巨人がFA市場での大型補強に動き出した。今季は4年ぶりのリーグ優勝を果たしたものの、CSではDeNAに敗退。これは日本一奪還のために必要な補強なのか、それともかつての“欲しい欲しい病”の再発なのか。
今オフ、巨人が獲得を目指したのは阪神・大山悠輔(29)、ソフトバンク・甲斐拓也(32)と石川柊太(32)。いずれも他チームの主力級だ。大山は結果的に阪神残留を表明したが、阪神が残留交渉で4年16億円の条件を示したとされる一方、巨人は5年20億円を提示すると報じられた。甲斐にも5年12億円以上を用意するとの報道があり、実現すればまさに「超大型FA補強」で、“昔の巨人”を彷彿とさせる姿だ。
第2次長嶋茂雄監督時代(1993~2001年)には、野手は落合博満(中日)、清原和博(西武)、広澤克実(ヤクルト)、投手は川口和久(広島)、工藤公康(ダイエー)らを獲得。各球団の4番とエースをズラリと揃え、「欲しい欲しい病」と揶揄された。以降も高橋由伸政権1年目オフの2016年には山口俊(DeNA)、森福允彦(ソフトバンク)、陽岱鋼(日本ハム)を獲得。史上初の3人同時FAで球界を賑わせた。
巨人は2年連続でリーグVを逃した2022年のオフ以降、FAでの獲得はないが、阿部慎之助政権1年目のオフに再び大型補強に動き出したわけだが、そもそも大山獲得のために動く必要はあったのか、V9時代にエースのジョーと呼ばれた城之内邦雄氏はこう懸念を示す。
「大山を獲っても、ファーストには岡本和真(28)がいるし、有望な若手の秋広優人(22)の出番もなくなる。ポジションの玉突きによって外野で育ってきた浅野翔吾(19)の出場機会も減りかねない。岡本の後ろを任せられる強打者の補強は必要かもしれないが、なんでもかんでも手を挙げるのは違う。V9時代の川上哲治監督はライバルを作って競わせるために選手を獲った。そういう大局観がなければ若い芽を摘むだけになる」
「育てる力」の欠落
甲斐の獲得についても、疑問視する声があがる。すでに岸田行倫(28)、小林誠司(35)、大城卓三(31)の3人がいて捕手は飽和状態ではないのか。阪神、大洋でマスクをかぶり、コーチ経験もある辻恭彦氏はこう語る。
「甲斐を獲っても失敗すると思います。体がスマートになって力が出なくなったように見えるし、1年を通じてマスクはかぶれないでしょう。ソフトバンクより力が劣る巨人の投手陣をうまくリードできるかも疑問。上背のない甲斐の細かな動きに巨人の投手陣が適応できるかも不安要素です。
今季の岸田を中心にした3人体制は十分に面白かったと思う。もちろん、甲斐が岸田のカバー役になるなら最高ですが、そんな構想ではそもそも巨人に来ないでしょう」
一方、巨人OBで投手コーチも務めた関本四十四氏は、「来季以降への危機感があるのは理解できる」と話した。今季、メジャーで世界一に輝いたドジャースは大谷翔平(30)を含むMVP級の戦力をかき集め、シーズン中もポストシーズンに向けた補強を重ねて勝ち上がった。
「そういう野球を見た日本のファンも、大型補強に必ずしも否定的ではなくなっていると思います。それに坂本勇人(35)や丸佳浩(35)ら主力が高齢化して、岡本は来オフにメジャー挑戦する可能性がある。キャッチャーについても来季は主力投手の菅野智之(35)がメジャーに流出し、“スガコバ”のコンビを組んだ小林は、打率2割前後で使いにくい。今季がキャリアハイの岸田もまだ143試合は任せられないし、大城も期待通りの打てるキャッチャーには育たなかった。そういう現実を直視することも大切です」
ただ、その現状は“巨人が選手を育てられない”ことの証明でもある。1994年オフにヤクルトからFAで巨人に移籍し、巨大戦力のなかで出場機会が減る経験もした広澤克実氏は「当時は葛藤もあったが、今は巨人の野球も勉強できてよかったと思っている」としたうえで、巨人と他球団の違いをこう指摘した。
「僕が移籍した当時の巨人には人知れず練習できる室内練習場がなかったが、今は12球団で一、二を争ういい練習環境がある。にもかかわらず、他球団から『この巨人の選手が欲しい』という声が聞こえてこない。選手の育成に携わる人材が機能していないのです。
二軍監督の桑田真澄氏が『こんなに練習して、なぜうまくならないんだろうね』と漏らしたと伝え聞きますが、そんなことを言ってはダメ。いくらFAで大物選手を獲っても、育成するコーチ陣がいないと常勝球団にはなれない」
何より大切なのは、球団が「ビジョン」を持つことだと広澤氏は続ける。
「7年目の岸田が育ってきたのに甲斐を獲り、同時に4番バッターも獲りたいというのではビジョンが見えません。ピンポイントの補強ではないから、昔のような『FA欲しい欲しい病』が再発したと見られてしまう。経営や育成のしっかりした方針が見えてこないところに、問題の根源があるのではないか」
ストーブリーグの“獲れた、獲れない”に一喜一憂するようでは、球界の盟主の復活は遠い。
※週刊ポスト2024年12月6・13日号