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「『霊媒師JUN』の予言を聞いて、呪いを解くには殺すしかないと思った」宮城県・柴田町殺人事件で被告男女が語った驚愕の殺害動機

NEWSポストセブン 2024年11月14日 7時15分

 2023年4月、宮城県柴田町の住宅玄関先で、住人の村上隆一さん(54=当時)が血まみれで死亡していた事件について、殺人などの罪に問われた男女の裁判員裁判初公判が11月5日、仙台地裁(宮田洋次裁判長)で開かれた。

 隆一さんの次男である村上直哉被告(25)と、隆一さんの“長男の妻”であり、直哉被告から見れば義理の姉でもある、村上敦子被告(48)は、共謀のうえ、隆一さんを刺身包丁で刺して殺害したとして起訴されている。しかし敦子被告は「共謀もしていないし殺していません」と否認した。直哉被告は刺身包丁で隆一さんを刺したことは認めたものの、「敦子被告との共謀はない」と、一部を否認している。

 ふたりは隆一さんへの殺人罪のほか、凶器などを親族に処分させたという証拠隠滅教唆、さらに出会い系サイトで知り合った男性に対する美人局詐欺や同未遂でも起訴されている。敦子被告の夫(隆一さんの長男)や前夫、その妻、姉らもこれらの事件に関与したとして、すでに有罪判決を受けている。検察官は「敦子被告を頂点とする売春・美人局グループ」によって美人局詐欺が続けられ、また敦子被告が「霊媒師JUN」なる架空のLINEアカウントを駆使して直哉被告を操った末、隆一さんを殺害させたとみている。

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 逮捕時の映像ではふっくらとした顔立ちが印象的だった敦子被告は、逮捕から1年以上を経て、マスクからのぞく顔の輪郭がシャープになっていた。グレーのパンツスーツに身を包み、ロングヘアを後ろでひとつにまとめている。冒頭陳述の読み上げの際、時折眉間に皺を寄せ険しい表情を見せた。対する直哉被告は逆にふくよかな体型に変貌しており、着用しているジャージはピチピチだった。

 検察官は冒頭陳述で、敦子・直哉両被告だけでなく、彼らの家族やその周辺人物らが売春や美人局詐欺に関わっており、これらの行為の発覚を阻止するなどの目的で、敦子被告が直哉被告に隆一さんを殺害させたと主張した。

「売春・美人局グループ」形成の経緯

 キーマンは、殺害された隆一さんの元妻で、直哉被告の実母のAさんだった。敦子被告の現在の夫・保彰(逮捕時31、美人局詐欺で有罪判決)の実母でもある。検察側冒頭陳述によれば、敦子被告とAさんはパチスロを介して知り合い、親密になったが、敦子被告が「次第にAさんに因縁をつけ、金銭を要求し、金を巻き上げていた」という。他方、敦子被告はAさんの実子である直哉被告と保彰の面倒を見て手なずけていった。のちに敦子被告はその手なずけた兄弟のひとり、保彰と結婚したが、弟で殺人の実行犯である直哉被告とも肉体関係になる。

 敦子被告は直哉被告や、実姉の市瀬恵美(美人局詐欺で有罪判決)も巻き込み売春を行ない、リピーターを標的にして美人局詐欺をするようになった。Aさんにも売春をさせ、売り上げが落ちると制裁を加えていたという。そのうち、敦子被告への借金返済に窮した元夫、松野新太とその妻、みき子(美人局詐欺や証拠隠滅でともに有罪判決)も加担するようになり、「敦子被告を頂点とする売春・美人局グループ」が形成されていった。

 検察官によれば、直哉被告の実母Aさんがこのグループから抜けようと画策し、実際に抜けたことが、殺人事件の発端となったようだ。Aさんがグループから逃れるために金銭的な援助をしたのが、のちに殺害される隆一さんだった。

「犯罪の発覚を阻止するため、そしてAさんに手を貸したことへの制裁、さらに遺産獲得のため、敦子被告は隆一さん殺害を決意した」(検察側冒頭陳述)

 そして敦子被告は、架空のLINEアカウント「霊媒師JUN」を作成。霊媒師になりすまし、直哉被告に接触したのだという。

「霊媒師JUN」の予言

「霊媒師JUN」から「敦子に呪いがかけられている」と言われた直哉被告は、「隆一さんを殺害することで呪いを解くとともに、美人局事件の証拠を持っているかもしれない隆一さんを殺して今後も愛する家族らと過ごしたい、と考えた。Aさんはすでに逃走しており、殺害が困難であることから実父の隆一さん殺害を決意した」(検察側冒頭陳述)という。

 直哉被告の弁護人による冒頭陳述では「霊媒師JUN」のより詳細な“予言”が明らかにされた。

「直哉被告は、事件の数年前にLINEで知り合った『霊媒師JUN』の予言や、霊的能力などを信じ、絶対的な信頼を寄せていた。2023年1月ごろに『霊媒師JUN』から『敦子が、実母Aと隆一さんを含む“呪いの集団”から、呪いをかけられ、敦子の脳梗塞の症状を悪化させ、死亡させられる』と言われた。翌月には『隆一さんも“呪いの集団”に入っている』と『霊媒師JUN』から聞き、殺害を実行した」(直哉被告弁護人の冒頭陳述)

 つまり直哉被告は“大切な敦子被告の呪いを解いて助けるためには父親を殺すしかない”と考えたのだという。さらに直哉被告の弁護人は「直哉は日常的に霊的な現象を見ていて病的な疾患がある。呪いの存在を信じ、それを解くには隆一さんを殺すしかないと考えた。何らかの精神的な異常があるのではないか」などと述べ、直哉被告が事件当時、心神耗弱の状態にあったことを主張した。

 いっぽう検察側が「霊媒師JUN」の正体だとみている敦子被告の弁護人は冒頭陳述で「殺人に敦子被告は関与しておりません。直哉被告の単独犯です」と主張した。

 隆一さん殺害後、750万円の退職金のほか2000万円の死亡保険金は、敦子被告の夫、保彰の口座に入金され、直哉被告の購入した高級車のローン返済などに費消されたという。

 直哉被告は本当に「霊媒師JUN」の存在を信じていたのか。今後の公判で、敦子被告を中心とする一族の実情がどこまで明らかにされるのか。注目してゆく。

◆取材・文/高橋ユキ(フリーライター)

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