動物虐待のニュースが相次いでいる。あろうことか動物の飼育・繁殖を専門とするブリーダーによる事件も少なくない。今年6月には埼玉県内のブリーダーの男が、犬3匹を窒息死させたとして、動物愛護法違反の疑いで逮捕された。事件発覚当初、NEWSポストセブンは関係者への取材をし、この男が経営していた施設の元スタッフらから「知っているだけでも100匹は殺していた」「10年以上前から繁殖できなくなった犬を殺していた」など耳を疑うような証言を得ており、その一部については当時、紹介した。
男は後に罰金40万円の略式命令が下されたが、「罪が軽すぎる」といった意見がインターネット上では多く見られた。動物虐待はなぜ無くならないのか。「動物環境・福祉協会Eva」の代表理事で俳優の杉本彩さんに話を聞いた。【前後編の前編】
──事件が発覚した埼玉のブリーダー施設を取材しましたが、周辺に悲鳴のような犬の鳴き声が響きわたっていました。吐き気を催すほど匂いもきつく、施設の衛生環境の悪さがうかがえました。施設の関係者に取材すると、長年奇形やオークションに出せない犬を車内で熱中症で殺したり、洗い場で溺死させたりしていたという証言がありました。“お金”を産まなくなった犬に“無駄な維持費”をかけないようにすることが目的かと思います。
「これが日本のペット業界なんです。そもそも誰でも、第一種動物取扱業として登録さえすればブリーダーになれます。知識やモラルが無くても要件を満たしていれば登録できる。
最近ではミックス犬を作ったりするブリーダーもいます。有名どころではトイプードルとチワワで『チワプー』とか。珍しい犬として乱繁殖をしています。さらに、ひどいのは大型犬と小型犬を掛け合わせることです。これは命に対する冒涜です。こうした犬を何の問題意識も持たずに買ってしまう消費者もいる。悪質な業者はとにかく利益を上げることにしか意識がない。業界団体も見て見ぬふりをしているケースもありましたね」
──おっしゃるように、利益至上主義が悪質な業者の根本にあると思います。埼玉の施設関係者が証言した用済みとなった犬の“処分方法”は耳を疑いたくなるようなものでした。
「儲かってしまうからこういうことをしてしまうのです。そもそもペット業界の未経験者が突然ブリーダーを始めているケースが多くみられます。動物が好きでもないまったく異なるジャンルの事業者が、儲かるだろうと兼業で事業を始めたり、もしくは、動物好きがきっかけだったかも知れませんが、知識も経験もなく我流で始めそのうち金儲けに走ることも多々あります。私たちが告発した長野県の業者『A』もまさに、そうでした。こういう人たちが『犬は商売になる』と知り、どんどん産ませてオークションに出して莫大な利益を得ていた。
ただ一方で、ブリーダーの中にはアニマルウェルフェア(動物福祉)の精神を持っている人もいます。良いブリーダーは簡単には産ませません。この人だったら産ませた子を譲っても良いという人が現れない限り、繁殖させない人も居ます。こういう人は、子犬をオークションには流さないので、ペットショップに流通しません」
──アニマルウェルフェアを重視すると商売としてはなかなか成り立たないですね。利益至上主義の業者とは対照的です。
「このような優良ブリーダーと違い、たくさんの頭数を抱えている繁殖業者の飼養施設では、虐待(ネグレクト)が常態化しています。病気や怪我をしていても医療にかけない医療ネグレクトであったり、抱える頭数に見合う人員がいないことから適正な給餌給水がされていないなど。『A』の裁判で、繁殖施設にいる犬の写真が法廷に映し出されたのですが、本来丸くふっくらしているフレンチブルドッグがガリガリに痩せ、大きな目が落ちくぼんだ顔が非常に印象的でした。帝王切開も雑な縫い方で傷がひどかった。そして犬は基本ケージに入れっぱなしです。繁殖と出産の時だけ外に出すのでしょうが、散歩なんてまずしません」
──今年6月に、動物愛護法の改正が完全施行となりました。飼育数の制限や飼育法など動物の飼育環境に配慮されたものとなりました。
「形としては前進しています。ですが実際に頭数制限を守っているか行政が事業者の所にいって把握することは極めて困難です。埼玉の事件でも、当時テレビのニュースで見ましたが、一つの小さなケージに2頭犬が入って吠えていたじゃないですか? もうあの時点でアウトなんですよ。
頭数制限があったとしても、そしてケージ内に一定のスペースを設けてくださいと決まっていても、埼玉のケースで行政は12回立ち入り調査を実施したそうですが、口頭で指導していただけで改善に繋げることなく最終的には警察が入り逮捕に至りました。業界の問題を解決する上で、最初に介入できるのは行政ですからここで確実に改善させないと動物の苦痛が長引くし、命を落とすことに直結します」
──法改正が完全施行となり形式的には以前よりも整ったわけなので、実際に現場を所管する地方自治体の意識がもっと変わる必要があるということですね。
「はい。無麻酔で帝王切開をしていた長野県の業者『A』もそうでした。行政は14年間こういった状態が続いているのを分かっていたのに何一つ改善させられなかったんです。残念ながら、形式的な指導を繰り返しているというのが動物愛護に関わる行政の現実です」
──それではいくら仕組みだけできても、あまり現場は変わりませんね。
「環境省が今年の2月に、ペットオークションとブリーダーへの一斉調査結果を公表しました。それによると全国で調査されたブリーダー約1400事業所のうち約5割にあたる約700事業所に法令違反が確認されました。また、全国のペットオークションで取引された犬又は猫のうち、多くに生年月日の改ざんがなされていることが強く疑われる結果が出ました。それは前回の法改正で8週齢規制が施行されましたが、業界はなるべく小さいうちに(市場)に出したいのでそれを守らずに8週未満で流通させ、オークションが開かれる日程からさかのぼって8週目に“産まれたことになっている”犬が多いのです。
それに、飼育に従事する従業員数やケージの広さも守られていませんでした。従業員数により飼育できる動物の数のルールは1日単位ではなく1週間単位で決まっているので、実態の把握が難しいんですよ。『今日はたまたま人が少ない』と言い逃れられてしまう。抜け道が残されていますよね。法が適用されるまでに5年くらいあったのに、こんな状況です。
こうした悪質な業者は飼育環境を良くしようとしていたわけではなく、早めに儲けてやろうくらいしか考えていないんです。スタッフの水増しだけではなく、行政がチェックする時に知り合いのブリーダーに犬を預けて検査をすり抜けるブリーダーもいます。また、頭数が多すぎるからと、保護団体に病気の犬を譲渡して改善報告をしていたケースもあり、何でもアリというのが実態です」
(後編に続く)