「女性は家事や育児を担うべき」「男性は家族を養うべき」といったジェンダーロールの固定化によるキャリアの制約、「親は子を完全に管理すべき」「子は親に感謝し従うべき」といった親子関係における過干渉と依存、「一定の年齢で結婚すべき」「家庭を持つのが幸せの形」といった未婚・晩婚に対する社会的プレッシャー…など、旧態依然とした「昭和的な価値観」という呪縛は、現代の意思決定をいまだに縛り続けている。
性別、年齢、職業、家庭内の役割────昭和の時代において画一的とされたこれらの価値観は、家族や社会の中で当然視され、疑問を持たれることさえ希だった。令和となり、多様性が尊重される社会へと進化を遂げたものの、この無意識の偏見は昨今、所謂「アンコンシャス・バイアス」とい流行ワードにもなり取り沙汰されており、完全には払拭されていない。それどころか、現在も人々の自己評価や行動に深く影響を与え続けているのだ。
これらの問題は、昭和的な価値観の名残が無意識のうちに影響を及ぼしているケースが多く、個人の行動変容とともに、社会全体で意識的な改革が求められている。
こうした“昭和的な呪い”に焦点を当て、心の解放を目指すマインドエクササイズ本を出版した婚活コンサルタント・松尾知枝氏は、3万人以上の婚活相談者との対話を通じて、この課題の根深さを実感してきた。恋愛や結婚における悩みの多くが、単なるテクニックや条件面の問題ではなく、社会や家庭に染みついた固定観念に起因していることに気づいたという。松尾氏は、この偏見こそが人々の自己実現や行動の自由を制約し、苦しめていると指摘する。【全3回の第2回。第1回から読む】
昭和な呪いに対するリテラシーを高めることが最大の防御
「情報化社会、ましてや通信機器の普及やネットワークのつながりやすさのせいで常時オンライン状態になってしまった現代を生きる今の私たちにとって、呪いの言葉を一切浴びずに過ごすことは至難の業でしょう。絶え間なくやってくる呪いの情報に対するリテラシーを高めることが最も有効な手段であると言えます。リテラシーとは、情報を正確に理解し、活用する能力や判断力のことです。発せられた言葉の意図や思惑を見抜き、不要な情報を捨て、正しい情報を選び取る力を養うのです。
呪いの言葉は、人から言われた言葉やメディアで目にする記事まで広範囲に及びますが、それらに共通するのは情報の一種であるということです。適切に情報処理できれば、呪いはそれほど怖くありません。日々メールを処理していると、スパムなどの怪しいメールはクリックせずにサッとゴミ箱に捨てますよね。呪いを解く工程もこれと同じようなことだと思ってください。
まず、どんな呪いがあるのかを知ることが大切です。少しでも知識があれば、呪いにかからずに済みますし、既にかかっている呪いに対しても落ち着いて対応できます」
さらに、松尾氏は、“昭和な呪い”の呪縛を解決するためには、まずそれらの存在を認識し、本来の自分らしい生き方を取り戻すために、意識的に思考の枠組みを再構築することが重要であると指摘し、いまだ仕事や日常生活の中で当たり前のように交わされ、無意識に受け入れられている典型的な「昭和的なフレーズ」を列挙する。特に、社会で頻繁に議論されるテーマに関連して、これらのフレーズを以下の七つの「呪い」に分類している。
・集団の調和を最優先し、個人の意見や創造性を抑圧する風潮を生み出す「空気を読め」の呪い
・性別に基づいた役割分担や行動規範をこり固めてしまう「ジェンダーの呪い」
・過度な働き方や自己犠牲を美徳とする「24時間戦えますか?の呪い」
・年齢による能力や役割のステレオタイプ化してしまう「年齢の呪い」
・母親の家事労働過多を生み出す育児や家事は女性という固定観念「ママなんだからの呪い」
・他者と比較し、優劣を競う風潮を煽る「マウンティングの呪い」
・親子間での過干渉やモラハラを生み出しやすくしてしまう「アットホームの呪い」
今回は、その中から「空気読めの呪い」を取り上げることにしよう。
THE同調圧力! 空気読めの呪いって!?
「『空気読めの呪い』とは、周囲と同じように考えて行動することを暗に要求される圧力のことです。『みんなそうしてるんだから、あなたもそうすべき』といった暗黙の了解が背後にあります。どうしてこうなってしまうのかと言うと、やはり昭和の時代の企業文化も影響もしているのでしょう。
かつては一度入社したらずっと同じ会社で働き続ける終身雇用や年功序列が当たり前でした。同じ会社で長く働くことが良しとされると、その中でいかにうまく人間関係をこなしていくかが重要になります。職場で変に浮かないように、みんなと同じように振る舞うことが生存戦略上有利になります。それで周りの空気を読む同調圧力が強くなっていったのではないでしょうか」
と語る松尾氏。特に未だよく目耳にする“昭和なフレーズ”を続けて列挙した。
「一般的にはこうだよ」
「『一般的にはこうだよ』は、自説の正当性を高め、相手にさりげなくプレッシャーをかけたい時に使われたりします。一般論や常識を振りかざして虚勢を張りたい心理も透けて見えます。言われた側にしてみれば『みんなこうしてるんだから、あなたも従いなさい』という同調圧力を感じますし、『私は正しいけど、あなたは間違っている』と一方的な持論を押し付けられているようで腑ふに落ちません」
○類似する呪いのフレーズ
「そういうルールなんだよ」
「(そんな一般的なことも知らないの?)常識知らずだね」
「(多くの人はそうしてるんだから)あなたも〜すべき」
「仕事とはそういうもの」
「古い体質の会社で働いていると、先輩から一度は『昔はもっと大変だった』『それが常識』と言われたことがあるのではないでしょうか。
こんな経験、ありませんか? 効率重視でサクッと作った企画書が、上司の伝統的やり方に阻まれて、結局やり直し。婚活中のお客様から、そんな嘆きを聞いたことがあります。
その方はIT企業から伝統的な会社に転職された経歴の持ち主。最新技術を駆使して、分かりやすくインパクトのある資料を作ったのに、上司から『企画書はそうじゃない!うちは従来通りのやり方があるから』と言われ、結局、文字がびっしりの昭和スタイルな企画書を作り直す羽目になったのだとか。
効率重視が通じない世界では、どうやら手間暇かけることが“仕事の本質”らしいです。彼女は『せっかく効率的に作ったのに』と嘆いていました。『仕事とはそういうもの』の壁はなかなか手強いですね……」
○類似する呪いのフレーズ
「長年こうしてきた」
「それが常識」
日常的に何気なく使用しているフレーズに対し、改めてその意味を文字として捉え、深く考えると、その中に“昭和的な呪い”的アンコンシャス・バイアスが含まれていることに、はっとされた方も少なくないのではないだろうか。このプロセスを通じて、これらの偏見に対する免疫力を少しでも高める契機となれば…というのが著者の狙いである。
次回は、七つの“昭和な呪い”呪い」の中から、特に日本社会において昨今、物議が醸されがちなトピックに深く関わる「ジェンダーの呪い」に焦点を当て、その影響と解決へのアプローチについて考察する。【第3回に続く】
【プロフィール】
松尾 知枝(まつおちえ)/婚活コンサルタント、株式会社インプレシャス 代表取締。10歳から8年間、児童養護施設で暮らす。つらい幼少期を経て、 自身で考案したメンタルエクササイズにより呪いを解き、目標達成する面白さに目覚める。新卒で日本航空に入社。CAとして国内線、国際線に乗務。2011年より自身の経験と心理学をベースにした婚活支援を行う。自己肯定感を高め、心から望むライフデザインを描きたい女性から 大きな支持を受ける。情報番組出演や東京都の婚活支援事業、ゼクシィ縁結びのコラムに監修として携わるなど、活躍の場を広げている。著書に『3ヶ月でベストパートナーと結婚する方法』(かんき出版)、『3年以内に成功する男、消える男』(フォレスト出版)、『1日5分で夢が叶う 日記の魔法』(中経出版)、『あなたの生きづらさ”昭和な呪い”のせいでした』(小学館)。