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ルメールや武豊はなぜ「鞭の使用制限」に不満を示したのか 蛯名正義調教師は制限の必要性に一定の理解

NEWSポストセブン 2024年11月16日 11時15分

 1987年の騎手デビューから34年間にわたり国内外で活躍した名手・蛯名正義氏は、2022年3月から調教師として活動中だ。蛯名氏の週刊ポスト連載『エビショー厩舎』から、鞭の使用制限についてお届けする。

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 今年8月、札幌でアジア競馬会議があり、そこでクリストフ(ルメール騎手)と豊(武騎手)が、ジョッキーの立場から現在の鞭の使用制限について不満を感じることがあると発言して話題となりました。鞭はあくまで「副扶助」で、馬を安全に導くためにも必要だし、馬に対する合図の意味が大きいというところが理解されていない。どうしても最後のマックスのスピードになるところでの使い方だけをクローズアップされてしまう。そこだけをもって回数で制限するのはいかがなものか、ということだと思います。

 JRAでは鞭について、肩より上に腕を上げて振り下ろすことや、ひばら(脇腹)や頭部への使用のほか、「過度の使用」などを禁じています。具体的には「2完歩あけることなく、5回を超えてむちを連続して使用すること」が禁止事項とされています。今年から連続使用が「5回まで」になったこともあって、制裁を受けるケースが増えているようです。

 制裁は鞭の使用だけでなく、レース中、馬をまっすぐ走らせることができず他馬の進路を妨害したとされる「斜行」などでも科せられます。その程度によって「戒告」の場合は1点、過怠金(罰金のようなもの)が1万円ならば制裁点が2点、2万円3万円は3点で、10万円になると8点、それ以上になると騎乗停止となります。制裁点の合計が30点を超えると、「再教育」として研修などを受けなければなりません。交通違反の点数制みたいなものでしょうか。逆に年間30勝以上あげていて、制裁点数の合計が10点以下だった騎手にはフェアプレー賞が授与されます。

 ただ、制裁点数が少ないことがジョッキーとしての評価に直結するかどうかというのは微妙です。斜行に対する制裁については、馬の動きの予測や修正する技術が問われることがありますが、鞭については斜行を防ぐために使用することもあれば、実際に馬に当たっていなくても数えられてしまうことがあります。

 さらに勝負どころでは追うリズムを崩したくないので「5回を超えてしまうからやめよう」とはいかない。少しでも着順を上げたいというのはジョッキーの本能みたいなものですから。将雅(川田騎手)のように、あれだけ勝っているのに制裁点数が少ないのはすごいことですが、騎乗回数が多く、リーディング上位に来るようなジョッキーは無難な安全運転ばかりではなく、紙一重の騎乗をしていることがあり、多かれ少なかれ制裁を受けています。

 一方主催者としては世界的な趨勢もあるので使用を制限していく必要を感じています。なぜ5回までなのかというのは理屈では説明できませんが、とにかく基準を決めなければいけない。それがルールというものです。野球でいえば主審がストライクと言えばストライク、ストライクが3つで1アウトというのと同じことです。

 ジョッキーはさまざまなルールに縛られながら一つでも多く勝とう、着順を上げようと頑張っています。ファンの皆さんも、馬券を取った時は、自分の予想を楽しみつつ、罰金を取られるかもしれないのに、一生懸命馬を追ったジョッキーを褒めてあげてください(笑)。

【プロフィール】
蛯名正義(えびな・まさよし)/1987年の騎手デビューから34年間でJRA重賞はGI26勝を含む129勝、通算2541勝。エルコンドルパサーとナカヤマフェスタでフランス凱旋門賞2着など海外でも活躍、2010年にはアパパネで牝馬三冠も達成した。2021年2月で騎手を引退、2022年3月に52歳の新人調教師として再スタートした。この連載をベースにした小学館新書『調教師になったトップ・ジョッキー~2500勝騎手がたどりついた「競馬の真実」』が発売中。

※週刊ポスト2024年11月22日号

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