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【保守とは何か】呉智英氏「家族観は時代ごとに変わるもの」夫婦別姓について慎重論に転じた石破首相は保守といえるのか

NEWSポストセブン 2024年10月21日 7時15分

 来る総選挙は、自民党総裁の石破茂首相と野党第一党・立憲民主党の野田佳彦代表がともに「保守」を自任する政治家としてぶつかり合う。だがこの2人、果たして“本物の保守”なのか。評論家の呉智英氏が、石破自民のスタンスについて分析する。

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 日本の政治では「保守」と「革新」が対比で使われてきた。革新は文字通り、改革して新たにする。保守は、むやみに改革などせず、基本的に現状を守り、かつ伝統を守るというスタンス。

 そのような定義に基づけば、自民党では池田勇人・首相がつくった宏池会が一番保守というものを代表していたと考える。いわゆる「岩盤保守」は改憲を声高に訴えているが、憲法9条を尊重する姿勢のほうが現状を守るという保守のスタンスに当てはまっている。

 石破氏は、憲法9条2項の「戦力の不保持」の改正を正面から言っている。では、保守ではないのかというと少し違う。

 自衛隊を軍にすることについては、過去60年、「ここまでは軍」「ここまでは自衛隊」という議論がどんどん変わってズルズル装備を拡充してきた。

 しかし、世界の動静を見ると、いつかはっきり軍として運用しなければならない方向にある。具体的には、北朝鮮が挑発してくるといったことがあるわけで、戦争や紛争が起こり得る。だから何らかの形で軍備というか、自衛隊という存在をはっきりさせなくてはならない。

 その意味で、石破氏は宏池会のような現状維持の保守ではないけれども、現実を見た保守派なのではないか。

 保守と呼ばれる人のなかには、夫婦別姓を認めると日本の伝統的な家族観に反し、家族の破壊が起きると言う人がいる。それに対して石破氏は総裁選の前に「夫婦が別姓になると家族が崩壊するとか、よく分からない理屈があるが、やらない理由がよく分からない」と主張していた。

 民俗学の研究を見ると、家族観は時代ごとに変わっている。たとえば平安時代には、嫁さんを次々と変えるという貴族の風習があった。光源氏なんかが典型的でしょう。一般民衆のなかには夜這いの風習もあったし、これは明治ぐらいまでは普通に行なわれていた。明治時代に西洋文化が入ってきて、日本は「一夫一妻制」の文化が定着していったが、一方で妾制度も残っていた。このように家族観については、民俗学的に見てもその時代ごとで違っていたと言われている。

 夫婦別姓の議論をするにあたっては、夫婦同姓にしていることで守られていた権利がどうなるか、別姓にすることで得られる利益は何か、それをクリアにして議論しなければならない。多くの人の同意が得られて、かつ、政治の側でも別姓にしてもいいとなれば、夫婦別姓にすればいいだけ。

 そのように慎重な姿勢、態度を取るのが保守だと考えられる。

 石破氏は首相就任後、夫婦別姓問題は「家族の根幹にかかわる」として、慎重論に転じたように見える。「伝統だ、伝統だ」と唱え、別姓にすると家族破壊が起きると主張する党内勢力に足を引っ張られたのかは分からないが、そうした党内勢力は、保守とは呼べないだろう。

【プロフィール】
呉智英(くれ・ともふさ)/1946年生まれ、愛知県出身。評論家。日本マンガ学会理事。『日本衆愚社会』『バカに唾をかけろ』(ともに小学館新書)など著書多数。近著に『言葉の煎じ薬 言葉の診察室4』(ベスト新書)など。

※週刊ポスト2024年11月1日号

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