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《割とノーテンキなんですよ》芸歴66年・石坂浩二インタビュー「若さの秘訣? そんなものはないけど、何事も気負わないでやるのが長続きしていいのかな」

NEWSポストセブン 2024年10月20日 6時59分

 デビューから66年、第一線で活躍し続けている俳優・石坂浩二(83才)。芸能界の重鎮でありながらも、趣味のプラモデルの話ともなれば、少年のように目を輝かせて話が止まらなくなるほど、親しみやすい一面も持っている。そんな石坂にロングインタビュー。最終回となる第3回では、生きる流儀を聞いた。【全3回の第3回。第1回から読む】

退院日に「今晩、ビールを飲んでもいいですか?」

 劇団四季の創設者である浅利慶太さんや映画監督の市川崑さんなど、数々の“恩師”たちの下で経験を積んだ石坂は、演技において、“冷めた部分を持つ”ことを心がけるようになったという。

「ぼくは演技をするとき、絶えず自分のほんのちょっと外側を見ている自分がいるようイメージしています。うまくいっているときは自分ではない、いろいろな人の仕事の成功が重なったとき。そう考えるとうまくいかなかったときの理由が分析しやすい。もちろん、家に帰ってクヨクヨすることもありますよ。そういうときは、好きな絵を描いたりプラモデルを組み立てたりしながら、頭の中で理由を考える。

 ただし、その日限りね。それ以上はほじくり返さない。割とノーテンキなんですよ」(石坂・以下同)

 この性分は闘病でも生きた。

「2002年のこと。テレビドラマ『水戸黄門』(TBS系)で4代目の水戸光圀を演じている最中に直腸がんが判明しました。ステージ3でした。ショックを受けるかと思ったんですけどね、少し前に同じ直腸がんを患って手術をした義弟がピンピンしていたから平常心でいられました」

 このとき60才。手術は無事に終えたが、前年に一般女性と再婚したばかりだったので、妻に心配をかけたのが心苦しかったという。幸い順調に回復し、転移も見られなかったため、退院日、石坂は主治医にこんなノーテンキな質問をしたという。

 今晩、ビールを飲んでもいいですか?──。

「先生からは“そんな石坂さんだから傷の治りも早いんでしょう。内臓も若かったですよ”って言われました。帰ってからビール? もちろん飲みましたよ(笑い)」

集中できるものがあると“生きる力”になる

 そしてもうひとつ、石坂が意識していることがあるという。それは“集中する時間をつくる”ことだ。

「ぼくは料理も好きだし、絵を描いたり、プラモデルを作ったり、読書をしたりするのも好き。集中できることが好きなんです。集中できるものがたくさんあるとそれが“生きる力”になる。キャンバスも本もプラモデルも出しっぱなしにしておいて、どんなに忙しくても毎日ちょっとずつやっています。しまい込むとやらなくなるから(笑い)」

 テーブルを4つ置き、それぞれの趣味の道具を並べ、その日の気分でいずれかに没頭する。中でもいまはプラモデルに夢中だという。

「プラモデルとの出会いは小学生の頃だから、モデラー歴は70年以上。俳優業より長いね(笑い)」

 いま再びプラモデル作りに熱が入るのは、2009年にプラモデルクラブ「ろうがんず」を結成したから。

「この当時、仕事をリタイアした60代の友人たちに会ったのですが、仕事ばかりで何もやってこなかった彼らは、それまでと大きく生活が変わり、元気がなくなっていました。そういう人たちも子供の頃はたいてい、プラモデルを作ったことがあった。ではまた作ってみたらいいのでは?と思って結成しました」

 現在、会員は15名。石坂の妻もメンバーの一員で、一緒にプラモデル作りを楽しんでいるという。

「船舶や車など、皆それぞれ自分の好きなものを作っています。ぼくが作るのは飛行機。資料を読んだり、飛行場で実物を眺め、塗装がどうなっているか観察したりするのも楽しいんですよ。細かな作業は女性の方が上手なので、部分的に妻に手伝ってもらうこともあります」

 定期的に展覧会も開催しているそうだ。

「若さの秘訣? そんなものはないけど、何事も気負わないでやるのが、長続きしていいのかな、と思いますね。ひとりで続けるのは大変だから、月1回でも仲間と集まって作る。いまはこれが楽しいんですよね」

 次は3Dプリンターを使おうか、同じ飛行機をもっと凝って作ろうかなど、やりたいことが尽きない石坂。その姿勢が周囲を魅了し、仕事にもつながるのだろう。

(了。第1回から読む)

【プロフィール】
石坂浩二(いしざか・こうじ)/1941年、東京生まれ。高校在学中の1958年、テレビドラマ『お源のたましい』(KRTV・現TBS)にエキストラ出演。演出家の故・浅利慶太さんに誘われ、慶應義塾大学法学部卒業後、「劇団四季」へ入団。1963年の『花の生涯』を皮切りに『天と地と』(1969年)、『元禄太平記』(1975年)、『草燃える』(1979年)などNHK大河ドラマに多数出演。1976年には映画『犬神家の一族』(東宝)に主演し、以後、市川崑監督作品の“顔”に。作家、司会者、ナレーターなどでも活躍。2009年NHK放送文化賞を受賞。画家としては1974~1985年まで二科展に連続入選。

【今後の出演情報】
映画『海の沈黙』
 脚本家・倉本聰さん(89才)が半世紀以上温めていた構想を映画化。贋作絵画を巡る人間模様を描く。主演は本木雅弘(58才)。石坂は著名な画家役で出演。11月22日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開(配給・宣伝:ハピネットファントム・スタジオ)。

NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
 2025年1月5日から放送予定。江戸時代の“出版王”とされる蔦屋重三郎の生涯を描く。主演は横浜流星。石坂は徳川吉宗・家重・家治の将軍3代に仕えた老中首座・松平武元役。

取材・文/上村久留美 撮影/政川慎治、平野哲郎

※女性セブン2024年10月24・31日号

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