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杉山桃子さん、祖母を書いた&描いたデビュー作についてインタビュー「佐藤愛子の人生を自分なりに表現できるのはありがたい財産」

NEWSポストセブン 2024年11月17日 16時15分

【著者インタビュー】杉山桃子さん/『佐藤愛子の孫は今日も振り回される』/コスミック出版/1540円

【本の内容】
 本書の「おわりに」で、桃子さんは祖母・佐藤愛子さんについてこう綴っている。《確かに私と祖母は合わないと思う。(中略)祖母は私のことをよく「頭でっかちで理屈っぽい」と言うが、私は祖母に対して「事実や道理より自分の感情を押し通す人」と思っているのである》と。そんな考え方、生き方の違いも相まって、桃子さんの祖母を見る目は実に批評的。辛口でありながらユーモラスな文章はどこか佐藤さんとも通じる。「祖母との思い出」「佐藤家の人々とその周辺」「アバウト・ミー」「最近の祖母」「娘と孫の対談」の全5章。本文内の漫画も描いているほか、グラビアにも挑戦している。

祖父母や両親をケアする介護 世代に寄り添うような文章を

 タイトル通り、孫の目から見た祖母の姿が描かれている。杉山桃子さんは、佐藤愛子さんの読者にはおなじみの「孫の桃子」で、あの佐藤愛子にここまで遠慮なくツッコミを入れられるのは、日本中で桃子さんただ一人であろう。

「担当編集者さんは、たぶん佐藤愛子のファンに向けての本を出したかったと思うんですけど、祖父母や両親をケアする介護世代に寄り添うような文章を書けたらな、という気持ちが自分の中にはありました」

 遠慮なく書いて炎上したらどうしよう、とも思ったそうだが、「炎上するぐらいの本を書けたらすごいじゃないですか」という担当編集者の励まし(?)もあり、「ブレーキをひとつはずして」書いた本だという。

 佐藤愛子さんはこの11月5日で101歳になった。年齢による認知機能の衰えもあるそう。取材当日は、骨折の治療などで入院中とのことだった。

「書いているときは祖母も家にいて、リアルタイムで介護していたので、結構モヤモヤしながら書いているところもあったんですよね。ただ、こうして本が出させてもらえるのは本当に祖母のおかげだし、佐藤愛子という一人の人間の人生を自分なりに表現できるというのは、自分にとってありがたい財産なのかなと感じています」

 佐藤さん自身が描く佐藤愛子も面白いが、孫の目から見た祖母佐藤愛子も爆発的に面白い。ユーモラスで愛があり、ところどころに辛辣さもある桃子さんの人間観察眼は、さすが祖母譲りと思わせる。

 佐藤さんは、さぞ観察しがいのある対象だっただろう。

「みなさんそうおっしゃるのもよくわかるんですけど、なにぶん『おばあさん』というのを佐藤愛子しか知らなくて……。父方の祖母もいますけど、一緒にいる時間が短かったし、昔話に出てくる『いいおばあさん』みたいな優しいおばあさんだったので、『いいおばあさん』と『意地悪ばあさん』みたいで本当に対照的でした(笑い)」

 佐藤さんについて、「厳密に言うと、意地悪というより深すぎる愛情がひっくりかえって、おかしなことになるんだと思います」と孫のフォローが入った。

 ずっと一緒に暮らしてきたが、桃子さんが高校生ぐらいのときから、「おばあちゃん」という感じの存在ではなくなったそうだ。

「なんと表現したらいいのか難しいんですけど、すごくめんどくさい先輩みたいな感じでしたね。一般的な、祖母と孫の遠慮みたいなものはない関係でした」

 佐藤家をよく知る人からは、佐藤さんと桃子さんの母響子さんは、親子でありつつ夫婦のような関係性でもあり、桃子さんは二人の子どものようだと言われたそうだ。

 佐藤さんの元夫で、桃子さんの祖父(作家の田畑麦彦)についても書かれている。田畑麦彦について、佐藤さんの読者が「諸悪の根源」とインターネットで書いているのを響子さんが見つけ、憤ったことがあったという。

 佐藤さんの小説だけ読むと、多額の借金を残し、佐藤さんが借金を背負う原因をつくった人として記憶に残るが、孫の目から見た祖父は、ほがらかで呑気な、品のいいおじいさんだったそう。

祖父の人柄の良さが祖母や母を救った部分はあった

「私にとっては本当にいいおじいちゃんだったし、母にとってもいい父親だったんじゃないかと思います。祖母はあの通り、ものすごく怒りっぽいから、祖父が緩衝材になっていたところはあると思うんです。祖母の人生にとって『害悪』に見えるかもしれなくても、祖父の人柄の良さ、のんびりしたところが祖母や母を救った部分は確かにあったと思うので、そういう面が少しでも伝われば」

 ヤクザと夜通し賭け麻雀をしていたことから、杉山家では祖父のことを、「カイジ」(漫画(『賭博黙示録カイジ』の主人公)と呼んでいる、というのがおかしい。

 佐藤さんの姉早苗さんについても「祖母にとってはとても大きな存在だった」と桃子さんは言う。

「認知機能が落ちていることもあるんですけど、母のことを早苗だと間違えたりして。祖母の本について『早苗についてもっと知りたい』というAmazonの読者コメントがあったこともあり、彼女についても少しですが書いています」

 執筆していたのが介護がどんどん大変になってくる時期と重なったこともあり、元気だったころの祖母の姿が思い出せないこともあったそうだ。

 それでも、桃子さんがまだ字を書けなかった幼少の頃に、自分で考えた物語を佐藤さんに口述筆記させたことや、キッチンペーパーを買うのをケチって書き損じの原稿用紙の上に揚げ物を並べる祖母を見て、同じようにしていたら母に怒られた話など、懐かしい思い出がいろいろ描かれている。

 あるとき死んだ後の話になって、佐藤さんが桃子さんに「人は死んだら無になる」と言ったそうだ。スピリチュアルな世界に関心を持ち続けてきた人なので意外でもあるが、「頭では理解しても、芯の芯では信じきれなかったということなのかなと思います」。

 桃子さんは「青乎」という名前で活動する音楽家で、漫画家でもある。今回の本には文章だけでなく漫画も収録され、桃子さんの笑いのセンスが炸裂している。

 草笛光子さんが御年90歳で佐藤愛子役を務め、今年6月に公開された映画『九十歳。何がめでたい』の撮影現場見学の漫画も面白い。

 佐藤さんと桃子さんは毎年、年賀状のために趣向を凝らしたコスプレ写真を撮影していて、本にもなっている。映画ではそれが、贅沢にも写真で忠実に再現されている。

 落武者の扮装をすることになった草笛さんが「ご先祖様に顔向けできない」とつぶやき、それを目の前で聞いた桃子さんが「祖母の悪ふざけのせいで大女優が……」と申し訳ながっている様子も描かれて、笑ってはいけないのにこみ上げる笑いに七転八倒する。取材・構成/佐久間文子

【プロフィール】
杉山桃子(すぎやま・ももこ)/1991年東京生まれ。立教大学卒。作家・佐藤愛子さんのエッセイに「孫の桃子」としてたびたび登場する。幼少期よりコスプレ年賀状に付き合わされ、『孫と私のケッタイな年賀状』として刊行されている。それを映画『九十歳。何がめでたい』では草笛光子と桃子役の藤間爽子が熱演(!?)。現在は「青乎(あを)」名義で音楽、映像などの創作活動を行っている。本作が初著作。

取材・構成/佐久間文子

※女性セブン2024年11月28日号

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