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【書評】『坂本龍馬の映画史』 時代を反映し変化してきた「龍馬像」の変遷 主だった龍馬映画を取り上げ、一本一本丁寧に論じる

NEWSポストセブン 2024年11月17日 7時15分

【書評】『坂本龍馬の映画史』/谷川建司・著/筑摩書房/2200円
【評者】川本三郎(評論家)

 坂本龍馬を描いた映像作品(映画、テレビドラマ)がこんなに数多いとは。そのことに驚く。戦前から現在まで百本を超える。映画史研究家であり、時代劇好きで『戦後「忠臣蔵」映画の全貌』や、剣豪スターの評伝『近衛十四郎十番勝負』の著者がこれに興味を持ち、一冊の本にまとめた。

 主だった龍馬映画を取り上げ、一本一本丁寧にその作品を論じる。何よりも時代によって描かれる龍馬のイメージがどう変わってゆくか、龍馬像の変遷を辿っているところに面白さがある。

 明治維新後、龍馬が知られるようになるのは明治十六年に刊行された土佐の新聞記者、坂崎紫瀾による伝記『汗血千里駒』によるという。折りから土佐の板垣退助や後藤象二郎らが新政府から下野し自由民権運動を戦ったことから、龍馬が自由民権運動の祖として語られるようになった。

 さらに明治日本が欧米列強と競って近代国家へと成長してゆく過程で、龍馬は勝海舟らと共に日本海軍創設の夢を見た先駆者と語られるようになった。そして大正、昭和と映画が盛んになるにつれ、次々に龍馬映画が作られるようになった。阪東妻三郎や月形龍之介、さらには榎本健一(エノケン)らが龍馬を演じた。

 ただ当時はまだ龍馬を主役とする作り方はされていなかった。龍馬が現代のように人気が出て、幕末に生きた英雄と語られるようになったのは、一九六〇年代に司馬遼太郎の小説『竜馬がゆく』が書かれてからだという。

 薩長同盟の下地を作り明治維新に力があった英雄として、また既成の考えにとらわれない自由人としての龍馬が大人気となり、この影響下に次々に龍馬映画が作られるようになった。

 龍馬が土佐弁を喋る地方出身者と描かれたのも高度成長期の若い世代に支持された一因という。さらに新左翼解体期には黒木和雄監督の『竜馬暗殺』のように内ゲバの犠牲者として描かれた。龍馬映画はつねに時代を反映したという指摘が重要な核になっている。

※週刊ポスト2024年11月22日号

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