ちょっとした距離の移動に重宝されるだけでなく、すっきりとした見た目がオシャレだとして人気を集めているモペット。パッと見ただけでは自転車との区別がつけづらい外観であることを悪用して、ヘルメットをかぶらずナンバープレートもつけないまま走り回るユーザーの増加が社会問題となっている。人々の生活と社会の変化を記録する作家の日野百草氏が、改正道路交通法の施行をきっかけに取り締まりが強化されたモペットをめぐる混乱をレポートする。
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「そんなのいつ決まったの? 知らなかったんだから勘弁してよ」
都内繁華街、派手な髪型の若者が電動モペット(本来は「モペッド」だが国土交通省および警視庁の一部表記に準じる)に跨ったまま警察官に囲まれている。「知らなかった」に対して警察官の「そもそも違反なの」といったやり取りが続く。彼の電動モペットにナンバーはついていない。ウインカーやバックミラーといった保安部品もない。そもそも原付なのにヘルメットすら被っていない。
それにしても、あれだけの警察発表と広報活動、そして報道があったというのに「知らなかった」である。しかし実際に聞いてみると「いつ決まったの?」は電動モペットに限らず青切符の対象となった自転車の「ながらスマホ」や逆走、信号無視の方々にはとても多いことを実感する。
しばらく歩くとまた警察がモペットを呼び止めている。こちらの若い男性は素直に応じているが、やはりナンバーも無ければ保安部品もない。そしてノーヘルだ。電動モペットの存在を知らなければ、こうしたモビリティに詳しくなければただの電動アシスト自転車か、と思う人もあるかもしれない。
しかしれっきとしたバイク、免許もナンバープレートも必要な原付である。
自転車のフリ
11月1日からの改正道路交通法施行に伴う一斉取り締まり、スマホの「ながら運転」とともに警察が目を光らせていたのが改正法のやり玉となった違法な状態の電動「モペット」(一部では「ペダル付原動機付自転車」表記)だった。
電動モペットとは漕ぐためのペダルを備えた「電動バイク」である。原動機(エンジン)があるため、あるときはバイク、あるときは自転車として使うことが装備上はできる。
筆者も四半世紀前、電動でない2ストロークエンジンのイタリア製モペットを所有していた。詳しくは措くが現代の電動モペットに比べればお手軽に乗れるものではなかった。もちろん原付扱いであり、当たり前の話だが当時もナンバーを取得しなければならない。
しかし現代、扱いの簡単な電動バイクがまたたくまに普及、その中でもペダルを備えたモペットタイプが人気となり、ネットショップなどで中国製や東南アジア製を中心に多数売られている。
こうした電動モペットは昔のガソリンエンジンのモペットに比べれば遥かに扱いやすく、車体重量も軽く、安価である。そして普及にしたがいあるときはバイク、あるときは自転車で車道、歩道と走り回る違反行為が横行、まして無免許だったり、ナンバー未取得だったりで「自転車です」と言い張るユーザーに法整備が追いつかない状態だった。
そこで11月1日施行の改正道路交通法は自転車に対する青切符による取り締まりなど罰則を強化、「酒気帯び運転」は3年以下の懲役または50万円以下の罰金、「ながらスマホ」は6か月以下の懲役または10万円以下の罰金、そしてこの電動モペットに対する道交法上の明確化もなされた。原動機を使わずペダルを漕ぐだけの状態でも自転車でなく「原付」扱いとした。
警視庁は電動モペットについて明確に
〈「ペダル付原動機付自転車」は、いわゆる「バイク」であって、道路交通法上は、原動機付自転車に分類されます〉
〈ペダル付原動機付自転車は、原動機を使用せずに走行することも可能ですが、ペダルを用いて人の力のみによって走行し又はスイッチを切り替えて電動アシスト自転車モードで走行したとしても原動機付自転車の「運転」に該当します〉
〈無免許運転や無保険運行のほかナンバー不表示や保安部品を備えない(整備不良)状態でペダル付原動機付自転車を走行させると法令により罰せられます〉
としている。
そしてその「違法なモペット」は現行法では
・一般原動機付自転車等を運転することのできる運転免許を取得していない。
・ブレーキランプ、ウインカー、バックミラー等、定められた保安部品がない。
・ナンバープレートを取得していない、法定箇所に掲示していない。
・自動車損害賠償責任保険に加入していない。
・ヘルメット未着用
となる。
正直なところ、都内の繁華街をしばらく歩くだけで「これ絶対、電動モペットなんだろうな」という「自転車のフリ」はいくらでも見つかる。
都心から離れた埼玉県寄りの東京都区部、大きな商店街を母親と子どもが二人乗りで走る。ペダルを漕いでいないのにスーッと軽やか、まして惰力で走っているわけでもない、明らかな電動モペットだ。子どもは幼児用座席ではなくリアキャリアに跨っているだけ。
実際、これまでのルポルタージュでもそうした車両が交番の前を通っても警察官は無視だったり、違反車両の検挙のため路地に隠れる白バイのその路地から出てきた明らかに「違法なモペット」なのにスルーだったりもした。フードデリバリーの配達員があやしい電動モペットに乗る姿もコロナ禍からあったが多くは見逃されてきた。
11月1日からはそうはいかないかもしれないが、それでも遠くから走っている姿を確実に見極めるのは難しいだろう。
それでも、だからと言って「自転車のフリ」で「違法なモペット」を運転すれば、とくに事故を起こせば確実にバレる。
今回の一斉取り締まりでも新宿で飲酒運転かつ無免許で違法な状態のモペットを運転していたとして34歳の飲食店従業員が逮捕されている。彼のように飲酒・無免許・ナンバープレート未交付で走っている人なんているのかと思う方もいるかもしれないが新宿や池袋の深夜ともなれば普通に走っている。11月1日以降も走っている。
外国人の違法ユーザーも多いとされ、警視庁もモペットをはじめとする電動バイク、電動キックボードに関する日本の規則を知らない在日外国人の事故や違反が相次いでいるとして注意を呼びかけている。
ヘルメットとかナンバーとかカッコ悪い
都内にある国内正規ディーラーのバイクショップ店長はこう語る。
「そういう違法なモペットは任意保険どころか自賠責も入っていない。そういうユーザーが事故るのは自業自得かもしれないが、ぶつけられた車や人はたまったものじゃない。当て逃げだってあり得る。どこの誰かもわからない、どこの国の人かもわからない、そういう違法なモペットのユーザーが見逃されて走り回る状態は異常だったと思う」
11月1日からの改正道路交通法施行は多くから好意的に受け入れられていると同時に「遅すぎる」という声もあった。6月30日配信の拙ルポ『《11月から罰則つき違反決定》自転車「スマホながら運転」をする人たちの4つの目的”気づいてもスルー”な警察官もいる実態』から約4ヶ月、悪質な自転車だけでなく、新しいモビリティに対してようやく法が追いつこうとしている。
電動モペットそのものが悪いわけではない。きちんと「公道走行可」の商品で、その表示通りに道路運送車両法装の保安基準に適合した装備かつ、ナンバープレートの取得および掲示、自賠責保険の契約とヘルメット装着、そして肝心の「一般原動機付自転車等を運転することのできる運転免許証」があれば(法律上の義務はないが任意保険加入も強く推奨)、法的には公道を運転して構わないことになっている。
ともあれ「違法なモペット」は本当にいますぐ乗るのをやめて欲しい。一歩間違えれば自分の人生が狂うだけでなく他人の人生をも狂わせる。それなのに法改正などどこ吹く風で違法状態のモペット乗りが多すぎる。新宿の広場に集まる若者に今回の件を聞くと「でもしょうがないよ、ヘルメットとかナンバーとかカッコ悪いし」と言っていたが、カッコいい悪いの話ではない、法と命の話である。
警視庁もSNSでこう啓発している。最後に引く。
〈改正道路交通法施行により、ペダル付き電動バイクについては「ペダルを漕いで走行してもバイクの運転となる」ことが明確化されます。違法なモペットに、憧れるのをやめましょう〉
日野百草(ひの・ひゃくそう)/出版社勤務を経て、内外の社会問題や社会倫理のルポルタージュを手掛ける。日本ペンクラブ広報委員会委員。