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《ベトナム人車両窃盗団の実態》ドラレコ映像から見えた“素人っぽさ” 群馬県内の“アジト”にいたカンボジア人住民の証言

NEWSポストセブン 2024年11月6日 6時59分

 昨今、ベトナム人犯罪グループによる大規模な車両窃盗事件が相次いでいる。10月上旬には、中古車販売大手・WECARS(旧名ビッグモーター)新潟南店に侵入し乗用車7台や現金を盗んだ容疑で、5人のベトナム国籍の男たちが再逮捕された。

 犯罪に走ることが多いのは、通称「ボドイ」と呼ばれるベトナム人の不法滞在者たち。多くは職場を逃亡した元技能実習生だ。

 その犯行の実態を、『北関東「移民」アンダーグラウンド』(文藝春秋刊)の著者で、在日外国人問題に詳しいルポライターの安田峰俊氏が報告する。【前後編の後編】

ドラレコに映った犯行

 実際の被害店舗の声を聞いてみよう。

 今年8月19日、店舗の販売車両11台と現金約200万円を盗まれた栃木県の「ホンダカーズ野崎店」店長の松本正美氏は話す。

「朝、店の駐車場に自動車のカギが散乱していました。犯人たちは事務所の窓ガラスを割って侵入したらしく、耐火金庫を強引に破壊して現金も盗んでいて……」

 店舗は都市部から離れた国道沿いにあり、隣家との距離も離れている。ゆえに従業員が不在の夜間に、事務所への侵入を許してしまった。

 松本氏によると、犯人らは事務所内で入手したスペアキーを用いて片っ端から車両のロックを解除、みずから運転して車両を盗んだという。キーの通電用の予備電池を持ち込むなど、一定の下準備の上での犯行だったことが判明している。

 犯人らはまだ捕まっていないが、幸いにも被害車両はすべて発見された。松本氏がSNSで被害を訴えたところ、馴染み客らが捜索して8台を発見、さらに警察の捜査で残りが見つかった。

 車両の多くは、店舗から数十キロ圏内の駐車場や、東北道のパーキングエリアなどで発見された。これは他の類似事件とも共通する特徴で、いったん数日間クルマを寝かせ、GPSなどの追跡がないことを確認してから再度移動。第三者に転売する方式らしい。

 興味深いのは、複数台のドライブレコーダーに映像と音声が残っていたことだ。

「走り心地がいい。あと30分で到着する」
「この前の(盗んだ)クルマは31万円で売れた。その前のは20万円だ」

 映像を確認すると、ベトナム語で、中部の訛りのある会話が確認できた。初犯ではなさそうだが、松本氏はこう続ける。

「ただ、マニュアル車のクラッチ操作に慣れずエンストさせるなど、素人っぽさは抜けません。完全なプロの窃盗団なら、クルマをいきなりヤードで解体し、海外に売り払う。今回の場合、そのまま個人間で売買しようとした形跡があります」

 ドラレコの映像には、運転する犯人がとあるアパートの駐車場に立ち寄り、仲間か顧客らしき人物と話す様子が残されていた。

 映像から場所を特定すると、アパートは群馬県太田市にあることがわかった。スバルの企業城下町で、人口の6.8%が外国人という多国籍な街だ。太田駅から東に3キロほど進んだ住宅街にアパートはあった。

 同市では働き口に困らないことから不法滞在者も多い。過去、ボドイによるブタや桃の大量盗難事件が起きた際にも警察側から拠点とみなされたことがある。

 現地では無免許のまま、闇ルートで買った自動車を乗り回すボドイも多く、私も過去の取材のなかで多数確認してきた。

 私は、件のアパートを訪ね、犯行グループへの直撃を試みた。

犯人の“アジト”には…

 アパートにいた外国人風の住民複数に尋ねて確認したところ、8部屋のうち日本人が住んでいるのは1部屋だけ。残りはカンボジア人と南アジア系の人たちがそれぞれ3部屋ずつ、他に1部屋がベトナム人という住民構成である。

 ドラレコ映像では、犯人がカンボジア人と日本語で売価を交渉する会話もあった。こちらの住民が事情を知っている可能性は高そうだが──。

「ここに住んだのは1週間前から。近くの弁当工場で働いています。他の友だちもそう」

 カンボジア人の住民女性(30代)はそう話した。

 ちなみに彼女は「難民認定申請中」という立場だ。本人によると、日本での就労を目的に偽装の難民申請を繰り返すことで、裏技的に短期の在留資格を得ているらしい。彼女と同じ部屋の他の住民にもそうした人がいるようだ。

「クルマのことは私は知らない。でも、ベトナム人からフェイスブック経由で(無車検・無保険状態で)買うカンボジア人は大勢います」(同前)

 在日外国人のアンダーグラウンドの世界には、各国の力関係を反映するようなヒエラルキーが存在する。

 すなわち、車検やナンバープレートの偽造など高度な技術が必要な犯罪や、盗品の売買のように利幅の大きなヤミ商売は中国人。その経済圏の“恩恵”にあずかりつつ、現場で窃盗をおこなうのがベトナム人。そして最終消費者の立場で盗品を購入するのがカンボジア人という図式だ。

 仮に車両が発見されていなければ、ホンダカーズ野崎店の車両も、カンボジア人らの愛車に化けていた可能性が高い。松本氏が語る。

「日本の自動車販売店は治安のよさを過信しています。事務所内に展示車のキーをぶら下げたままだったり、警備会社と契約していなかったりする店舗も多い。うちは警備体制を一新し、販売車のセキュリティ機能を上げるオプションの提供もはじめました。販売店も個々のクルマも、海外のような徹底したセキュリティ体制が必要だと痛感しています」

 日本の移民社会化と、一部の在日外国人による犯罪。日本は、従来の安全意識が通用しない社会に変わってしまうのだろうか。

(前編から読む)

【プロフィール】
安田峰俊(やすだ・みねとし)/1982年、滋賀県生まれ。中国や在日外国人をメインテーマに執筆活動を行なう。2019年、『八九六四』で大宅壮一ノンフィクション賞、城山三郎賞をW受賞。近著に『中国ぎらいのための中国史』。

※週刊ポスト2024年11月8・15日号

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