総選挙で自民党が大敗を喫し、与党過半数割れに追い込まれた。にもかかわらず、石破茂・首相は続投。終わりの見えない閉塞感がこの国の政治を覆っているように見える。その光景は、この男の目にはどう映っているのか。政権交代を2度起こした立役者であり、「政界の壊し屋」の異名を持つ小沢一郎・衆院議員(82)だ。“3度目”への道筋があるのか、どう動くつもりなのか、フリージャーナリスト・城本勝氏が問うた。(文中一部敬称略)【全3回の第3回】
嫌われてでも信念を通せ
野党結集が一向に進まない事情について、野党内からは「そもそも基本政策が一致しないのでは、選挙協力もできない」といった声が根強い。
そうした声について小沢はこう反駁する。
「『政策の不一致』を理由に各党が協力を拒んでいるが、それはあくまで建前論だ。政治は権力闘争であり、権力を取らない限り、やりたい政策は実現できない。そう言うと『権力亡者だ』と批判されるが、きれいごとばかり言っていても、政権を取らないことには自分たちの主張を実現できない。
だから政党、政治家は政権を取るということを『いの一番』に考えるべきだと思う。欧州における連立政権を考えてみてもらいたい。多少の政策の違いがあっても右も左もそれぞれ連携して政権を作っている。個別の政策は政権を取ったうえですり合わせればよい」
政策が一致しなければならない──この言葉が野党の一本化を阻んで、自民党の長期政権を許してきた。そして、それが長期政権の緩みと腐敗を生み出してきた。
「結局、何のために政権交代が必要か、ということがまったく分かっていない。いまの自公政権のように、長期政権になると、いろいろな利権構造が固まって必ず腐敗が進む。原発の問題一つとっても、省庁や電力会社などの企業、学者が利権を通じて裏でしっかり結びついている。
この癒着を断ち切るには政権を代えるしかない。先ごろ海上自衛隊の癒着疑惑が問題になったが、これも自衛艦などを建造できる企業が限られているからだ。こうした長い時間をかけてできあがった癒着や利権構造を断ち切ることができるのは政権交代だけ。僕は、それを言い続けているのだが、なかなか理解されない。何兆円という予算を無駄に使っているのに、そのことに多くの人が気付かない。政権交代こそ一番の政治改革というのはそういう意味だ。
しかし、マスコミは『政権交代よりも政策の実現だ』という主張のほうが目立つし、政治家もみんないい子ちゃんばかり。嫌われたくないのだろう。本気で改革をしようとすれば目の敵にされるから。
明治維新でも西郷隆盛の人気は高かったが、本当の意味で維新が成し遂げられたのは大久保利通の力が断然大きい。だが、国のため徹底して改革を推し進めた大久保は嫌われた。いまの政治の世界に置き換えても同じことだ。人気や評判が良いのはめでたいことだが、時には国家国民のために人から嫌われてでも信念を押し通す政治家が出てこないと大事は成せない」
極右・極左が台頭の懸念
そして、小沢は有権者にもこう訴える。
「これはマスコミも悪いが、日本人の特性でもある。いまは生活に困らないから危機意識がない。日々なあなあで何となく暮らしていける。しかし、それこそ『ゆでガエル』の状態で、ズルズルとまずい方向に進んでいる。これが、本当に国民生活が脅かされるような事態が起きて、その時に政権が機能しないとなったら、大変なことになる。あまりそういうことを想像したくないが、そんな危機が起きるかもしれない」
小沢は最後に政治を憂うような口ぶりでポツリとこう言った。
「極端に言えば、本当は自民も野党も含めてガラガラポン(政界再編)したほうがよいのかもしれない。自民も高市早苗君のような極右がいてどうもすっきりしないし、立憲も右と左の寄せ集め。考え方に違いがあるのはいいが、バラバラのままでまったくまとまらないというのでは、政策は一向に実現できないから国民の不満は高まるばかりで、いずれ米国のトランプや欧州同様に日本でも極右や極左のような極端な勢力が国民の不満の受け皿になって台頭することになる。
これに対外的な危機で民族意識が刺激されると、普段おとなしい日本人でも予想も付かない考えに走ってしまいかねない。歴史的に見てもそうだ。そうなれば、日本も混乱が避けられない。政治家もひいては国民も、もっと危機感を持ってほしい」
そう語る小沢の表情は、82歳の老政治家らしい穏やかさを感じさせたが、それでも言葉の端々からはなお権力闘争にかける執念や政権交代を起こすべく密かに与野党の政治家と接触していることが窺われた。
政治の閉塞感が続くなかで、果たして3度目の政権交代を起こす立役者となるのか。政界の長老となったいま、その時間は限られている。
(第1回から読む)
【プロフィール】
城本勝(しろもと・まさる)/1957年、熊本県生まれ。ジャーナリスト。一橋大学卒業後、1982年にNHK入局。福岡放送局を経て東京転勤後は、報道局政治部記者として自民党・経世会、民主党などを担当した。2018年退局後、日本国際放送代表取締役社長などを経て、2022年6月からフリージャーナリスト。著書に1993年の政権交代の舞台裏を描いた『壁を壊した男 1993年の小沢一郎』(小学館)がある。
※週刊ポスト2024年12月6日・13日号