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《私の最初の晩餐》片岡鶴太郎が振り返る、若手時代に橘家竹蔵師匠の家で食べた「中華風豚の角煮」

NEWSポストセブン 2024年11月3日 11時15分

「最初に食べたご馳走はなんですか?」。子供の頃に母が作ってくれた料理、上京したときのレストラン、初任給で行った高級店……。著名人の記憶に刻まれている「初めて食べた忘れられない味」を語ってもらい、証言をもとに料理を再現するこの企画。今回は片岡鶴太郎さんに、忘れられないご馳走を教えていただきました。

 声帯模写から始まり、ありとあらゆるお笑い、役者の道を追求してきた片岡鶴太郎さん。ボクシングではプロライセンスを取得し、絵を描けば、横尾忠則氏が絶賛。57才から始めたヨガでは、インド政府公認のヨガマスター・インストラクターの称号も得た。すべての挑戦は「後悔しないため」にその最初の一歩で出会った晩餐とは──。

 * * *
 私は、やっぱり“ピン”が好きなんですね。幼い頃から役者とお笑い芸人に憧れて、高校では演劇部の部長を務めました。卒業後、文学座や雲といった新劇の方面に進んだ先輩も少なくありませんでしたが、思うところあって、私は片岡鶴八師匠の門を叩きました。

 どうすれば、自分が後悔しないか。劇団は組織ですから、ひとりの努力だけではいかんともしがたいところがある。それが事実かどうかより、そう考えてしまうのが嫌なんです。その点、ピン芸人であれば、すべては自分ひとりです。

 入門したばかりの弟子の仕事のほとんどは雑用です。寄席に出る師匠にお供をして、荷物を運んだり、着つけをお手伝いして、夕飯前には実家へ帰る。そんな毎日が1か月ほど続いた頃、師匠から「外郎売を知っているかい?」と聞かれました。

 外郎売は、歌舞伎十八番に選定されているせりふ芸で、現在でも役者やアナウンサーの発声練習で広く使われています。私は演劇部だったので覚えがありましたが、いざ促されると、まあ、まったくの棒読みなわけです。師匠は「歌舞伎調」で読む名人でしたから、稽古をつけてくださることになったんです。

「鶴ちゃん、うちでちょいとやってくかい?」

 じつは、この稽古は私のためではなく、落語家の橘家竹蔵師匠が主役でした。当時二ツ目だった竹蔵師匠が、歌舞伎調を学ぶために鶴八師匠のもとへやってきたのです。寄席にはお供していましたが、ほかの芸人さんや師匠方と話をする機会などまったくなかったので、かなり緊張して臨みました。

 無事に稽古が終わって一緒においとますると、駅までの道すがら、竹蔵師匠が「鶴ちゃん、うちで、ちょいとやってくかい?」なんて誘ってくださった。これはね、ドキッとしましたよ。おそば屋さんでの振る舞い方なんかは教わっていましたが、噺家の師匠の家におよばれするなんて、まったく初めての経験ですから。

 もちろん竹蔵師匠は慣れたもので、高円寺のお宅に入ったら、チャキチャキした奥さまがいらして、パッパッパッパッとテーブルにご馳走が並んで、お酒も次々。すっかり浮かれ気分になってしまって「ずいぶん酔ってしまいました。すみません」と謝ったら、師匠が言うんだ。「酔うために飲むんだから、構わないよ。酔わなきゃ面白くないだろ」って、こっちに気を使わせないようにね。

 奥さまの手料理はどれもおいしくて、中でもびっくりしたのが豚の角煮。沖縄料理のラフテーってあるでしょう。あれよりも脂身は少なくて、だけど身はほろほろ、ほんのり中華風の甘辛。2年前、NHK連続テレビ小説『ちむどんどん』に出ているときなんかは、ラフテーが出てくるたび、心の中で竹蔵師匠の家の角煮を思い出してね。懐かしいなあ。

若手時代を思い出す師匠と食べたご馳走

■中華風豚の角煮
●材料(4人分)
豚バラブロック肉600g、にんにく2片、しょうが1片
長ねぎ(青い部分)1本、赤唐辛子1本
A[豚バラブロック肉のゆで汁3カップ、紹興酒1/4カップ、きび砂糖大さじ3、しょうゆ大さじ2、オイスターソース大さじ1.5]
絹さや8枚
水溶き片栗粉(片栗粉小さじ1を水大さじ1/2で溶いたもの)

●作り方
【1】鍋に豚バラ肉、ぶつ切りにした長ねぎの青い部分を入れ、肉と長ねぎがかぶるくらいの水を入れる。強火にかけて煮立ったら弱火で40分加熱する。肉に竹串がすっと通るようになったら、ゆで汁ごとボウルの上にのせたざるにあけ、肉は水洗いして、ペーパータオルで水気をふき、8等分に切る。ゆで汁はとっておき、鍋は軽く洗っておく。
【2】にんにくは包丁の腹でつぶし、しょうがは皮つきのままスライスして鍋に入れ、【1】の豚バラ肉、赤唐辛子、[A]を入れて強火にかけ、煮立ったら落し蓋をして弱火で肉がやわらかくなるまで約1時間加熱する。
【3】絹さやは筋を取り、塩ゆでしておく。
【4】【2】の落し蓋を外し、中火で15分加熱して煮詰める。器に豚バラ肉を盛り付け、鍋に残った煮汁に水溶き片栗粉を加えて再び加熱し、とろみがついたら盛り付けた肉にかけて【3】の絹さやを添える。

【プロフィール】
片岡鶴太郎/1954年、東京都生まれ。高校卒業後、片岡鶴八に弟子入り。テレビのバラエティー番組を足がかりに大衆の人気者となる。映画『異人たちとの夏』で、第12回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞受賞。2015年、書道界の芥川賞といわれる「第10回手島右卿賞」を受賞した。

写真/深澤慎平 料理・スタイリング/柳瀬真澄

※女性セブン2024年11月14日号

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