大逆風のなか、自民党の裏金候補、世襲候補たちの選挙戦も異例のものとなった。世襲なのに親子・兄弟の亀裂に苦悩する候補、したたかに大物の応援を利用する候補など、現場ではそれぞれの“悪あがき”があった。
萩生田氏の応援に駆けつけた松井一郎・元日本維新の会代表
「比例代表も自民党へ」と自分の写真の下に書かれたチラシを演説会で配布していたのが、裏金問題で自民党非公認とされ、無所属で出馬した萩生田光一氏(東京24区)だ。街頭演説を減らし、ハコモノと呼ばれる施設内でマスコミシャットアウトの個人演説会をこなす“隠密作戦”を展開した。
そこでは小池百合子・東京都知事のビデオメッセージが流れたり、安倍昭恵・元首相夫人、高市早苗・元経済安保相、伊吹文明・元衆院議長など大物が応援に駆けつけていた。
そんななか、萩生田氏と一緒に街頭に立ったのが松井一郎・元日本維新の会代表だ。裏金問題へのヤジに、萩生田氏の支持者が「左翼は帰れ!」と言い返すなど聴衆同士の猛烈な罵声が飛び交い、演説が聞こえないほど。隠密作戦にした理由がよくわかる。だが、松井氏は慣れたものだった。
「今回はね、僕は萩生田さんを応援しに来たんじゃありません。萩生田さんは仲間ですから一緒に頭を下げてね、ごめんなさいねと皆さんに謝ろうと思って来ました」
そう松井節を聞かせ、「謝れー」とヤジが飛ぶと、話の途中でもすかさず「ごめんなさい」と挟む。しかし、最後に、「政治の世界に疎くなってて、この選挙区から維新が出てるの知らんかったんですよ」とオチをつけた。
そう、萩生田氏の選挙区からは維新の新人が対立候補で出馬していたのだが、こんな親密ぶりを見せられると、萩生田氏が批判票を分散させるために野党乱立に持ちこませたのかと勘ぐりたくもなる。呼ぶほうも来るほうもしたたかなものだ。
禊ぎは済んだ?
萩生田氏とは対照的だったのが、やはり裏金問題で自民党非公認とされて無所属で出馬した下村博文・元文部科学相(東京11区)だ。候補者討論会で裏金問題や旧統一教会問題との関係について「当選すれば禊ぎは済んだと思うか」という質問のフリップボードに1人だけ本音むき出しの「〇」をつけ、会場から失笑が漏れた。
選挙区に貼られたポスターも「自民党」の文字がテープで隠され悔しさがにじむ。その下村氏の応援に駆けつけたのが自民党の青山繁晴・参院議員。ところがその演説の内容が異色すぎた。
「自由民主党の議員は、『裏金と言うな』と言う人もいますが、私は裏金だと思います。なぜかというと、集まってきたお金を政治資金収支報告書に記載していなかったということは、その分の使い道を知られたくないということですよね。わからないという意味では裏金と言われてもやむを得ないと考えています。そのうえで、政治資金と言えば無税なのは本当に正しいんですか?」
裏金批判が続き、下村氏は困り顔で聞いていた。各陣営にちぐはぐさが際立ったが、それは有権者に正対する姿勢だったのだろうか。
※週刊ポスト2024年11月8・15日号