室内でゆっくり読書を過ごしたいこの季節。豊かな時間を与えてくれる素敵な新刊4冊を紹介します。
『ナチュラルボーンチキン』金原ひとみ/河出書房新社/1760円
金原さんの小説は“著者の現在地”を感じさせるが、本書は余裕綽々(褒め言葉です)。オーディオブックという企画のせい? 感情を平らにして生きる45歳の浜野文乃(出版社の事務職)が、陽気な女性編集者平木の紹介で41歳のバンドのヴォーカルと知り合い、おずおずと交際を始める。二人の会話部分が現代の恋愛観を表出して超絶技巧。驚きのオチで思わずハッピーに。
『「特攻」の聲 隊員と遺族の八十年』宮本雅史/角川書店/1870円
先頃宮崎空港で戦時中の不発弾が爆発する騒ぎがあった。まだ戦争の爪痕は深い。特攻の生き残りであることを隠し続けた男性、戦後「国賊」という理不尽な汚名をきせられた遺族、恋人が散った沖縄の海に散骨された95歳没の女性など、胸抉られる証言が続出する。人は二度死ぬと言う。個体死の次は誰の記憶からも消えてしまうとき。彼らのことは必ず語り継がねばと強く思う。
『鯨鯢の鰓にかく 商業捕鯨再起への航跡』山川徹/小学館/1980円
充実の読み応え。捕鯨という穴を通して海の男達の心意気から学術世界、国際社会までを一望する。著者は2006年頃からほぼ17年かけてこの労作をものしたが、この間は調査捕鯨しか許されず、捕鯨文化の存続が危ぶまれた時代。簡潔な文章は明晰で、巨大生物対人間という大自然の営みも活写する。ところで、生クジラの刺身はトロと牛肉をあわせたような肉刺身界の最高峰とか。
『おひとり京都の晩ごはん』柏井壽/光文社知恵の森文庫/792円
京都で夕飯を一人で食べることになったら──京都駅の新幹線側の改札口から徒歩3分という好立地の割烹、司馬遼太郎が愛した先斗町のおばんざいの店、肉食女子のためには精肉会社が母体で極上肉が破格の値段で食べられる店も紹介。著者が「ひとり天ぷら」のベストと断言する神明神社近くの店も天ぷらフェチとしてはハズせない。地図付きで巻末にはリストも。重宝しそう。
文/温水ゆかり
※女性セブン2024年11月14日号