「今日は皆さんのダンスで観客に生きる目標を与えてください。もうアマチュアではないんだからね。気合を入れて、頑張って!」
握りしめたこぶしを振り上げて、そう激励した杉良太郎を中心に輪になったダンサーたちが一斉に「オォーッ!!」と地鳴りのような気勢を上げた。
11月3日、都内でダンス大会「FIDA GOLD CUP 2024」が開催された。普通のダンス大会ではない。最高齢91才を含む、260名のシニアダンサーが集結した、世界的に見てもめずらしい高齢者がメインのダンス大会だ。
夕刻、開場前で開場を待つ行列ができる中、リハーサルを終えた出場チームが順にロビーへ戻ってくる。本番を控えてそわそわした空気が流れると、大会を主催する社団法人日本国際ダンス連盟FIDA JAPANの名誉会長を務める杉がロビーへ合流。冒頭のように鼓舞し、さらに、「今年は大きな賞金を用意しています。頑張ったら来年はもっと増えるよ」と、出場者の心に火をつけた。
「FIDA GOLD CUP」は“シニアから元気を発信する、超高齢社会のダンス大会”。高齢者が精神的にも肉体的にも健康でいるための取り組みのひとつとして、杉が提唱した「ダンス健康クラブ」に登録するチームが競うダンス大会で、2022年に誕生した。
ダンス健康クラブは全国にチームを作ることを目標に掲げ、現在は19都道府県31チームが活動している。3回目となる今大会には北は青森から南は大分・熊本までの16チームが参戦した。出場条件は60才以上であること。大会名のGOLDには「Good OLD=古き良き/良い形で年を重ねている」という意味が込められている。
「大動脈解離で死にかけた」
戦いの火ぶたが切られると大会初出場のルーキーチームが次々、魅せた。東京の『TEAM★HOLIDAY』は韓流アイドルStray Kidsの『S-Class』で疾走感のあるステージを見せ、ダンスブレイクではブレイキンも! まさかの展開に観客はもちろん審査員席もあんぐり。拍手と喝采がホールを包んだ。
熊本『SIJ GOLD CREW』はダンス未経験者の集まりながら審査員を唸らせる緻密な編成でファンキーに群舞した。
今年は大会史上初の“ボーイズグループ”も。男性だけで構成された埼玉『ケロッグ・ダンディーズ』はAdoの『うっせぇわ』で表情豊かに熱のこもったステージを飾った。かつての演劇仲間が集まっただけあり表現力は抜群。アンパンマンや「爺」の文字のワッペンで装飾されたピンクのパーカー×黄色い腹巻のポップな衣装と薄めな頭髪とのギャップで客席をお茶目にわかせた。杉も、「男性チームは少ないが出場者はレベルが高い。やる気、気力のようなものがみなぎっていたね」と、一目置いたほど。
常連組も負けてはいなかった。特殊詐欺撲滅を訴えるコミカルなパフォーマンスで昨年大会を制した青森『YDK65』は、今大会では薬物撲滅をテーマにした新曲でロッキンやホッピンを組み込んだ。フットワークの強化を図り、ステップの精度も格段に上昇。最高齢の91才を擁する大阪『まかろん♪』は踊りながら全員で早着替えを披露した。
毎大会、ド派手なメークとコスチュームで異彩を放つ埼玉『GOLD DRAGON』も期待を裏切らない。本番前日に完成した着物調のキラキラ衣装や和傘に加えて置物まで手作りして世界観を演出し、このまま今年の紅白歌合戦に出てもいいのではと審査員が絶賛するほど、エンタメ性の高いステージに。
参加者たちは「膝・腰・肩の通院をしながら練習した」「膝の手術をした」「大動脈解離で死にかけた」など、シニアならではの悩みや事情を抱えてダンスに取り組んでいる。それでも元気いっぱいに2分~2分半のステージで飛び跳ねて、平均年齢70代のチームが時には大開脚も見せる。
そのため本大会では、杉の考えを反映したオリジナルの審査基準として、振り付け、表情、活力、衣装/ヘアメイク、完成度の5項目を設定。さらに「GOLDポイント」として、75才以上のメンバーの人数×0.5点が加点される。
「1才で体力が天と地ほど違う」
結果は3位が埼玉『GOLD DRAGON』、2位が強豪の神奈川『FOREVER CHANCE!』。優勝を埼玉『ケロッグ・ダンディーズ』が飾り、賞金100万円と大会協賛企業・富山常備薬のCMメイン出演権を獲得した。
3チームの賞金総額は160万円。冒頭の激励しかり、杉が賞金を重んじるのにはわけがある。
「私は芸能界で60年ですが、若い頃からバックダンサーと呼ばれる人たちにスポットを当てないといけない、ダンスで生活していけるようにしたいと考えてきた。その思いでプロダンスリーグの『D.LEAGUE』を立ち上げたんです」
出場チームの健闘を讃えながら、杉はこう続けた。「そしてダンスは若い人だけのものじゃない。高齢者が健康で長生きしてほしいとの願いを込めて、ダンス健康クラブの活動がある」
この日は厚生労働省「健康一番プロジェクト」の「健康ダンス」チャレンジ企画も行われ、今年100才を迎える伊藤小枝子さんが挑戦。2回連続でダンスを踊り切ると「苦しかったです。でも、苦しさがないと楽しさが大きくならないですから」と語って、会場中のシニアに勇気を与えた。健康ダンスの動画もお披露目され、102才も登場。さらなるどよめきが広がった。
「私も80才になってよくわかりますが、1才だけで体力が天と地ほど違う。10才では天文学的に違う。それが皆さん、90才や100才で舞台に立っている。GOLDダンサーたちの気力を会場の皆さんも受け取ったでしょうか。来年は賞金争奪戦のような、“人間むきだし”のもっと熱いバトルにしたいと思います」
杉はそう語って「私も今から生活を切り詰めて賞金を貯めますから」と、笑わせた。昨年末はベトナムでのダンス交流を果たし、シンガポールからも視察の申し込みがあったと明かす。
日本全国、やがて世界へ。高齢者の健康長寿を願う杉の想いが、ダンスを通じて広がっていく。