ここ数年、ゲーム番組やゲーム企画で「音を立てずに何かに挑戦する」趣向のものが多いように見受けられる。一体その人気の秘密とは?
『バナナサンド』(TBS系)の看板的なゲームといえぱ、ゲストタレントが後ろにいる合唱隊のハモリパートに釣られず、サビ部分をいかに正確に歌い歌い切れるかを競う「ハモリ我慢ゲーム」だが、中には「何人食べられるかな? サイコログルメバトル」というゲームもある。
これはサイコロを振ってごちそうを食べられる人数を決定。さまざまなゲームで対決して勝った人だけがごちそうを食べられるというものだが、その対決種目の1つに「サイレントミッション」というものがある。音に反応するぬいぐるみの前で、空き缶拾いや、おせんべいを食べるといった課題にチャレンジ。音を鳴らさずにやりきったらクリアとなる競技だ。
レギュラー番組が打ち切られたあとの復活も珍しいが、久しく放送されていないスペシャル番組が復活するのもあまり聞かない。今年8月、実に3年半ぶりに放送されたスぺシャル番組が『音が出たら負け』(日本テレビ系)。企画はその名の通り、様々な音が鳴りやすいゲームに対し、少しでも音を鳴らしたら即失格となるゲームバラエティだ。今回はアイドル、俳優、芸人など54名の挑戦者が2人1組となってゲームに挑んだ。例えばベルトコンベアから流れて来るフライパン、おたま、グラスなどキッチンアイテムをフックにかけたり、棚に置くなど、音を立てずに整理整頓するというものだった。
そのほか、『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』(日本テレビ系)の名物企画の1つとして有名なのが「サイレント図書館」。都内某所の図書館(という設定)で、あらゆる罰ゲームを受けるという企画。もちろん静けさが求められる場所であるため、罰ゲームの執行中は声を出したり騒いだりしてはいけない。
『ぐるナイ』でも一時期、生春巻きやパフェ、お好み焼き、磯辺焼きなどを音を出さずに食事が出来なければ、タライ落としの痛いお仕置きを受けさせられるゲーム「音が鳴ったらダメ家族」があった。
時代とマッチングした?
これまで様々なゲームバラエティ、ゲーム企画が生まれてきたが、「音」に特化するようになったのは、コロナ禍とは無関係ではないだろう。未曽有のパンデミックによって人と人が接することが禁じられ、声を出すことがはばかられた。
『音が出たら負け』の採用に関して、企画・プロデュースした日テレ アックスオンの野中翔太氏は、8月に行われた「若手クリエイターズフォーラム」で次のように述べている。
「『音が出たら負け』は、コロナ禍じゃなかったら通ってないって言われました。1人で静かにやってるんで、飛沫しないというのが通った理由の一つだった」
しかも「局内とかで“番組ではなく、コーナー企画だ”と言われたんですけど、時代とマッチングしたというのがありました」とも述べている。
音や声があることが当たり前だったテレビの中で、静寂であろうとした企画は、ある意味時代に即したものだったのだ。もちろんそれ以前にも、人々の「音」への配慮は、より過敏になっていた。公園で遊ぶ子どもたちの嬌声が近隣住民から「騒音」と言われたり、特に外国人が、我々の蕎麦やラーメンなど麺をすする音を不快に感じるなど、それまで気にもとめていなかった音や声に対する“他者の視線”を日本人が感じ始めたのも、「音を立てない」企画が共感を得ている潜在的なトリガーになっているかもしれない。
音が出て、しかも映像が見えるのがテレビ本来の魅力なのだが、そうした背景によって、新しいゲームが生まれ、その可能性を広げてくれているとしたら、皮肉ではあるが面白い。(芸能ライター・玉置天津)