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《税金流出を防ぐ狙いか》東京23区でふるさと納税返礼品に鉄道体験が増加中 一日駅長、車内放送の録音・放送、マジックハンドで落とし物拾得など

NEWSポストセブン 2024年10月19日 7時15分

 毎年、12月に利用が集中する「ふるさと納税」は、高級和牛やフルーツなどが人気を集めているが、近年はその地域ならではのユニークな体験が出来るものへの注目が高まっている。ライターの小川裕夫氏が、東京23区で次々と実現しているJR東日本とコラボした「ふるさと納税」についてレポートする。

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 2008年から始まったふるさと納税は、年を経るごとに納税額(寄付額)が右肩上がりで上昇。特に税収が乏しい地方都市は高級和牛やフルーツ、海産物など豪華な返礼品を用意して寄付を集めてきた。

 ふるさと納税の返礼品合戦はどんどん過熱していき、さすがに総務省の指導が入るようになったが、その後も各自治体は知恵を絞って注目されるような返礼品を考案してきた。

 東京都は地方税の原則を歪めるものとして、ふるさと納税には一定の距離を置き、都内の地区町村も当初は静観の構えを崩していなかった。しかし、ふるさと納税の総額が増えていくにつれて多額の税収が流出することになり、それらを防ぐ意図から23区でも各区が独創的な返礼品を用意する動きが活発化した。

 東京23区は全国から注目されるような名産品がない。そうした背景から、23区では体験型の返礼品を用意する自治体が目立つ。

一日駅長、ディーゼル機関車で探検、シミュレーター体験

 2023年10月、新宿区はふるさと納税による2022年度の流出額が約34億円と試算。ふるさと納税制度が廃止されない限り、毎年のように30億円以上の税収を失うことになる。そこで新宿区は、一日区長や新宿駅の駅長といった体験型の返礼品を用意した。新宿区は寄付額200万円で新宿区長の一日体験できるメニューのほか、JR東日本からの協力を取り付けて100万円でJR新宿駅の一日駅長体験も返礼品のメニューに加えた。新宿駅長体験は1日1名限定で2日間分が用意されたが、すぐに”完売”した。

 ほかにも新宿区は30万円で終電後の新宿駅で駅員の仕事体験や車両見学ができるバックヤード体験、6万円でみどりの窓口やシミュレーターでの仕事体験プランも用意したが、こちらもすぐに”完売”している。

 新宿駅は一日の利用者数が約350万人で、これは国内一を誇る。鉄道ファンでなくても、巨大なターミナル駅の駅長や駅員の体験をしてみたいと考える人が多いと思われていたが、100万円の1日新宿駅長が即”完売”したことで、改めてそれが実証された。

 鉄道関連のコンテンツは人気が高く、東京都北区も2023年12月に鉄道の体験型返礼品を2種類用意した。ひとつは尾久駅構内をディーゼル機関車に乗って探検することとシミュレーター体験がセットになったもの、もうひとつが田端統括センターで運転席の見学と写真撮影やシミュレーターの体験がセットになった返礼品だ。

「北区がふるさと納税の返礼品に鉄道の体験型返礼品を加えることになったのは、JR東日本の担当者から打診を受けたことがきっかけでした。打診を受けて庁内で議論したところ、北区には田端駅や尾久駅に車両基地が併設されていて、それらを有効活用できると考えました。こうした経緯で2つの体験型返礼品を用意しましたが、すぐに枠が埋まってしまうほど好評でした」と話すのは北区区民部税務課の担当者だ。

 好評を博したために北区は2024年5月と7月にも同様の返礼品を用意したが、こちらも即座に”完売”した。

「車両の手配などJR東日本との調整も必要になりますので、まだ詳細は発表できませんが、今後もJR東日本と協力して新たな体験型返礼品を用意したいと考えています」(北区区民部税務課の担当者)

マジックハンドで落とし物拾得体験、車内放送録音

 ふるさと納税の返礼品に鉄道体験を用意する動きは、ほかの自治体にも広がっている。荒川区は2024年10月に従来の返礼品に加えてJR東日本とのコラボ体験型返礼品を追加で用意した。

「これまでにも荒川区は区の伝統工芸品をふるさと納税の返礼品にしていましたが、体験型の返礼品を充実させることで荒川区に足を運んでもらいたいという思いから2024年10月にJR東日本の協力もとで日暮里駅での仕事体験と貸切列車の乗車体験という体験型の返礼品をメニューに加えました」と説明するのは荒川区総務企画部総務企画課の担当者だ。

 荒川区が用意した体験型返礼品は、寄付額30万円の4コースがあり、各コースは限定1グループ、1グループは4名までが参加可能となっている。

 仕事体験では駅でマジックハンドを使って線路内の落とし物を拾ったり、手旗を使用した合図掲出、駅員室の起床装置を体験する。

 貸切車両の乗車体験では、普段は乗車できない荒川区内の貨物線を走行し、車内アナウンスを体験する。

 荒川区内にはJR各線のほか東京都交通局の都電荒川線と日暮里・舎人ライナー、京成電鉄、東京メトロの千代田線と日比谷線、つくばエクスプレスなどが走っている。そうした中、荒川区がJR東日本を選んだ理由は、先述した新宿駅での駅長・駅員体験といった自治体とコラボした前例があることが大きい。

「体験の場所を日暮里駅に設定した理由は、山手線の駅なので区外からでも集合しやすいという理由もありますが、なにより日暮里駅が鉄道ファンから人気になっていることです。日暮里駅に隣接した跨線橋は東北新幹線・東北本線・山手線・京浜東北線・常磐線・京成本線を眺めることができるビュースポットになっていて、鉄道ファンのみならず子連れの親子や区民からも鉄道の聖地と呼ばれている場所です」(荒川区総務企画部総務企画課の担当者)

 今回、荒川区は初めての企業とコラボして体験型の返礼品を用意した。そうした事情もあり、まだ返礼品のラインナップは手探り段階だが、「今後は都電荒川線や日暮里・舎人ライナーなどにも広げていきたいと考えています」(荒川区総務企画部総務企画課の担当者)

 同じく豊島区もJR東日本とコラボして体験型の返礼品を2日分用意した。その内容は豊島区に立地している池袋駅で駅員の仕事体験と回送列車に乗って池袋駅北側にある車庫へと移動し、そこで車内放送の録音やドアの開閉などの車両機器の操作を体験するというもの。録音した車内放送は、実際に池袋駅で2週間程度使用されるという。

 これまでふるさと納税返礼品は、高級牛肉や海産物といったモノが人気を博していた。そのため、多くの自治体は返礼品をモノで用意する考え方が半ば常識化していた。

 東京23区は高級和牛や海産物のような地場産品がなく、それゆえにふるさと納税の返礼品合戦では地方都市の後塵を拝してきた。

 しかし、今後はモノよりもコトが人気の返礼品になる兆候が出ている。ここで紹介した東京23区の自治体の他にも、秋田県秋田市や埼玉県さいたま市、山梨県甲府市もJR東日本とコラボして鉄道体験の返礼品を用意している。東京23区は鉄道が縦横無尽に走っているうえに運転本数も多い。こうした鉄道資産を活用しない手はないだろう。

 鉄道は訴求力のあるコンテンツでJR東日本も協力的であることを考えると、新宿区、北区そして荒川区や豊島区に続けとばかりに、今後も鉄道の体験型返礼品を用意する東京23区の自治体が出てくることは間違いない。

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