大相撲九州場所の向正面の溜席で観戦する姿が3日連続でNHKのテレビ中継に映り、SNSで「93歳には全然見えない」「本当に好きなんだね」といった投稿が相次ぎ、ネットニュースにも多数取り上げられた喜劇役者の大村崑氏。10日目には控え行司の左隣で観戦し、大栄翔に寄り切りで敗れた大の里が勢い余って大村氏のところまで飛ばされると、身をかわして逃がれていた。
7月の名古屋場所でも西の花道に近い溜席の最前列で観戦していた大村氏のところに正代が落下してきて接触するというハプニングがあったが、その時も素早く反応して大事には至らなかった。11日目の観戦を終えた大村氏に話を聞いた。
「ボクは勘が当たるというか、4歳から相撲を見ているからこっちに落ちてくるのがわかるんです。経験から言うと、一度あることは二度ある。不思議なことに、力士が同じところに飛んでくるんです。それで溜席でも周囲の人に“さっき飛んできたからといって、気を抜いちゃだめだよ”と言ってあげるんですが、言っているそばからそこに落ちてきたりする。
名古屋場所でも“危ないからね”と言っていたところに正代が飛んできた。隣にいた女性はトイレのために席を外したところだった。座っていたらぺしゃんこですよ。ボクより勘がいい人だったかもしれないですね(笑)」
ブームになるのは女性が観るから
溜席はそんなスリルが満載だというが、毎年観戦する九州場所で今回ほど多くの観客が入った記憶がないという。
「ボクの席から見ると3階席の一番上までお客さんがいて、多くの人が力士の四股名が入ったタオルを掲げて応援しているんですよね。博多は客の入りが悪くて、いつも3階席はガラガラだった。相撲中継では土俵周りだけ映したほうがいいよとNHKの偉い人に言ったことがあるほど。舞台で空席が目立つ時は花道の周辺に座らせてごまかすのが常識でしたからね。今場所はそんなことを心配することない。なんせ満員札止めですからね」
年6場所90日間完売は、若貴ブームの1996年以来、28年ぶりのことだという。大村氏は満員札止めが続く状況について、こう見ているという。
「若貴時代と違うのは、女性が多くなりましたね。マス席を見回しても、中年層の女性ばかり。彼女たちの年代は友達を連れてくるし、家族を連れてくる。大谷翔平君のメジャー中継じゃないが、そうした女性の層に認められないとブームにはならない。
やはり満員の会場はいいですね。観客が多いほど、拍手と歓声で相撲内容の評価がはっきりする。素晴らしいですよ。相撲観戦は大声を出さないのがマナー。これがわかっている女性客たちはしっかりとタオルを掲げて応援していますからね。それに着物を着ての観戦もやはりいいですよ。我々が想像した以上に女性が入っているから、確かな人気なんだと思います。相撲グッズ売り場も、デパートの催事会場みたいに混んでいる」
相撲を観戦して話題になるのは「凄い」
そうしたなか、大村氏はSNSで自身の連日の観戦が話題になっていることに驚いていた。
「相撲は凄い。野球を球場で観戦しても誰も何も言ってくれない。それが相撲を見に行くと“観戦していたこと”を宣伝してくれるんですからね。テレビを見ている女房から“表情が怖すぎる”と言われるんですが、ずっと笑っているわけにはいかない。勝負の前には厳しい顔になり、贔屓の力士が勝てば喜ぶし、負ければ残念がる。そこが相撲観戦のいいところなんですが、勝って喜んでいるところは映らないんですよ」
満員の観客の前で熱戦も多いという。11日目には宇良と平戸海の一番が2度も取り直しになった。3度目で宇良が押し倒しで勝利した。
「勝負が決まったあとの拍手はどんでもなく大きかった。周囲のお客さんも“これで帰ってもいいな”と口々に言っていましたからね。相撲は勝った力士を応援している人が拍手をするんですが、全員がする拍手は凄いですよ」
大阪の自宅から博多に3泊4日で遠征してきたという大村氏。やはり93歳には見えない大の好角家だった。