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【松永玲子・佐藤真弓・有森也実に聞く】「50代はまだやり直しがきく」酸いも甘いも知る3人の女優が明かした意外な“片づけたいもの”

NEWSポストセブン 2024年10月16日 10時58分

 初演から20年、多くの演劇人によって再演されてきた舞台『片づけたい女たち』。高校時代からの女友だち3人が、50代半ばを迎えて抱く思いや痛み、悲喜こもごもをコミカルに描いた本作。登場人物と同年代となった3人を演じるのは、平成、令和と役者業と向き合ってきた女優の松永玲子さん、佐藤真弓さん、有森也実さん。本格的な稽古がはじまったばかりの某日。松永さん、佐藤さん、そして有森さんに、本作に対する思いや、それぞれの「片づけたい」エピソードを語ってもらった。話題はいつしか、プライベートへと脱線するのだった──。【前後編の前編】

──2004年の「グループる・ばる」による『片づけたい女たち』の初演から、今年でちょうど20年になります。この「20年」をどのように感じられていますか。

松永玲子(以下、松永):最初に本を読んだときは、ごく一部の単語を除き、特に時代の違いを感じることなく、シンプルにおもしろいと思いました。ただ、いざ自分が発する台詞として覚えはじめると、登場人物と同じ世代であるはずの今の私が、日常的には使わない単語がちょこちょこと出てきた。

──たとえば?

松永:私が演じる「ツンコ」の台詞で言うと、「サンキュー」とか(笑)。

佐藤真弓(以下、佐藤):確かに、私もサンキューは使わないかな。昔の「バ~イ」みたいな感じよね。

有森也実(以下、有森):ごめん……私、使うかも(笑)。

──20年前のご自身や、当時の世の中を思い返しましたか。

佐藤:実は、ちょうどその頃のことって、ほとんど覚えていないんです。今回、20年前のことを思い出そうとして、ぽっかり記憶が抜けていることに改めて気づきました。

有森:今回の本を読んでいても感じたのですが、やっぱり20年前と現在とでは、世の中全体の「がむしゃら感」みたいなものが違いますね。それこそ、朝まで飲むという遊び方もそうですし、仕事に対する熱さみたいなものも、「自分ファースト」な今とではまったく違うように感じます。

──本作では、登場人物3人の「50代半ば」という年齢が大きな要素になっています。初演の頃の「る・ばる」の3人(松金よね子、岡本麗、田岡美也子)と同様、現在のみなさんがまさに50代半ばを迎えているわけですが、日々の暮らしのなかで「50代」という年齢を感じたり、考えたりすることはありますか。

松永:朝、目が覚めたとき、自分の体の状態がどうなっているか、確認作業が必要になった(笑)。調子がよくなっている場合もあるけど、逆にどこかが悪くなっていることも。『寝たらリセットされる』というような睡眠神話は、もう通用しない。かつて、先輩方からそういった話を聞かされたときには、『またまた~、大げさに話を盛っちゃって~』なんて思ってたけど、ちっとも盛ってなかった(笑)。

佐藤:友人からの報せが、「子供が生まれた」ではなく「孫が生まれた」になってきた(笑)。あと、離婚をしたり考えたりする人も増えましたね。私たち演劇周りはともかく、一般的な人生を送っている人、特に女性にとって「50代半ば」というのは、自分のこと、これからのことを見直す年代なんだと思います。

──世の男性たちにとっては、怖い話ですね。

有森:たぶん、そういう時期なんですよね。60代半ばを越えてしまえば、諦めるというか落ち着くのかも知れませんが、50代ぐらいだとまだやり直しがきく。肉体的にもなんとか余力があり、方向転換して新しいことにチャレンジできる。一方で、いろんなことを受け容れる懐の広さのようなものも若いときより身につけているので、離婚であったり転職であったりと、行動の「振り幅」が大きくなる時期なのかなと。ある意味、ドラマチックな世代とも言えますね。

──終活へ向かうにはまだ早い。まだまだできるし、まだまだやらなくちゃいけない。その辺りが50代のおもしろさであり、また煩わしさでもあるような気がします。

松永:やらなくちゃいけないと感じつつ、そのままでも大きな支障はないから、気づいていないふりすることが増える(笑)。本当に鈍感になったわけではないんだけれど、鈍感力をたてにして見送る。ただ、そうすることで、生きるのが楽にもなっている部分もあるんですよね。

佐藤:部屋の片づけひとつにしても、「今年中に片づけなきゃ」と思ってはいるんだけど、若い頃の「今年中」と50代の「今年中」では、容量がまったく違う。ホント、あっという間に過ぎていく。ここを片づけようと思っているうちに、別の場所に新たな山ができている(笑)。もちろん、その山を見れば胸がザワザワッとはするんだけど、ザワザワしっぱなしだとしんどいので、気づかないふりをして通り過ぎる。気づいていないことにすれば、まぁ大丈夫なので(笑)」

──有森さんはいかがでしょう。気づかないふりをして保留にしていること、ありますか。

有森:片づけるということに関して言えば、私の場合、「もったいない」って気持ちが邪魔しているかも。子どもの頃から、貧乏性なんです。そんなクタクタになるまで使わなくても、世の中には便利なモノがいっぱいあるし、そっちへ体をあずければ棚のなかもきれいに片づく。

 分かってはいるんですが、どうしてもできない。もうこれが自分のやり方なんだから、これでいいんだと思って、無理矢理にでも決着をつけるしかないですよね。パートナーやお子さんがいたら話は違うのかも知れませんが、独り身の自由さでなんとか折り合いをつけながらやっています。

──『片づけたい女たち』は、まさしくツンコの散らかった部屋の片づけを軸に進んでいきます。みなさん、片づけは得意ですか。

松永:はい、不得意です(笑)。いろいろと人に聞いてみると、片づけ下手にもいろんなパターンがあるみたいですね。私の部屋は確かに散らかってはいるんですけど、押し入れや引き出しのなかはめちゃくちゃきれい。そうかと思えば、片づけ上手でモノを定位置に置かないと気が済まないような人が、棚に溜まったホコリをまったく気にしなかったりする。

有森:私は、片づけはわりと好きな方。目に見えているところは、散らかっているのもホコリが溜まっているのも嫌なんです。でも、引き出しのなかはわりとぐちゃぐちゃ(笑)。

佐藤:片づけられないなら「見ないで捨てる」って作戦もあるんだけど、50年生きているとそれぞれに思い出があって、なかなかスッパリとは切れない。何年も使わず、存在すら忘れていたようなモノでも、1回見ちゃうと思い出が……。どうせ、そのあとも絶対使わないんですけどね(笑)。

──人それぞれの片づけられないパターンには、個人個人の生きざまみたいなものが映し出されているのかもしれませんね。

3人:怖い怖い怖い!(笑)。

(後編に続く)

【告知】
10月18日より、新宿シアタートップスで上演される舞台『片づけたい女たち』。ツンコ(松永)、おチョビ(佐藤)、バツミ(有森)の3人は高校のバスケ部からの友人。50歳を過ぎたある日、ツンコの部屋の片づけを手伝うことに。思い出話は尽きることなく、それぞれの生き方なども見えてきて……。

【プロフィール】
松永玲子(まつなが・れいこ)/大阪府出身。1994年より劇団「ナイロン100℃」に所属。舞台を中心に映像やナレーション、コラムニストとして幅広く活躍。連続テレビ小説『あさが来た』(NHK)などに出演。

佐藤真弓(さとう・まゆみ)/東京都出身。振り幅の大きい演技で舞台、映画、ドラマで活躍。劇団『猫のホテル』に参加し、映画『クライマーズ・ハイ』、NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』などに出演。

有森也実(ありもり・なりみ)/神奈川県出身。雑誌モデルとして活動後、1986年に映画『星空のむこうの国』で女優デビュー。1991年、ドラマ『東京ラブストーリー』(フジテレビ系)で“関口さとみ”を演じて注目を浴びた。

撮影/山口比佐夫

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