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《大ヒット》『極悪女王』ゆりやんレトリィバァが見せた「稀代のヒール・ダンプ松本への変貌」 心理士が注目した「心理的コントロール」

NEWSポストセブン 2024年10月25日 7時15分

 事実をもとにしているとはいえ“フィクション”だし、本人ではないと分かっているのに、まるでノンフィクションを見ているような錯覚に陥ることがある。ダンプ松本を演じるゆりやんレトリィバァが変貌ぶりを見せたNetflix『極悪女王』も、そんなドラマのひとつだろう。臨床心理士の岡村美奈さんが、ダンプ松本としてゆりやんが発揮した「心理的コントロール」について分析する。

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 インスタグラムを見ると、ピンクのチェーンを振りかざすように握った写真が真っ先に目に飛び込んでくる。可愛い衣装を着て、濃いピンクのアイシャドーにワインレッドの口紅をつけているお笑い芸人のゆりやんレトリィバァだが、怖い形相でこちらを睨んでいる様子はヒールそのもの。頭上につけているのは大きな黒いリボンなのに、髪が逆立っているように思えてしまう。やはりNetflixシリーズ『極悪女王』のインパクトが強いせいだろう。

 クラッシュギャルズのライオネス飛鳥を演じた女優の剛力彩芽さん、長与千種を演じた唐田えりかさんと一緒の楽し気な写真や、優しい表情を見せているモノトーンの写真よりも、その後に出てくるヒール役で威嚇する顔の写真に目がいってしまう。その写真は強烈な個性の強さを放っているのだ。

 公開直後から評価が爆上がり、迫力満点のアクションドラマでもあり、胸が熱くなる青春ドラマでもある『極悪女王』を観て、かつて画面を通して繰り広げられていた血みどろの戦いを思い出した。今の時代なら、放送した途端、あちこちからクレームの嵐が吹き荒れること間違いなし。だが、勝ち負けが決まっているのだろうと多くの人が思っていたプロレスにおいて、善悪がはっきりと目に見え、そこまでやるか!?というマッチだったからこそ、観ていた人たちは真剣勝負のように思えて熱狂したような気もする。

 リングの外では、お世辞にもうまいといえない歌と踊りでアイドル以上にカリスマ的な人気を誇った女子プロレスラーもいれば、最恐、最凶ヒールとして罵詈雑言を浴びせかけられたプロレスラーもいた。憎まれ、嫌われながら圧倒的な人気と存在感を持っていたのが「極悪同盟」のダンプ松本。『極悪女王』はプロレスラーを目指した松本香がダンプ松本という稀代のヒールとして活躍した物語だが、これがめっぽう面白い。

 ゆりやんはドラマのなかで本当に彼女なのかと見間違うほどの演技を見せている。正直に言うと、ずっとゆりやんは苦手だった。舌ったらずのような甘えた話し方やプヨプヨしたボディ、お笑いのネタも面白いパフォーマンスというより、米国のオーディション番組「アメリカズ・ゴット・タレント」に出演した際に見せた、星条旗模様のきわどい水着と奇妙なダンスをするような、得体の知れないところが気持ち悪かった。

 だがこのドラマで彼女への見方が変わった。好きになれなかった話し方は、ダンプになる前の松本香が持っている本来の優しさを引き立たせ、得体の知れなさはダンプがヒールとして劇的に変化した時の裏付けとなっていた。弱さと強さ、優しさと怖さ、振り子が右から左に振り切ってしまうような変化を、ゆりやんは見事に演じている。

 ムチムチした筋肉質の身体でヒールとしてリングを駆け回るゆりやん演じるダンプ松本は、遠慮も容赦もなく強かった。その身体を作るため、一度はダイエットで45kg痩せた身体から40kgも体重を増やしたという。そんなゆりやんが演じたからこそ、ドラマの中の松本香がダンプ松本になっていく過程で、自分の意志で、自分が選んだものを自分の力でモノにしていくという強さが強調されたのだ。その強さは「心理的コントロール」とでもいえばいいだろうか。

 ダンプとして人気が高まれば高まるほど、忌み嫌われてしまうという自分をいかに感情的にコントロールするか、その闘いもドラマの要素の1つとなっているだろう。ゆりやんは表情だけでなく目線や話し方、歩き方や座り方、肩を怒らせたり力を抜いたりするような仕草などでそれを表現、お笑い芸人の域を超え、女優としても成功している。

 そして女子プロレスを運営していた男社会で駒のように扱われていたプロレスラーたちが、自分で自分の行く道を決めていく、選んだ道で成功していくというコントロール感が、壮絶なシーンがありながら、最後には熱血青春ドラマを観たような満足感や爽快感を視聴者に与えてくれるのだろう。

 12月には米国へ活動の拠点を移すというゆりやん、どんな挑戦を見せてくれるのか楽しみだ。

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