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《トランプ圧勝の大統領選からアメリカがみえる!》「なぜ火曜日に投票?」「どうして選挙人という存在が生まれた?」から「ハリスに待ち受ける屈辱」までジャーナリストが解説

NEWSポストセブン 2024年11月25日 11時15分

 SNSはアメリカ大統領選挙を変えた──ドナルド・トランプ氏の圧勝で終わったことで、新たな潮流が米国で生まれつつある。約170年の歴史を有す「伝統ある大統領選」はどう変革するのか。それを理解するには独自の大統領選の“仕組み”を知るのが必要不可欠だ。いまさら聞けない常識から、知っていれば“通ぶれる”ネタなどをわかりやすく解説する『ビックコミックオリジナル』で好評連載中のジャーナリスト小川寛大氏による『アメリカ大統領選を10倍面白く読む!』の最新回を公開する。

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 結局、勝者はトランプだった。

 11月5日に投開票されたアメリカ大統領選挙は、共和党の前大統領、ドナルド・トランプが、対抗馬である民主党の現職副大統領、カマラ・ハリスを破って当選するという結果になった。

 同時に行われた、アメリカ連邦議会の上院と下院の選挙(上院は約3分の1、下院は全員が改選された)でも、上院・下院ともに共和党過半数を獲得した。今回の選挙は、トランプ圧勝と言って差し支えないだろう。

 なぜ今回、全米の有権者はトランプを選んだのかといった政策論は、各種のメディアでも多々行われている。だから本記事ではそれよりも手続き論的な視線から、大統領選挙を見てみよう。

 前述の通り、今回のアメリカ大統領選挙は11月5日に投開票が行われた。すなわち、アメリカでも日本でも、火曜日の平日だった。「選挙といえば日曜日」という日本とは、状況が異なる。読者のなかには、アメリカ大統領選挙の開票状況が気になりながらも、仕事もあってなかなかリアルタイムで情報を追えなかった人も、いるかもしれない。

広大な農業国ゆえの大統領選挙のかたち

 実はアメリカ大統領選挙が行われる日取りについては、「11月の第1月曜日の翌日の火曜日」にすべしということが、法律で決まっている。これは1845年から、ずっとそういうスタイルで行われてきた。なぜそういうことになってるのかといえば、まず19世紀当時のアメリカ人の多くが従事していた、農業の収穫が終わった時期であるということ。

 そしてまた、当時のアメリカ人のほぼすべてがそうであった、キリスト教会の日曜日の礼拝の後であるということ。そしてさらに、郊外に在住している人々でも、徒歩や馬でちゃんと遠く離れた場所にある投票所までたどり着けるように、日にち的余裕を持たせているということ。この3つの事情から、大統領選挙の投票日は「11月の第1月曜日の翌日の火曜日」と定められているのだ。

 無論、こういうあり方はさすがに時代錯誤ではないのかという指摘がアメリカ国内でも多々あって、たびたび改革案が浮上するなどしている。しかし現状ではまだ、この「19世紀の作法」で、アメリカ大統領選挙は運営されているのである。

 ところで、その「11月の第1月曜日の翌日の火曜日」に大統領選挙を行うのは、1845年以来の伝統だとは書いたが、アメリカ合衆国の建国は1776年である。それまではどうしていたのか。実はそこに、アメリカ大統領選挙の大きな特徴である、「選挙人」の存在がからんでくる。

 これは一般の報道でも多々説明されていたので、多くの読者もご存知のこととは思うが、アメリカ大統領選挙において一般の有権者が選んでいるのは、実はトランプやハリスといった候補本人ではなく、選挙人という「大統領を選ぶ権限を持った人」である。全米各州には、あらかじめその時の大統領選に候補を出している政党系の選挙人がいて、基本的には州の人口規模に比例して、人数枠が割り当てられている(例えばアメリカ最大の人口を誇るカリフォルニア州には54人の選挙人枠が割り当てられているが、人口の少ないアラスカ州には3人分の枠しかない)。ごく一部の例外州を除いてこの選挙人枠は、大統領選挙の一般投票にて州内で最多の票を得た党派が独占してしまう。つまり仮に10人の選挙人枠がある州があったとして、投票の結果、共和党が60%、民主党が40%の票を獲得しても、選挙人を共和党と民主党で6人、4人と分け合うわけではなく、共和党が10人を独占してしまうわけだ(なお、現状では一般有権者が使う投票用紙には、トランプやハリスら立候補者の名前が記され、選挙人の名前は出てこないが、あくまでシステム上は、それそれの立候補者を支持する選挙人が選ばれている形となっている)。

まだ今回の選挙は終わっていない?

 この、11月の投票で選ばれた選挙人たちは、12月に「選挙人団投票」というものを各州で行い、実はシステム的には、ここで正式に「アメリカの大統領」は選び出される。ところで法令上、この選挙人たちが、この段階で造反することを制止するシステムはない。例えば共和党系の選挙人がこのとき突然翻意し、「やはりカマラ・ハリスが大統領にふさわしい」などと言いだしても、それはそれで通ってしまうのである。ただし現実的には、そういう行動で選挙結果がひっくり返ったような事例は過去にない。

 前述したように、アメリカ合衆国の建国は1776年のことである。当時の白人文明圏のなかで非常に珍しい、王様が存在しない共和政国家だった。だから大統領というリーダーを国内で選出する必要があったのだが、当時の世の中には、現代のような電気通信システムや自動車、またマスメディアなどは存在しなかった。アメリカの各地で選挙を行って、投票結果を集計し、その情報を遅滞なく公表するなどといったことは、そもそも無理だった。また当時は必ずしも、「成人した市民には誰にでも選挙権を与えよう」といった考えが、世に広く受け入れられていたわけでもない。だからこうした州ごとの代表者(選挙人)を選んで、彼らに大統領を決めてもらう間接選挙の方式が採用されたのである。

 実は当初は、土地ごとの有力者などを最初から選挙人に割り当てていたような州もあり、そういう州では一般の民意とは特に関係なく、選挙人が動いていたパターンもあった。しかし、それも徐々に「ちゃんと選挙で決めよう」という流れになっていき、「大統領選挙」というものがおおむね、全米でしっかりした形で行われるようになったのが、19世紀前半ごろだったのである。そう考えると、「自由と民主主義の国、アメリカ」というよくあるイメージとは、少し違和感もあるかもしれない。

 ところで、この選挙人団投票を取り仕切り、次期大統領当選者を認証する役割を負っているのが、現職副大統領なのである(2025年1月6日予定)。すなわち、今回その任をこなすのは、ほかでもないカマラ・ハリスなのだ。彼女は果たして、自らを破ったトランプについて、そうした実務を遅滞なく執り行えるのか…そういう視点からも、まだまだこの4年に1度の戦いには注目すべき点は多い。

※『ビックコミックオリジナル』(小社刊)12月5日号より一部改稿

◆小川寛大(おがわ・かんだい)/ジャーナリスト。1979年熊本県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。2015年、季刊誌『宗教問題』編集長に。2011年より〈全日本南北戦争フォーラム〉事務局長も務め、「人類史上最も偉い人はリンカーン!」が持論。著書に『池田大作と創価学会』(文藝春秋)、『南北戦争』(中央公論新社)、近刊『南北戦争英雄伝 分断のアメリカを戦った男たち』(中公新書ラクレ)など。

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