大接戦と予測されたアメリカ大統領選は、蓋を開けてみればトランプ氏が圧勝。メディアの事前予測は“誤報”だった。そんななか、元内閣参事官で嘉悦大学教授の高橋洋一氏はトランプ氏の圧勝を予測していた人物の一人。今後の日米関係の行方について高橋氏が解説する。
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「トランプ・トレード」(トランプ氏勝利で影響を受ける株式などを売買する取引)の影響もあって為替は当面、円安ドル高に動くものの、遠からずドル安(円高)に転じるだろう。
「すべての輸入品に関税をかける」と掲げたトランプ氏の公約が意識されることにより国内物価が上昇し、インフレを再び加速させる。
しかし、「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ氏は国内産業の国際競争力を高める自国通貨安政策を志向する。ドル高(円安)を抑え込もうと、あらゆる手を打つはずだ。自国通貨安を志向する金融政策は、「近隣窮乏化政策」とも呼ばれる。通常、ドル安(円高)ならアメリカの輸出は増加する効果があるが、相手国の日本にとっては国際競争力が低下して輸出が減少するリスクが高まる。
トランプ氏はすべての輸入品に一律10~20%の追加関税をかけるほか、中国からの輸入品には60%超の関税をかけると掲げている。実際に政権が始動すれば、まずは中国を「為替操作国」に指定し、追加関税などの制裁措置を検討することになるはずだ。
日本も「為替操作国」と名指しされるリスクはある。在日米軍の駐留経費を引き上げる議論が蒸し返される可能性もある。トップ同士の交渉次第で条件は良くも悪くもなる。
2016年の大統領選でトランプ氏が勝利した直後、世界の首脳に先駆けてニューヨークのトランプタワーを訪ねた安倍晋三・首相(当時)の行動が参考になる。このNY訪問で安倍氏はピコ太郎のPPAP(ペンパイナッポーアッポーペン)を踊った孫娘の動画の話題でトランプ氏と娘・イバンカ氏の心を掴み、首脳会談では一緒にゴルフを楽しむことで信頼関係を深めた。
その個人的な関係を背景に安倍氏はトランプ氏を説得。二国間協議で不利な条件を呑まされずに済んだ。石破首相は今からでもゴルフ練習に励むべきだが、信頼を勝ち取るのは無理かもしれない。
なぜなら当の安倍氏が「石破氏だけは総理にしてはいけない」と発言していたことはトランプ氏の耳にも入っているはずだし、短命内閣に終わると見透かされれば、トランプ氏も会わないだろう。
逆に、会うに値する相手として認められているのは安倍氏と近い麻生太郎・自民党最高顧問だが、麻生氏が石破氏の下では「動かない」という姿勢を打ち出せば、日米関係の悪化、それによる日本経済への影響を危惧した議員らによる「石破おろし」が加速する。来年1月の国会開会前に麻生氏を後ろ盾とする高市早苗・前経済安保相への交代劇が起きるなら、同20日の大統領就任前に交渉体制が整うと考えることもできる。
【プロフィール】
高橋洋一(たかはし・よういち)/1955年、東京都生まれ。嘉悦大学大学院ビジネス創造研究科教授、株式会社政策工房代表取締役会長。1980年大蔵省(現・財務省)に入省、小泉内閣・第1次安倍内閣ではブレーンとして活躍。2008年に退官し、『さらば財務省!』(講談社)で第17回山本七平賞を受賞した。YouTube「高橋洋一チャンネル」で注目を集め、チャンネル登録者数は100万人を超える。
取材・構成/広野真嗣(ノンフィクションライター)
※週刊ポスト2024年11月29日号