NHK連続テレビ小説、通称”朝ドラ”、特に主演俳優ともなれば国民的関心を集める存在になる。役柄と俳優は別人だし、プライベートとドラマは別の世界、そして演技力への評価はもっと別物だと分かってはいても、視聴者はそれらを関連があるもののように受け取り、出演ドラマの評価につなげがちだ。臨床心理士の岡村美奈さんが、朝ドラでヒロインを演じる橋本環奈(25才)を苦しめる「ホーン効果」について解説する。
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NHK連続テレビ小説『おむすび』の主演女優・橋本環奈が「ホーン効果」に苦しめられている。スタートから1か月が過ぎた『おむすび』、一部のメディアには歴史的低視聴率とまで書かれるほどの苦戦続き。その上、10月31日発売の『週刊文春』には、橋本さんの壮絶なパワハラで少なくとも8人のマネージャーが退職していたことなどが報じられていた。
ホーン効果とはネガティブなハロー効果のこと。ハロー効果は人の目立つ特徴や好ましい、良いと思う点から、他もすべてが好ましく、実際よりも良く見えてしまうという現象だ。ホーン効果はその逆で、悪い点が印象的だと他のところも実際より低く評価してしまうことをいう。ハロー効果は後光効果と言われるのに反し、ホーン効果は悪魔の角を意味するホーンから、悪魔の角効果ともいわれる。
『おむすび』は橋本さん演じる平成元年生まれのヒロイン米田結が、栄養士として、人の心と未来を結んでいく”平成青春グラフィティ”。中高年中心といわれる視聴者層に、若年層を取り込みたいNHKが橋本さんにヒロインをオファー。橋本さんは平成のギャルとして、どんなことでも自分らしさを大切にするギャル魂を胸に、激動の平成・令和を思い切り楽しく、時に悩みながらもパワフルに突き進むというヒロインを演じているはずなのだが、予想に反し第6週までドラマの中の橋本さんには笑顔が見られなかったのだ。
朝ドラといえば、ヒロインはどんなに暗く辛い状況にも耐え、明るくひたむきに前を向いて進んでいくという姿が描かれてきたが、今回は少々勝手が違った。ヒロイン結が見せるのは面白くなさそうな、困ったような表情ばかり。橋本さんの可愛い笑顔を期待していた視聴者にとっては、がっかりするような展開に。
ネットには酷評が相次いだというが、そう書きたくなる心境もわかる。朝から暗い顔をした不機嫌そうなヒロインと平成ギャルを見るのは辛い。阪神・淡路大震災にまつわる暗く悲しいエピソードに、夢もなく何をしたいのか見えてこないヒロインの日常と、結の中に溜まっているギャルや姉への鬱屈した感情とギャルへの憧れの葛藤ばかりが目立った。そのせいか、朝から鬱々とした気分になった視聴者もいたようで、脱落者が続出という現象が起きてしまったという。
そんなところに報じられたのが、根性が据わりすぎているという橋本さんによるパワハラ疑惑。本来、根性が据わっているというはプラスの要素。だからこそ彼女は、大晦日に行われたNHKの紅白歌合戦の司会も見事にこなしてきたといえる。だが壮絶パワハラというキーワードからホーン効果が起こってしまうと、そういえば!? と悪いところばかりが目についてくる。過去に演じた役の粗暴なシーンのリアルさが疑惑につながり、ある番組で話題になった断トツに態度が悪い清楚系女性タレントが彼女かも?と憶測され、すべてが悪い方向に向かっていく。冴えない表情ばかりの朝ドラに疑惑を吹き飛ばすパワーもなく、”パワハラが本当なら”と視聴者は観るのをやめていった。
そんな『おむすび』はここに来て一気に展開が変わり、ネットには朝ドラらしい雰囲気になってきたという声も聞かれる。ようやく見られる橋本さんの笑顔で、ホーン効果の負の連鎖を吹き飛ばしてもらいたい。