放送作家、タレント、演芸評論家、そして立川流の「立川藤志楼」として高座にもあがる高田文夫氏が『週刊ポスト』で連載するエッセイ「笑刊ポスト」。今回は“棒読み演技”を愛する「スティック・コレクター」としての日々について綴る。
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偶然テレビで内藤剛志主演の『警視庁・捜査一課長』を見てしまった。そこに“奥野親道”と名乗る捜査一課長公用車の運転刑事としてナイツ塙が出ていた。奥の細道は知ってるけど何だその“ちかみち”ってと小さくあきれてつっこんで見ていたら、その演技たるやアハハと笑ってヘソで茶が冷める台詞まわし。
翌日ニッポン放送で会ったので「昨日見たよ」に塙、嬉しそうにほめられるのを待っていたので私は「みごと。“流れるような棒読み”だな」。膝からくずれ落ちたヤホーであった。私のこの言葉、金言がはげみになったのかとうとう塙は素人演劇集団「劇団スティック」を立ちあげた。
この熱、この芝居にかける情熱は並々ならぬものがあった。「我こそは棒だ」という男女が20人近く集まった。こいつらは私の言う「棒の道」を突きつめる気なのだ。第1回公演がせまってきた。あまりにもふびんに思ったのかなんと戸田恵子(アンパンマン・正義の味方)が助っ人に名乗りをあげてくれた。さすが私の芸能界一の古いつきあいのアクトレスだ。
この日から私はテレビの中の“スティック・コレクター”となった。私にしか判別できない「棒」というのもあるのだ。
そうこうしている内に爆笑問題太田光が「今度ドラマ出るからネ。もう演技派だから。ドラマツルギーとか日芸で習ってきちゃったから。漫才なんてやってる場合じゃない。芝居これ一本で行くから」と豪語。出演は新しくなった『孤独のグルメ』シリーズ第1回。「松重監督にはもうバカハマリだから」。ちょうどスティックを探している所に始まりました。
太田は主人公・井之頭が食べに来る町中華屋のおやじ役。当人はいたく気に入り「これから先、いろんなドラマに呼んでもらって全部中華屋のおやじで出してもらおうかな。中華屋おやじの道を極めたい」など訳の分からないことを言っている。2本目の棒のコレクションだ。
ふと気がついた。ナイツの土屋と舞台でからみ私がアドリブで「西日暮里どっち?」というとサッと指をさす。「八戸は?」「こっち」「マニラ」「こっちです」すべて方向が分かるのだ。鳥の目をして俯瞰で見ているのだ。「桂子師匠は?」ときくと塙が下の方を指さす。「地獄行ってねぇわ」というオチ。できた。「棒」と「棒」と「鶏」。「トリオ・ザ・バンバンジー」の完成である。爆問田中は片玉の為、欠席。
※週刊ポスト2024年11月29日号