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「隣人ガチャ」にハズレたタワマン住人の嘆き 「中国人が10数人で暮らし始め…夜は大きなカラオケ音が…」転居を決めるまでの顛末

NEWSポストセブン 2024年10月21日 16時15分

 ネットスラングで「●●ガチャ」とは、自分では選べないが重大な結果をもたらすものを呼び、2021年の新語・流行語大賞トップ10に選ばれた「親ガチャ」によって広く知られ、応用されるようになった。そのひとつに転居先、新居の隣人からの過度なクレームや迷惑行為に悩まされるなどしてトラブルになる「隣人ガチャ」がある。ライターの宮添優氏が、ある日突然、隣人ガチャが外れた普通の人たちの悩ましい日々についてレポートする。

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 ターミナル駅から近い、東京・豊島区内の瀟洒なタワーマンション。かつて、ここの上層階の住人だったという会社経営者の男性(50代)が、タワマンを見上げながらつぶやく。

「場所も気に入っていたし、永住も考えていたほどです。”隣人ガチャ”で外れを引かなければね」

 男性がそのタワマンを購入したのは6年ほど前。購入者のほとんどが自宅として住んでいたが、その後、不動産価格高騰などにより資産価値が上がりはじめると、高値で売り抜き退去する住人もいた。男性の隣の部屋も同様で、間もなくやってきた新しい住人は、ほとんど日本語を話せない中国人6人の一家だったという。

「生活とか考え方の違い…と言われればそれまでかもしれませんが、マンションの内廊下、共用部分で子どもを大騒ぎで遊ばせたりゴミを置きっ放しにしたりなど、あり得ないことばかり。そもそも、わりとハイグレードなマンションなので、裕福な住民が多い。あの中国人一家も裕福そうで、頭も良さそう。話せばわかってもらえる、なんて思っていたんですよね」(男性)

 管理人を通じて、中国語の注意文を手渡すと、中国人一家も「スミマセン」と謝罪。それから数日間は静かだったものの、その後状態は悪化した。間もなくして、親族らしき中国人がさらに数人やってきて、同居を始めたのだ。部屋はおそらく3LDKの一般的な間取りで、広くとも90平米ほどのはずだが、そこに10数名が暮らしていることになる。朝晩はそれまで以上に騒がしくなり、夜にはカラオケの音が建物中に響き渡り始めると、別フロアの住人や組合でも問題になった。だが当の家族からは「賃貸ではなく、自分で買った家に住んでいるのだから文句を言われる筋合いはない」と無視を決め込まれた。

「隣人ガチャに外れたら、外れた人間が引っ越すしかないでしょう。マンションはすでに賃貸にまわし、別に戸建てを購入しました。買う前に入念に調査しても、後からやってきたのがハズレの隣人ということもある。難しいですね」(男性)

 絵に描いたような、といえば失礼だが、まさに「隣人ガチャ」でハズレを引いた典型例だろう。こうした「隣人」にまつわるトラブルは想像以上に多いようで、SNSをのぞいてみると「隣人ガチャに外れた」「引っ越したい」等の書き込みがあちこちに散見される。

向かい2軒が朝から夜まで怒鳴り合っている

 SNSで「隣人ガチャに外れた」例を見つけていくと、戸建を購入したものの、隣宅の生活音がうるさい、子どもが騒々しい、さらには駐車スペースからはみ出して車を止められる、などいくらでも出てくる。一方で、側から眺めているだけの第三者にとってみると「そんな大袈裟な」と言いたくなるような訴えばかりに見えるが、実際に経験した人に言わせると筆舌に尽くしがたい辛さだという。

 中部地方在住の公務員男性(40代)は、今まさに、向かいに並んだ2軒の「お隣さん」同士の「隣人トラブル」に巻き込まれている真っ只中だという。

「自宅の向かいの2軒の家が、お互いにうるさい、邪魔だと朝から怒鳴りあっているんですよ。車のクラクションも1日に何度も鳴らされるし、夜だって怒鳴り声が聞こえる時がある」(公務員の男性)

 男性によれば、周辺はまだ完成して数年の新規分譲地で、2軒はちょうど同時期に新築の家に引っ越してきたのだという。しかし、片方の家の子供が自宅前の公道でバスケットボールをつくようになり、バンバン、という音が付近にこだまするようになった。当初、もう片方宅の主人もその様子を微笑ましそうにみていたが、その後間も無く「ボールがうるさいんだよ!」と怒鳴り散らすようになったという。

「ボールをつく音は確かに大きくて、家の前でやられると、家全体に衝撃が伝わってくるような感じでかなり不快なんですよ。まあそれでも、子供さんだからと我慢してたんですけどね、お隣さんは我慢できなかったんでしょうけど。仕返しなのか、今度はそのお隣さんが、迷惑駐車したり、子供が遊べないよう水を撒いたりしはじめた。もう泥沼ですよね」(公務員の男性)

 このいざこざは地域中に知れ渡り、男性を含めた近隣住人は固唾を飲んで見守るしかなかったが、事態はさらに悪い方向へ向かっていく。男性の妻がSNSで偶然見つけたのは、バスケットゴールが設置された住人宅を写した防犯カメラ映像のキャプチャー画像で、男性は血の気が引いたと振り返る。

「いわゆる、ネットに晒すってやつですよね。ああ、そこまでヒートアップしているのか、もう取り返しがつかないんじゃないかと思ってますよ。その画像の投稿の前後の書き込みをよく読めば、実はここの住所だってわかってしまうんです。閲覧数も何十万になっていて、ついこの間も、野次馬っぽい大学生くらいの男の子二人組が来ていました。きっかけはさておき、もう互いに違法行為の応酬ですからね。近所としては迷惑なだけだし、出ていって欲しいですよ」(公務員の男性)

ネットの「隣人ガチャ」投稿に振り回される

 迷惑行為に悩まされていると訴える投稿は、SNSを探すと簡単にいくつも見つかる。あまりの多さに隣人トラブルがいかに多いかを思い知らされる一方で、それら書き込みの中には、トラブル相手を誹謗中傷したり、盗撮して無断で掲載したり、個人情報を書き込んだりといった、問題のあるものが多いことにも気づかされる。

 そんな投稿を目にしたとしても、君子危うきに近寄らずと静観した方がよさそうだが、そうしたセンシティブな映像や写真、情報だからこそ、無関係のネットユーザーらは「隣人ガチャ」ネタだと無責任に盛り上がる。そして、トラブルをSNSで訴えた本人も、周囲の盛り上がりが心地よいのか、より過激な投稿を繰り返すようになり、モザイクこそかけられてはいるが、トラブル相手の子供の顔写真まで投稿するなど、危険な状態に突き進んでしまいがちだ。

 さらにこの「盛り上がり」にマスコミも加わり、大変なトラブルが発生していると話すのは、民放キー局の社会部記者(30代)だ。

「とある民放キー局が、隣人から嫌がらせをされていると訴える家族を取材して、いわゆる”隣人ガチャネタ”を放送したのです。ただ、放送の段階から、嫌がらせをしてきているとされる隣の家を隠し撮りしているような映像が流れたり、構成が被害者にかなり肩入れしたようにも見えて、同僚らと大丈夫か?と話題になりました。その後、通常のニュースなら放送後にこのパートがネットに転載されるのですが翌日には全て消されていましたし、やはり何かあったのかなと思ったんです」(キー局記者)

 この時ネットでは、被害を自称する人の言い分の不自然さへの指摘も相次ぎ、放送内容からすでに「現場」は特定されてしまってもいた。

「報道が不自然だとネットユーザーたちが大騒ぎし、さらに問題のトラブルを某地方議員が事前にSNSでリークしていたこともあり、根も葉もないような噂まで立ち、もはや収拾不可能な状態でした。こうした行き過ぎた隣人トラブルを報じるにしても、どこの誰かわからないようにするのは報道の大前提なのですが、かなり甘いと言わざるを得ません。なにしろ、当事者たちはそこの家を買って住んでいるのですから、取り返しがつかない。場合によっては重大な人権侵害も起こりうる」(キー局記者)

 今も「隣人ガチャ」というキーワードを浸けられた投稿は多い。大多数は「隣がうるさい」くらいのささやかなものにも見えるが、ここで紹介したような大きなトラブルに発展する可能性も考えられる。SNS隆盛の現代ならでは、というトラブルだが、具体的な実害、たとえばケガ人が出るような事態にエスカレートしないよう祈るばかりだ。

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