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不安の声を覆した『嘘解きレトリック』、月9ドラマがひさびさの称賛を集める理由 

NEWSポストセブン 2024年11月4日 7時15分

 長年続くドラマの伝統枠であることから、その視聴率や内容について何かと話題になるのがフジテレビの月9だ。この秋は『嘘解きレトリック』がスタート。業界内やネットでは早くも称賛する声が多い。その理由についてコラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。 

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 今秋、業界内で「こんなに評判のいい月9はひさびさではないか」という声があがっているのが『嘘解きレトリック』(フジテレビ系、月曜21時)。 

 Xの書き込みや関連記事のコメント欄にはおおむね称賛が並び、ドラマのレビューサイトでもNHKの『宙わたる教室』(火曜22時)や『3000万』(土曜22時)、TBSの日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』(日曜21時)や『ライオンの隠れ家』(金曜22時)らと競い合うようにトップクラスをキープしています。 

 放送前は鈴鹿央士さんと松本穂香さんの主演経験の少なさや、「昭和初期のムードを民放が再現できるのか」などと不安視する声が少なくありませんでした。しかし、はじまってみたら、それらの不安を払拭する好意的な声が大半を占めています。 

 最近の月9ドラマをさかのぼっていくと、今夏の『海のはじまり』、今春の『336日』、今冬の『君が心をくれたから』、昨秋の『ONE DAY~聖夜のから騒ぎ』、昨夏の『真夏のシンデレラ』、昨春の『風間公親-教場0-』、昨冬の『女神の教室~リーガル青春白書~』、一昨秋の『PICU 小児集中治療室』、一昨夏の『競争の番人』、一昨春の『元彼の遺言状』……約3年前の一昨冬に放送された『ミステリと言う勿れ』以来の評判と言っていいかもしれません。 

なぜここまで『嘘解きレトリック』の評判がいいのでしょうか。 

時代物では珍しい親しみやすさ 

『嘘解きレトリック』のコンセプトは、貧乏探偵・祝左右馬(鈴鹿央士)と嘘を聞き分ける能力を持つ助手・浦部鹿乃子(松本穂香)によるレトロミステリー。舞台は昭和初期であり、物語は追われるように故郷を出たものの空腹で行き倒れた鹿乃子を左右馬が助け、彼女の能力を知り探偵助手として受け入れるところからスタートしました。 

近年放送された月9の中で評判がいいのは、当作の柔らかく優しい世界観が月曜夜の視聴にフィットし、アンチが少ないからでしょう。登場人物も昭和初期の街並みも愛らしく描かれ、時を超えた親しみやすさを感じさせられます。 

刑事事件を扱ったドラマが殺人事件ばかりに偏り、不穏なムードに終始しがちな中、『嘘解きレトリック』はまったく異なるベクトルの作品。不穏さは抑えめで、各話の事件も子どもの失踪、令嬢の誘拐偽装、財布の窃盗、人形屋敷の不審死など多彩かつ緩急がつけられています。 

助手・鹿乃子の嘘を見抜く力をきっかけに、探偵・左右馬の推理+ハッタリで事件を解決していくテンポも上々。さらに放送を重ねるごとに2人の一体感が育まれていく関係性も柔らかく優しい世界観の理由でしょう。 

 そんな世界観を作り上げているのは、フジテレビが誇るレジェンド演出家たち。『白い巨塔』『ガリレオ』『任侠ヘルパー』『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』などを手がけた西谷弘監督をチーフに、『東京ラブストーリー』『ひとつ屋根の下』『ロングバケーション』『ブザー・ビート~崖っぷちのヒーロー~』などを手がけた永山耕三監督、『29歳のクリスマス』『王様のレストラン』『HERO』『ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~』などを手がけた鈴木雅之監督らが集結し、若いダブル主演の魅力や昭和初期のムードを引き出しています。 

昭和初期を描いた今作のような時代物は本来NHKが得意としているジャンルですが、同局の作品は時間とお金をかけて古さや汚れなどのリアルを追求した本物志向。一方、ノスタルジーを感じさせながらも、愛らしくまとめた当作の映像は若年層にとっても見やすいものであり、評判のよさにもつながっているのでしょう。時に、同じ西谷監督が手がけた『シャーロック』を思い出すバイオリニストが登場するなどの遊び心も含め、シリアスさを避ける配慮をところどころから感じさせられます。 

ほのかに漂わせる月9ドラマらしさ 

『嘘解きレトリック』における演出の素晴らしさを語る上で欠かせないのが精力的なロケ。 

 時代物のロケで定番の「ワープステーション江戸」(茨城県つくばみらい市)と「房総のむら」(千葉県印旛郡栄町)を筆頭に、千葉県香取市佐原の街並み、重要文化財の安藤家住宅 (山梨県南アルプス市)、牛久シャトー(茨城県牛久市)、坂野家住宅(茨城県常総市)、さらに古民家、小学校、神社、公園、吊り橋、駅など、1つ1つのシーンにこだわってロケが行われています。 

ロケは茨城県と千葉県を中心に、静岡県、山梨県、神奈川県などの各所で実行。昭和初期が舞台である以上、近代的な建物などは基本的にNGであり、手間と労力を惜しまず精力的に飛び回っている様子が伝わってきます。衣装、美術、エキストラなども含め、世界観を作るための努力を惜しまない姿勢が幅広い世代にとって見やすい時代物につながっているのでしょう。 

 そして放送が進むたびに視聴者の心をつかんでいるのが、探偵・左右馬と助手・鹿乃子の絆。特に第3話のラストシーンで左右馬が鹿乃子にかけた言葉が視聴者の感情移入を誘いました。物心がついたころから嘘を聞き分ける能力で気味悪がられ、孤独を抱えてきた鹿乃子に左右馬は「嘘が聞こえる力をただ便利なだけなんて思ってないよ」と切り出しました。 

左右馬はさらに「一緒にいると嘘を聞くほうも聞かれるほうも便利なことやしんどいこともたくさん出てくるだろうけど、1人でぐるぐる悩まないでよ。きみはもう1人じゃないんだから」「一緒にいるから悩むんだからさ、一緒に抱えるよ」と鹿乃子に語りかけて手を差し伸べたのです。 

鹿乃子は初めて自分の能力に向き合ってくれた左右馬に感激し、涙をこぼしながら手を握り返して心の中で「先生のお役に立てるようになりたい。それが今の私の夢です」とつぶやきました。このようなほどよい「キュン」を時折、織り交ぜるのも月9ドラマらしさであり、評判がいいポイントなのかもしれません。 

【木村隆志】 

コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。 

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