名性の高い通信アプリ)で免許証や顔写真を送りました。住所を伝えるとすぐ”トヨタの白い車が止まっているね”と確認され、自宅近くまで来ているのかとびっくりしていたら”ホワイトじゃなくてタタキ(強盗)できる?”と聞かれました。ああ……俺は引っかかってしまったんだと気が付きました」(男性)

 相手はおそらく、男性の住所などを聞き出してすぐに、ネットの地図サイトなどを使って、男性の自宅が現存するのかを確認したのだろう。この行為だけでも、男性に「お前の家を把握している」、あるいは「お前が逃げたら家族も危ない」といったプレッシャーをかけられる。男性を逃げられないようにした上で、ホワイト案件ではない犯罪行為をやらざるを得なくなる状態に追い込む。男性が助かったのは、出来事のすべてを警察に話したからだった。

「もう捕まりたくないし、まっとうに働きたいと強く思い、警察に相談しました。詐欺の指示役から返し(復讐)があるかもしれないとかいろんな不安がよぎりましたが、私の場合は当時の自宅も賃貸で、行政などの支援もお借りしてすぐに引っ越して、難を逃れました。少しの気の迷いにつけ込まれて、脅されれば本当に思考がストップしてしまう。警察など、誰かに相談するべきです」(男性)

最初の仕事は、受け取った荷物を郵送するだけだった

 千葉県在住の主婦(50代)も、10代の息子が「ホワイト案件」に騙され、犯罪に巻き込まれてしまったと嘆く。

「警察から”お子さんの件で”と電話があるまで、まさか息子が詐欺事件に巻き込まれるなんて想像もしていませんでした。どうやら、いわゆる詐欺事件のお金の”受け子”のバイトを知人から紹介されてやったようで、警察に捕まったんです。息子は取り調べにも、私たちにも”本当に知らない”とか”騙された”と泣きじゃくっていました」(主婦)

 彼女の息子は、学校の友人から「割のいいバイトがある」と紹介された。息子は「まさか闇バイトじゃないだろう」と、とくに疑いもせず軽い気持ちで承諾。友人と共に、免許証などの個人情報をバイトの「仲介者」に送ったという。そして最初のバイトは、指定された場所で受け取った荷物を、また別の指定された宛先に郵送するだけ、というものだった。簡単なうえに1万円程度のギャラまで発生したから、息子も友人も「本当にもらえた」「割のいいバイトだ」と喜んだ。しかし、いっときのぬか喜びは、一瞬にして恐怖に変わったのだ。

「最初のアルバイトをしたあと、今度はロッカーから荷物を取り出して人に渡せとか、他人名義のクレジットカードで買い物をしろ、という指示が出たそうです。さすがに息子たちもこれは詐欺ではないかと怖くなり断ったそうです。ですが、そこから家族に危害を加えるなど脅され、仕方なくやってしまったと。捕まってホッとしている様子でしたが、早く引っ越さないと、私や家族が危険だと取り乱したりもしました。闇バイトから抜け出せず、誰かに怪我をさせるなどする前で本当に良かった」(主婦)

 特殊詐欺や連続強盗などの「実行役」のリクルートは、警察当局の強い締め付けもあり、年を追うごとに厳しくなっている。さらに直近では、闇バイトの報酬を受け取ろうとしていた男が、別の闇バイトで集められた男らに襲撃される、といった事件も起きており、犯行グループや指示役らの仲間割れなど、内部的なトラブルも続発しているとみて良い。

 どんなに困っていようと「闇バイトだけは勘弁」と考える人が増える一方、自暴自棄になって手を出したり、ここで紹介したような半ば「騙されて」犯罪に加担せざるを得ない状況に追い込まれる人も増加するはずだ。

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