六代目山口組が刊行し、傘下組織に配布している機関紙『山口組新報』。巻頭に掲載される司忍組長の近影、幹部陣の寄稿など山口組の動向がわかる重要資料として警察、メディア関係者のあいだで関心が高い。一方で同紙には、俳句や川柳、さらには傘下組織の地元の名所、名産を紹介するコーナーなどもあり、「組員たちの素顔が知れる」側面もある。
『山口組新報』は司組長になってから発行されるようになった。同紙の制作過程については不透明な部分も多いが、六代目山口組に所属する組員によって組織される“編集部”によって制作されているのは間違いないとみられている。
「もちろんマスコミに流れることも想定しているのだろうが、最高幹部が『組織として恥ずかしくない記事を載せるように』と厳命していると聞く。実際、一流大学出身の組員をはじめ選ばれた組員が制作に携わっているようで、硬い文章ではあるが、しっかりとした記事を載せている」(実話誌記者)
最新号では“編集部”による「編集後記」が業界内で話題になっている。その文章の冒頭は飲食店などの店舗が新紙幣への対応を迫られるといった内容から始まる。今後さらにキャッシュレス決済が増加するという見通しを提示し、スマホやクレジットカードを原則契約できない組員たちに対して、〈今後現金の効力を発揮できない世の中に対応する事は不可欠となります〉(以下、〈〉内は『山口組新報』より)と注意を呼びかけている。
文章は続く。高速道路のETCや、産業用ロボットの導入など、現代社会は“コスパ”を重要視し、合理化を求める流れになっていると指摘。人との交流もスマホ一つで完結できる社会については〈物凄く便利で快適な世の中に進化しているという体感があります〉とする一方で、〈その反面に古い物は置き去りになり、やがて忘れられるという連鎖は日本人の心まで奪ってはいないかという疑念を抱いてしまう〉としている。〈社会のアンバランスから生まれる「人間関係の希薄」は古き良き時代に培った「貧しても鈍するな」という日本人独特の美学さえ蝕んでいる〉と、その見解を表明している。
さらに哲学者・デカルトの名言「我思う、故に我あり」を引き合いに出し、〈直接の人間関係が無く孤独感と思考の低下を生み出しています〉とも書かれていた。
関係性が希薄になるヤクザ
元来、暴力団は地域に密着して発展を遂げてきた。「編集後記」では当時について〈人々は助け合い喜びを分かち偲び合う(中略)何か心の繋がりを深く感じていた気がします〉と振り返り、暴力団という存在は〈人間性や生き様に重きを置く歴史と文化があります。自分個人を考える時、自分が存在する証明となる〉とし、〈どんな世の中になろうと山口組は山口組であります〉と締めくくられている。
この記事を読んだ山口組傘下組織幹部は率直な思いを語る。
「組織への自戒が込められた文章だ。ここ数年で山口組に限らず全国のヤクザで組員同士の繋がりが随分希薄になったと聞く。大きなきっかけは新型コロナ。これで山口組も定例会などの会合が激減した。おまけに特定抗争指定暴力団に指定されていることで、警戒区域内で5人以上集まれないから、区域内の事務所はごくわずかな組員しか滞在できない。年単位で顔を見ていない組員なんてザラだよ。
昔は確かに食い扶持に困った奴らも事務所に行けばご飯を食べられるし、賑やかだったんだけどね。そういう奴らからどんどん飛んで(辞めて)いった。全国のヤクザの中には一人組長なんて組もあるほどだ。事務所の連絡事項も会合で伝えるんじゃなくて、グループLINEやメールでやっている組もある。会合なんてたしかにコスパが悪いけど、そういう無駄なことも大事にしてきたヤクザだからこそ、思うところはあるんだろうな」