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《六代目山口組トップを狙う気だったのか》元神戸山口組No.2の初公判で提出された“戦慄のメモ用紙” 記されていた「司」「高山」の苗字と住所

NEWSポストセブン 2024年10月14日 16時59分

 なぜ神戸山口組No.2が自ら“鉄砲玉”に──10月8日から神戸地裁で行なわれた裁判員裁判に注目が集まっている。冒頭陳述で、中田浩司被告(65)は犯行を全面否認。3日間の公判で検察側が65個にも及ぶ証拠を提出したが、驚きの声が漏れたのは中田被告が逮捕時、所持していた1枚のメモの内容だった。そしてついに中田被告が口を開く時がきたのだった。【前後編の後編。前編を読む】

 2019年8月に発生した、六代目山口組の中核組織・弘道会の関連拠点前での銃撃事件。犯行直後から防犯カメラ映像が流出し、フルフェイスのヘルメットをかぶるヒットマンが、わずか2秒ほどの間で6発の銃弾(被害者には5発命中)を発射する瞬間が映されていた。

 衝撃が走ったのは同年12月。実行犯として中田被告が銃刀法違反容疑で逮捕されたことだ。中田被告は当時、神戸山口組の若頭代行。さらに神戸山口組の井上邦雄組長の出身母体であり、山口組の名門組織として知られる山健組の組長でもあった。

「警視庁の調査によると、事件が起きた2019年末時点で神戸山口組の構成員数は約3000人。中田被告は抗争の陣頭指揮を担う立場で、“やってこい”と命令を下す立場にあった。暴力団の抗争事件は厳罰化が進み、殺人となると無期懲役となってもおかしくない。もし中田被告が犯人であったのなら、なぜ自らヒットマンにならなければならなかったのか」(実話誌記者)

 初公判が行なわれた10月8日、裁判冒頭で弁護側は「検察が提出した証拠は、間接証拠」「立証に足る能力を有してはいない」と主張。検察は、犯行当日の午前と午後、実行犯と見られる男性の足取りを追った防犯カメラのリレー映像を証拠の核とし、「この実行犯が中田被告である」と主張。公判3日間の審理で、計65個の証拠を提出した。

 証人として防犯カメラの映像を分析した警察官も出廷した。防犯カメラに映った犯人と、警察が逮捕前に撮影した中田被告の顔写真を比較する「顔貌鑑定」を実施。
「ただし、防犯カメラの実行犯は帽子を深く被っていたため、鑑定項目が限られたことで、結論は『実行犯と中田被告はおそらく同一人物』というものになった。

 検察の質問で、“おそらく”の割合を問われると、証人は『経験からして80%ほど』と回答しましたが、一方で帽子で隠れていた3箇所のうち1箇所でも違っていたら別人という判断になるとも証言。こちらも中田被告が犯人だという決定的証拠と言い切るには厳しい印象を受けました」(同前)

「司」「高山」の名前が記されたメモ

 事件の捜査を担当した兵庫県警の巡査部長、警部補も証人として出廷。「防犯カメラをどのように収集したか」から「集めた映像をどう精査したか」などを証言し、検察も質問を繰り返したが、その質問、回答に対して弁護側から「中田被告を犯人だと決めつけている」などと異議が相次いで入った。

 裁判長も「捜査員の心象を述べているに過ぎない。客観的事実のみ述べよ」と検察に対して指摘するなど、法廷にはピリついた空気が流れていた。

 法廷が再びどよめいたのは検察が提出した1枚のメモ用紙だった。2019年12月、中田被告が逮捕された際に所持していたもので、「司」「高山」という名前と住所が記されていたという。

「司、高山は言うまでもなく、抗争相手の六代目山口組の司忍組長、高山清司若頭を指すものでしょう。そして、記されていた住所は、警察のデータベースによると、司組長、高山若頭の関係先、立ち寄り先と一致していたことが明かされた。

 高山若頭は銃撃事件があった2019年の10月に、約5年4か月の服役を終えて出所したばかり。今回審理されている事件の直接的な証拠にはならないが、中田被告が六代目のトップ2人に対し、何らかの事件を起こす考えもあったのではないかと驚きが広がった」(前出・実話誌記者)

 検察は、犯人が犯行時に使用した黒い原付バイク、犯行後に乗り換えた白いスクーターがそれぞれ山健組に関係する車体、中田被告に関係する車体であったという供述も提出。さらには中田被告の過去の逮捕歴も証拠としたが、いずれも中田被告が実行犯だとする決定的証拠は提出されなかった。

被告人質問で中田被告が口にした言葉

 検察が積み重ねた証拠に対して中田被告はどう供述するのか。10月11日午後に被告人質問が実施された。証言台に座った中田被告は背もたれに寄りかからず、背筋を伸ばし、胸を大きく張り、弁護士の「被告人質問にどう対応するか」という問いかけにこう答えた。

「すべて黙秘権を行使します」──その言葉通り、以後、検察の質問にはすべてこの一言しか口にしなかった。「事件当日の服装は?」「逮捕されたのはなぜ?」「犯人が中田被告の家に入ったのは?」という事件の核心に関わる質問は当然のこと、経歴、肩書といった公判冒頭の人定質問では口にしていた質問に対しても「黙秘権を行使します」と答え続けた。

 裁判官の質問に対しても「誠に申し訳ありませんが」と口にしたものの同様の対応だった。一般市民から選ばれた裁判員の「利き手はどちらですか?」という質問に対しては予想外だったのか、弁護士の顔を見る一瞬の間があったものの答えは変わらなかった。

 公判は10月15日に弁論手続が行なわれ、検察側の論告・求刑、弁護側の弁論、最後に被告人の最終陳述が予定されているが、「中田被告は被告人質問同様、黙秘を貫くのではないか」(前出・実話誌記者)と見られている。直接証拠もなく、被告の証言もないまま判決を迎えることになる。

「直接証拠がなく、裁判官の『推認』による判決といえば、2021年8月、九州の特定危険指定暴力団・工藤会の野村悟総裁への福岡地裁の死刑判決が有名です。

 しかし、今年3月の福岡高裁での控訴審では、『推認の死刑判決に無理があった』として一部事件を無罪とし、一審判決を破棄し、無期懲役に減刑され大きな話題になりました。このように暴力団の抗争事件は難しい判断を迫られることが多く、裁判員裁判の対象外となるのがほとんど。そのため今回の裁判は一般市民がどういう評議、評決を行なうのかに注目が集まっている」(同前)

 中田被告への判決は10月31日に言い渡される。

(了。前編から読む)

 

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