「料亭」の入り口で、上半身が下着姿の綺麗で若い女性が笑顔でこちらに向かって手を振る。女性の傍らにいるおばちゃんも「試しに入ってみればええやろ」と客を誘い込む。大阪「新地」で見られる日常的な光景だ。「料亭」として営業しながら、“合法的”な売買春の場として、古くから続いてきた大阪の新地のひとつ「松島新地」(大阪市西区)が今大きく揺れている。複数の店舗が『売春防止法違反(場所提供業)』の疑いで、府警に摘発されたからだ。
「府警の捜査の端緒はある匿名の通報だったといいます。『知り合いの女性がホストでお金を支払えず、新地で働かせられている』といったものでした。慎重に捜査を進めた結果、ホストクラブを実質的に運営していた奥田千城容疑者(31)らの関与が浮上。直接の営業許可は別人の名義でとるなどしていたようですが、府警は奥田容疑者らがホストクラブと新地の料亭双方の実質的な経営者とみて捜査を進めています。奥田容疑者の母親や祖母も料亭の経営者として逮捕されています。
容疑者らが関わっていた料亭は『千姫』『天姫』『椿姫』『ピノ』と少なくとも4店舗あり、親族がさらに別の店舗を経営している可能性もあります。これらの店で、のべ150人以上の女性が働いていた。この中にホストクラブの客も含まれていたといいます」(事件担当記者)
これが事実であれば、“効率の良い”経営ともいえるだろう。新地で働かせた女性をホストクラブに通わせれば、女性が相手にした客の男性が落とすカネに加えて、女性のカネもホストクラブで回収することができる。
「東京と同じように大阪でもホストクラブの“売掛金”の返済をめぐるトラブルが問題になっています。今回は、マッチポンプのような仕組みで、女性から搾取していた構図が浮かび上がり、府警は見せしめも含めて、松島新地に手を入れたのだと思います。ただ周囲からはなぜ、この容疑でいまさら摘発するのかという困惑の声も多く聞かれます」(同)
府警がこのタイミングで摘発した「2つの理由」
大阪の「松島新地」や、有名な「飛田新地」にある料亭のたてつけは、あくまで飲食店で風俗店ですらない。個室のあるお店で、女性従業員と会話が弾み男女の仲になるというタテマエだが、40分で数万円を払うのに、提供される飲食物は、お茶と安いお菓子などだ。「松島新地」は、「飛田新地」よりも比較的に安価に遊べるため、人気があるといい、在籍する女性はのべ人数で1000人規模とも言われているという。
「警察ももちろん新地で行われていることは把握しています。売買春が禁じられている日本で『必要悪』として存在し続けた。それにあえて、メスを入れたのは2つの理由があると思います」と話すのは別の報道記者だ。
「奥田容疑者らの行為が、悪質だったということです。これまで、ホストクラブと新地の料亭のいずれも経営しているというケースは府警としてもあまり聞いたことがなかったようです。ホストの客を風俗店などに“沈める”というケースはよくあるかと思いますが、まさにその両方を自分の“ハコ”でやっていたことに目をつけた。裏を返せば、ホストの客さえ従業員としていなければ、今回の摘発はなかったとも言えます。
もうひとつの理由は大阪万博です。東京五輪に向けて警視庁による都内の風俗店などの“浄化作戦”がありましたが、万博に合わせて府警が府内の風紀を乱す店を積極的に取り締まりたいという狙いもあります」
五輪開催前に警視庁は、東京都内のピンサロを公然わいせつ容疑で相次いで摘発した。特に過激なサービスで売り上げを伸ばしていた店舗がターゲットとなったが、その際も、ピンサロの業態はすべての店で同じ罪が成立するため、業界に激震が走った。
ただ、2021年7月に、警視庁に摘発された都内のある和服をテーマにしたピンサロは、2024年現在、店名は変わっていたが同じようなテーマの店が営業していた。一時的に摘発されてもニーズがある店は限りなくならないということなのだろうか。
「あー、別の所は摘発されたけどね。私たちは大丈夫なんだって。たしかに私たちがやっていることは、お金をもらって性交渉をする売春だから犯罪ですよね。でもね、これでずっとここは、やり続けてきたわけだし、警察も分かってずっと放置しているわけですよね。そして仮に逮捕されるとしても、“恋愛”を斡旋してお客さんを呼び込んでいるママだけだって。私は大丈夫だからね、別に何も変わりませんよ」
ある「松島新地」で働く20代女性はこうあっけらかんと話した。