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《ファミマがイートイン廃止へ》コンビニ店長が嘆く迷惑客の実態、「何も買わずに充電してスマホ動画を観続ける」「勉強机代わりに延々と居座る」

NEWSポストセブン 2024年10月17日 16時15分

 2013年にセブン-イレブンが店頭にコーヒーマシンを設置してセブンカフェをヒットさせて以後、コンビニ各社は飲食提供を拡充させ、店内で飲食できる「イートイン」も増やしてきた。一時は近隣のコーヒーショップやファストフードの客を奪う勢いだったが、10月2日にファミリーマートがイートインを順次売り場に転換すると発表した。人々の生活と社会の変化を記録する作家の日野百草氏が、サービスを食い物にする人たちによって「イートイン」で何が起きていたのかをレポートする。

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「コンビニのイートイン、この通り機能しなくなってしばらく経ちますが、これでよかったと思います」

 都内、住宅街を抜ける狭い市道沿いにあるコンビニの店長。はっきりと「無くなってよかった」と言い切った彼の前に薄暗い一角、かつてイートインスペースがあった場所だ。椅子も片付けられ、規制テープのようなものが掛かっている。

「うちは数席しかありません。それでも色々と面倒で、気が気じゃありませんでした」

 コンビニのイートインそのものは古く、ミニストップが1980年代に始めたとされる。ミニストップは元々がファストフードとコンビニのハイブリット営業のためイートインは必然だった。

 それが2010年代に入ると各コンビニチェーンもイートインを設置した店舗を増やし始めた。24時間対応の「たいていのことができる」何でも屋としてのコンビニを目指した結果とも言えるが、紙雑誌の売り上げの減少と男性向け雑誌の相次ぐ規制によって、それまでコンビニの一角を占めていた雑誌コーナーが縮小されるのと平行してイートインが拡大したのも一因とされる。

「このイートインも元は雑誌と書籍売り場でした。隅っこですからね、まさに男性向け雑誌やかさばる500円とかのコミック本が置かれていた場所です」

 このコンビニでは雑誌スタンドが2台まで減り、スタンドの上が一部、コミックや文庫本の棚になっている。

 かつてコンビニの入口側の壁すべてを覆い尽くしていた雑誌スペースは昔の話。しかし、いまやその代わりに拡充されたイートインスペースのはずが徐々に廃止となったり、極めて限られた時間のみの開放となったりしている。

 そしてついに2024年10月、ファミリーマートがイートインの全店舗廃止を決めた。2013年から設置され全店舗の約4割、約7000店舗に広がったイートインが原則、廃止となる。ごく一部に継続店舗もあるとするが基本的には廃止、そのスペースは売場面積の拡大に充てられるという。

「コロナ禍で使えなくなったままの店舗も多いと思います。ファミリーマートさんだけじゃないですね」

誰でも自由に使えるようにすると迷惑な人ばかりに

 確かに、数多くのコンビニを見てきたがイートインがいつのまにかコピー機を使う際の作業スペースに充てられていたり、おせちなどのチラシ置き場にしてそこで食べられないように塞がれていたりする。とくに無理やり作ったような狭小店舗のイートインが事実上の「廃止状態」になっている印象である。

「いろいろ言いたいことはあるのですが、どれから言おうかという感じです。それくらいイートインにはあまり良い思い出がないですね。コロナ禍以前は店のものを食べたり飲んだりでない不審な連中がたむろったり、仕事中の昼食とかで利用する方々のマナーも悪いことが多かった。誰でも自由に使えるようにすると、だいたい迷惑な人ばかりになって、普通の人はそこを利用しなくなるのです」

 規模はまったく違うが大型ショッピングモールのフードコートも同様の対策に悩んでいる。もっとも、そうした大規模施設は店舗人員も多く、また提供する各飲食店もそれなりの高単価で利益を上げているし、モールもその各飲食店から利益を得ているのでカバーできている面がある。

 しかしコンビニは店舗の規模は小さく、ましてや店自体の商品を食べたり飲んだりしてもらうだけでしかない。いや、それならまだましで、店のものを食べたり飲んだりしないのに使う人ばかりが居座るスペースになってしまった店舗もあるという。

「スマホやゲームの充電に使われるだけだったりします。注意してもお客様はお客様ですからね、100円ちょっとのおにぎり1つでも、ペットボトルのお茶でも使うことは構いません。でもそれでずっといるとか、それこそ目的外利用のほうが目的、なんて状態だと使いたい人が使えない、そういうことが多かったように思います」

 極端な話をすれば30円の駄菓子でもイートインは使える、しかし一席それで占拠されてスマホのフル充電まで複数の客に居座られてしまうと、数席しかないような店舗では肝心のお弁当などを食べるお客が「空いてないからいいか」と買い控えを起こしてしまうかもしれない。勉強机代わりに延々と居座る若者もいるという。客の善意に頼り、モラルを期待して成り立つサービスが近年、さまざまな業種で難しくなっていることは確かだ。

 もちろん、これは本当に地域にもよるしケースバイケースでしかないのだが、このようにすでにイートインのスペースを縮小、時間短縮しているコンビニは多数ある。

 コロナ禍のソーシャルディスタンスや青少年絡みの条例なども影響しているが、それに乗じてというか、あえて現場レベルでサービスを限定しているコンビニもある。一部ではコンセントを意図的に塞いでいる店もある。聞けば複数のモバイルバッテリーを延々と充電する人がいるから、とのこと。

 コンビニに限らないが「サービス」は本当につけこまれるばかりになったのかもしれない。逆に多くのまともなお客はそんなこと、しないのだから。

仕事が多すぎるコンビニで働きたくない

 また消費税、軽減税率の問題にもずっと悩まされてきたと話す。

「イートインとテイクアウトの確認も困りものでした。当初は決まりなので厳格にしていたのですが、持ち帰りと言ってイートインで食べる人がいて、だんだんと注意してもねえ……という感じになりました。いや、それがいけないなのはわかってますよ。でもそのいけないことをするのは誤魔化すお客さんのほうですから、なんというか」

 この件に関しては本当にかわいそうに思う。正直、現場も客も混乱させるしかない消費税、軽減税率に問題があるとしか言いようがない。イートインなら10%、テイクアウトなら8%、それは現場が客に意思確認しなければならない。

 国税庁はこう説明している。

〈「外食」に該当するか、「テイクアウト(持ち帰り販売)」に該当するかどうかは、事業者(売手)が飲食料品を提供する時点(取引を行う時点)で、顧客に意思確認を行うなどの方法によって判定します。なお、顧客への意思確認は、各事業者が販売している商品や事業形態に応じた、適宜の方法で行っていただくことになります〉

 2019年の導入だからいまさら怒っても、という話だが「適宜の方法で行っていただくことになります」とは釈然としない話で、当初はこの意思確認で揉めている光景を筆者も何度か目撃している。

 とにかく厳密に従うとなると複雑で「食事の提供の範囲」「黙示の合意の条件」「テイクアウトは軽減税率対象だがケータリングは『役務』なので標準税率」「有料老人ホームなどの食事提供は対象限度額までなら軽減税率」「出前は『譲渡』なので軽減税率」など、複雑極まりない。

 本稿とても説明し切れないため措くが、コンビニのイートインの話に戻るなら、結局のところこの軽減税率もまた客のモラル以上に足を引っ張ったように思う。

「そもそも、ただでさえやることの多いコンビニで年々仕事は増えるばかり。賃金は安いし仕事は多いしお客も様々、そんなコンビニで働きたくないという若者ばかりで中高年、いや外国人の方々も最近は敬遠します。この時給なら、他に仕事はありますからね」

 2023年の拙筆『各業界で深刻なアルバイト不足「代わりはいくらでもいる」時代は終焉』でも書いたが、この国の労働者が少子化とコロナ禍、インターネット文化の浸透による新たな価値観とその多様化によって選ばれる側から選ぶ側に移行し始めて久しい。

 とくに若者は顕著で、1990年代から2000年代に比べればなろうと思えば正社員になれるし、スキマバイトを始め労働形態も多岐にわたり、自分の都合でいくらでも選ぶことができる環境になりつつある。

 ファミリーマートのイートイン廃止や一部コンビニのイートイン縮小、サービス時間の短縮は結果的に「あまりにやることがあり過ぎる」従来のコンビニに対する問題提起にもなっている。ぶっちゃけ、やることを増やして金にならない、その最たるものがイートインとする関係者は社員、バイト問わず多かった。

イートインは儲からなかった

「(コンビニの)トイレやゴミ箱もそうですが、自由に使えるサービスは本当に一部の人につけこまれるのです。言葉は強いかもしれませんが、モラルも何もないような人が集まってくる。もちろん客の全部がそうというわけじゃありませんがね」

 コンビニの駐車場でたむろしていた昔ながらの「やんちゃ」が暑さ寒さをしのげるからとイートインにこれ幸いといつまでもたむろする、言い方が難しいが挙動のおかしな人が毎日来てはずっと居座り続ける──筆者は深夜、北関東でそういうカオスなコンビニを目撃したが、もはや店員も注意できない、聞けば警察もごくたまに来て注意するだけ。私見だが、コンビニに飲食スペースはあまりにスタッフの負担が大きく、まして地域の大半ではそのスペースを提供するほどの利益は上がっていないのではないかと思う。

 それでも、いまのところファミリーマートに追随しての「イートインの廃止」は聞かれないが、それに近い状況の店舗が各社見受けられる。一部のやりたい放題の客もまた、イートイン消滅の一因になっている。都心の歓楽街などもひどいケースは本当にひどく、酔っ払って小便を漏らす客や、何も買わずに充電してスマホで動画を観続ける者、何度注意されても机に突っ伏して寝る者などキリがないと言ってもいい。すべて現場の店員がレジ打ち、品出し、清掃と共にそういった人々を対応しなければならない。

 冒頭の店長とは別の元コンビニオーナーが話す。

「イートインは儲からなかった。客単価の低い客というより客じゃない人が来る。細かく言われることはなかったがイートインとテイクアウトで脱税だろう、と思うこともあったが意思確認をしても客が守らなければどうしようもない。言ってもキリがなかったし言ったら危険な客もいる。それが現実だった」

 それでも都心部、特にビジネス街のコンビニのイートインはお昼ともなれば大盛況である。それが売り上げにつながっているのかどうか──深夜帯ともなればそのスペースほどにお金を使ってもらえているとは正直思わない。そもそも24時間営業すらギブアップするコンビニが続々増えている。

 ファミリーマートはイートインを切る決断をした。現場の労働者と売上を考えればイートインが負担であったことは確かだろう。売場拡大により売上7%増を見込むということで、ファミリーマートからすればイートイン、その負担の割には、だったということか。

 便利な休憩スペース、スマホの充電スペースとして重宝されたコンビニのイートインの撤退や縮小もまた、この国の倫理と価値観の変化、そして「なんでも現場に押しつければいい」が通用しなくなり始めた、この国の労働観の変化の一端なのかもしれない。

日野百草(ひの・ひゃくそう)/出版社勤務を経て、内外の社会問題や社会倫理のルポルタージュを手掛ける。日本ペンクラブ広報委員会委員。

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