年に一度の九州場所。NHK大相撲中継に映る向正面の溜席に、維持員や協会関係者の間で話題となっている女性がいる。力士が着ている四股名入りの浴衣地をワンピースなどに仕立てて観戦する女性だ。しかも、15日間毎日、違う四股名の浴衣地の洋服で登場する。一体、どういう理由なのか。
今年の九州場所初日は貴景勝(現・湊川親方)の四股名が入ったブルーの浴衣地をワンピースに仕立てていた。貴景勝が化粧廻しにも採用したジェラートピケのデザインの浴衣地から作った、首元が大きく空いたワンピースで観戦していたのである。
2日目は黒地に若元春の四股名が白く染め抜かれた浴衣地の洋服で登場。3日目は黒地に正代の四股名とくまモンが描かれ、4日目は白地に藍色で若隆景と染められた浴衣だった。そして、5日目は緑地に馬のイラスト、霧馬山の四股名が描かれた浴衣地のワンピースで観戦していた。
貴景勝の誠実さで大ファンに
どのような基準でその日の洋服を選ぶのか。打ち出し後に話を聞いた。「ただただ好きな力士を応援しているだけなので……」と言葉少なだったが、初日に9月場所で引退した貴景勝の浴衣を着ていた理由を聞くと、笑みをこぼしながらこんな答えが返ってきた。
「たまたま貴景勝関とパーティでお話しする機会があって、“関取の浴衣地でワンピースを作ったんですが、本場所で着てもいいですか”と聞くと、いいですよと喜んでいただけた。その時に関取の“素直さ”“誠実さ”“人柄”に引かれて、大ファンになったんです。このジェラートピケのデザインの浴衣地は5月の夏場所の頃に手に入れました。
洋服に仕立てて九州場所で着ようと思っていたところ突然の引退。引退の時点ではまだ仕立てていなかったんですが、絶対に九州場所の初日に着ようと思って慌てて作りました。この生地は浴衣地ではなくて洋服生地で少し厚手なんですよね。仮縫いを何度もしたので時間はかかりましたがなんとか間に合って、着ることができました」
直接挨拶にも行った
この女性は、花道の警備をしている湊川親方(元・貴景勝)に、四股名が入ったワンピースを着て挨拶に行ったという。
2日目以降のチョイスについて見ていくと、2日目が若元春、3日目が正代、4日目が若隆景で、いずれも結びの一番で大関と対戦した力士たちだった。
「大関を相手に勝ってもらいたくて着たんですが、全敗でした。5日目も豊昇龍関と結びで対戦した若隆景関の浴衣地で作った洋服を着たかったんですが、ゲン担ぎでやめました。つけているアクセサリーを変えたり、国際センターまでの道順を変えるなど、私がいろいろゲンを担いでいます(苦笑)。
応援したい関取がたくさんいるんですよね。5日目も霧島関の以前の四股名である霧馬山の浴衣地で応援したんですが、負けちゃいました。正面から見て四股名が胸元に見えるようにデザインしています。溜席では応援タオルを掲げることができないので、浴衣地の四股名なら掲げてもいいだろうという気持ちも込めているんです」(同前)
ワンピースが応援タオルのような役割になっているようだが、6日目には、岩手の名物「わんこそば」をモチーフにしたキャラクター・そばっちのイラストがあしらわれた岩手県盛岡市出身の錦木の浴衣地のワンピースで観戦。欧勝馬を寄り切りで破り、四股名ワンピースの女性が応援する力士の連敗をストップさせた。15日間、着る洋服はどのように決めるのか。
「14日目は音羽山部屋、千秋楽は時津風部屋の浴衣で作ったワンピースを着ることだけは決めています。
あとは基本的に割りをみて前日に決めています。応援したい力士が上位と当たる時に四股名が入った洋服を着ることが多いですね。あとは応援している力士同士が当たることがあると、どちらの四股名も着られないので、他の力士の四股名を着ることもあります。いろいろ考えているうちに複雑になって当日の朝まで迷うことも少なくないですね」
年に一度しか見られないのが残念だが、このようなファンに応援されている以上、土俵上で熱戦が繰り広げられるのは当然かもしれない。