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【石坂浩二ロングインタビュー】27才での大河ドラマ主演を振り返る「特別な苦労は感じなかった。楽しい思い出ばかりでした」

NEWSポストセブン 2024年10月18日 7時12分

 83才、押しも押されもせぬ芸能界の重鎮──しかし、「どうもどうも」と笑みをたたえてやってきた石坂浩二(83才)の素顔は、飄々としていて親しみやすさにあふれる。趣味のプラモデルの話ともなれば、少年のように目を輝かせて話が止まらなくなるほどだ。浅利慶太さんや市川崑さんといった名演出家や名監督らに愛されてきた石坂の魅力は、演技力と存在感、そしてこの人柄ゆえか。2025年のNHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』への出演も決まっている名優に、66年の役者人生を振り返ってもらった。【全3回の第1回】

大河ドラマは創成期から出演

 俳優なら一度は目標として掲げる“到達点”のひとつに、NHK大河ドラマへの出演がある。石坂浩二はこれまで、大河ドラマ11作品に出演し、そのうち『天と地と』(1969年)、『元禄太平記』(1975年)、『草燃える』(1979年)の3作品で主演を務めた。

 そして来年、14年ぶり12作目となる大河ドラマへの出演が決まっている──。

「ぼくが初めて大河ドラマに出演したのは、1963年の『花の生涯』で、これが大河ドラマの第1作。当時は“大型時代劇”とされ、“大河ドラマ”と呼ばれるようになったのは、2作目の『赤穂浪士』(1964年)からでした。NHKが打ち出した通称ではなく、視聴者の間で自然と定着していったんです。ひとりの人間の生涯を描くので、それが大河のようだ、ということでね」(石坂・以下同)

 つまり石坂は、大河ドラマの創成期から出演し続けてきたというわけだ。『花の生涯』に続き『赤穂浪士』にも出演したが、これらの作品では役名がなく、3作目となる『太閤記』(1965年)で石田三成役に抜擢された。

「まさかと思いましたね。ぼくはこの前年、俳優の高橋幸治さんとドラマ『父と子たち』(中部日本放送)に兄弟役で出演していたのですが、この作品が芸術祭の文部大臣賞を受賞したんです。それを『太閤記』のディレクター・吉田直哉さんが見ていて、出演をオファーしてくださった。そして高橋さんが織田信長役を、私が石田三成役をいただいたんです」

 石坂はこの大河で初めてせりふのある役として出演、好評を得た。そして1969年『天と地と』では主演の上杉謙信役を獲得。27才のときだ。

「ぼくは演技においていつも緊張感を持っていますが、プレッシャーという意味での緊張はしません。ですから、主演といっても特別な苦労は感じませんでした。同年代の男ばかりが集まって、鎧を着たままメシを食べたり雑談したりして……。最初は苦痛だった鎧の重みにもだんだん慣れてくるんですよ。武田信玄役は高橋さんでしたし、楽しい思い出ばかりです」

 これ以降、石坂へのオファーは途切れることなく、それはいまも続く。倉本聰さん原作・脚本の映画『海の沈黙』の公開も11月に迫っている。そんな石坂の役者としての原点はどこにあるのか──。

高校生にして民放ラジオの脚本家に

「演劇の世界に興味を持ったのは、祖母の影響が大きいですね」

 祖母は幼い石坂を連れてよく東京・浅草に行き、芝居や落語などを楽しんでいたという。おのずと演劇に興味を持つようになり、中学1年生のとき、同級生と演劇部を立ち上げた。

「当時の演劇界にはまだ戦後のにおいが漂っていて、社会主義に傾倒した作品が目立っていました。中学生なんて何事にも反発したい年頃。“社会主義はおかしい、やっぱり資本主義が正しいのではないか”なんて、次第に17世紀フランスの古典主義に傾倒していきました」

 高校へ進むと、アメリカ演劇に詳しい「俳優座」養成所の講師、故・中田耕治さんから影響を受けるようになる。

「17才の頃、中田さんの講義に通っていたのですが、そこでラジオ局の人とご縁ができ、民放ラジオの台本を書かないかと誘われました」

 ラジオのDJといえば、フリートークができて当たり前だが、昭和30年代は違った。DJを務めるのが映画スターだったからだ。当時は映画スターのテレビ出演が認められておらず、ラジオが映画に次ぐ活躍の場だった。ところが当時のスターは台本がないとしゃべれない。それでラジオの台本書きが求められ、高校生の石坂もそのひとりとして仕事をするようになったのだ。

(第2回につづく)

【プロフィール】
石坂浩二(いしざか・こうじ)/1941年、東京生まれ。高校在学中の1958年、テレビドラマ『お源のたましい』(KRTV・現TBS)にエキストラ出演。演出家の故・浅利慶太さんに誘われ、慶應義塾大学法学部卒業後、「劇団四季」へ入団。1963年の『花の生涯』を皮切りに『天と地と』(1969年)、『元禄太平記』(1975年)、『草燃える』(1979年)などNHK大河ドラマに多数出演。1976年には映画『犬神家の一族』(東宝)に主演し、以後、市川崑監督作品の“顔”に。作家、司会者、ナレーターなどでも活躍。2009年NHK放送文化賞を受賞。画家としては1974~1985年まで二科展に連続入選。

【今後の出演情報】
映画『海の沈黙』
 脚本家・倉本聰さん(89才)が半世紀以上温めていた構想を映画化。贋作絵画を巡る人間模様を描く。主演は本木雅弘(58才)。石坂は著名な画家役で出演。11月22日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開(配給・宣伝:ハピネットファントム・スタジオ)。

NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
 2025年1月5日から放送予定。江戸時代の“出版王”とされる蔦屋重三郎の生涯を描く。主演は横浜流星。石坂は徳川吉宗・家重・家治の将軍3代に仕えた老中首座・松平武元役。

取材・文/上村久留美 撮影/政川慎治

※女性セブン2024年10月24・31日号

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