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【現地発ルポ“斎藤前知事現象”】増殖中の支持者に共通する「メディア不信」「大多数がSNSで情報収集」 本人も告白「応援が増えているのは実感しています」

NEWSポストセブン 2024年10月19日 7時15分

 知事による「パワハラ」や「おねだり」など様々な疑惑の告発文書で大きく揺れた兵庫県政。11月17日に出直し知事選の投開票を迎えるが、現地では意外な風が吹いていた。ジャーナリスト・赤石晋一郎氏がレポートする。

 * * *
 目を疑うような光景だった。

 10月11日早朝、兵庫県神戸市の三宮駅前には100人近くの人だかりができていた。中心には、ピンと伸びた背筋のまま頭を下げる斎藤元彦・前兵庫県知事の姿があった。

「斎藤さん頑張って!」
「斎藤さ~~ん!」

 嬌声があがり、拍手が沸き起こる。一緒に写真を撮るための列を作り、色紙にサインをもらい、手紙を渡す人もいた。

 斎藤氏は「鋼のメンタル」「鉄面皮」と呼ばれ、全県議86人からNOを突き付けられて失職したばかりの人物である。悪役が悲劇のヒーローに転生したような錯覚すら覚える光景なのだ。

「テレビは酷くて涙が出る」

 斎藤氏を巡る報道は日本中を席巻した。

「問題の発火点は西播磨県民局長が作成したパワハラなどを告発した文書だった。内部調査で県民局長は解任され、百条委員会前に自死した。告発者の調査を指示し、文書を『嘘八百』『誹謗中傷』と公言した斎藤氏は批判にさらされることになった」(社会部記者)

 在阪テレビは斎藤氏を「おねだり知事」と命名、パワハラ疑惑、おねだり疑惑が連日報じられた。兵庫県議会は不信任決議を突き付け、斎藤氏は9月30日付で失職した。

 だが、斎藤氏は「県民の信を問いたい」と出直し県知事選への出馬を表明。失職直後から駅前での辻立ちを始めていた。

 三宮駅前に集まった人たちは女性が8割、男性が2割ほどだろうか。高校生と思しき若者の姿もある。仕事を休んで駆けつけたという30代男性はこう語った。

「政治家に興味を持ったのは初めてです。斎藤さんは、前の知事より改革をしていた。テレビ報道ですか? テレビは偏っているから見ませんね」

 50代女性は、井戸敏三・元兵庫県知事時代の悪弊が斎藤バッシングの背景にあると憤慨する。

「井戸チルドレンのからくりが透けて見える。テレビは酷くて涙が出る。権力争いのなか、斎藤さんは一人で頑張ってはるから応援したい」

 街頭に立つ斎藤氏に冷ややかな目線を送り通り過ぎる人もいる一方、斎藤氏のもとに集まった人たちにはいくつかの傾向を見ることができた。

 まず、「マスゴミ」という言葉に象徴されるメディア不信だ。斎藤氏の辻立ちにはNHKをはじめテレビ・新聞記者が集まっていたが、「偏向報道を止めてください」「顔相に出ているよ。マスゴミが!」といった言葉を投げつけられていた。

 もう一つは、「県立大学無償化」などの斎藤氏の“改革”を支持する傾向だ。

「気になって調べたら、子ども教育に力を入れている。身近な問題に取り組んでくれているので支持したい」(50代女性)

 こうしたSNSで情報収集している層が聴衆の大多数であることも、特徴の一つだろう。

 メディアとネットの分断を示すかのように、SNSには「#さいとう元知事がんばれ」などと支援する投稿が増えた。失職を選択したことを報告した斎藤氏のⅩのポスト(9月26日)には2800万以上のインプレッション(表示回数)がついた。兵庫県民が約540万人であるから、まさに異常値である。

 地元県議はこう語る。

「SNSの過熱が、街角でも目に見えるようになった。都知事選の時の“石丸現象”のようなことが起こるのではないか、と警戒する声が議員からも上がっています」

 東京都知事選では無名の新人候補だった石丸伸二氏(前安芸高田市長)が165万票を集め小池百合子氏に次ぐ2位と躍進した。SNSを中心とした選挙戦は“石丸現象”として話題になった。

 兵庫県知事選では元尼崎市長の稲村和美氏など7人が乱立。知名度で群を抜く斎藤氏のSNSを中心とした人気が高まれば“台風の目”となる可能性はあるだろう。

 斎藤氏は三宮駅に立った翌日には姫路・加古川・明石駅前で辻立ちを行なった。各所で40人、50人と握手を求める人の長蛇の列ができていた。

「当初は『人殺し』など罵声も浴びたが、最近は応援する人が倍々で増えた。ボランティア希望も多い。斎藤自身も予想外で戸惑っている」(後援者)

 日本維新の会の地元議員はこう危機感を語る。

「情けないのはいち早く“斎藤降ろし”に動いた自民党です。いまだ独自候補を立てられない。彼がここまで意地を張るとは誰にも予想できなかった。脅威ですよ」

「私は強い人間ではない」

 当の本人は、今の状況をどう受け止めているのか。斎藤氏に話を聞いた。

「コーヒー……、いや止めておきます」

 ウェイターに注文を聞かれた斎藤氏は一瞬、逡巡の表情を見せた。取材でも“おねだり”した、と誤解されることを気にしたのだろうか。

──街頭で「人殺し」などとも言われたとか。

「そういう感じでもなく……。やはり報道を見て悪人と思われるところがあった。私自身も良くなく、ハラスメントと疑われても仕方がないことをした。反省をしています」

──文書問題では元県民局長が自死された。

「亡くなられたことは大変悲しい。心からお悔やみを申し上げたいし、辛い思いがすごくある」

──毎日、辻立ちを?

「最初は須磨駅から始めたのですが、すごく緊張した。(文書問題などで)直接県民の皆さんと接することがなかったので」

──SNSでは擁護の声が増え、辻立ちにも人が群がっている。

「応援していただいている方が増えていることは感じています」

──“石丸現象”のようなことが起きている?

「石丸さんの選挙はしっかりした体制のなかでやられた。私自身は組織や支援もない一人なので比較できない。私自身は器用な人間ではなくSNS受けするタイプでもない。人を断じたり、派手なこともできない。役所出身というのもあるかもしれません」

──いろんな方から手紙をもらうことが多い?

「今日も5通頂きました。全て目を通しています。(出馬で)自分の道を貫かせていただいたことを応援していただけている。私も決して強い人間ではない。世の中にはすごく辛い思いをしている方が多く、私の状況に何かを感じている方が多いのだと思っています」

 混迷のなかでの出直し知事選。兵庫県民はどのような審判を下すのか。

【プロフィール】
赤石晋一郎(あかいし・しんいちろう)/ジャーナリスト。「FRIDAY」「週刊文春」記者を経て2019年よりフリーに。近著に『韓国人、韓国を叱る 日韓歴史問題の新証言者たち』(小学館新書)、『完落ち 警視庁捜査一課「取調室」秘録』(文藝春秋)。『元文春記者チャンネル』をYouTubeにて配信中。

※週刊ポスト2024年11月1日号

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