私たちの心に深く染み込んだ昭和的な価値観や固定観念────。それは、令和という新しい時代においても、無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)として社会に暗い影を落とし続けている。
例えば、「女性は結婚や出産を優先すべき」という刷り込みが、女性のキャリアの可能性を奪い取る現実。あるいは、年齢至上主義ともいえる「年功序列」の風潮が若者の声をかき消し、非効率な組織を生み出している現状。そして、結婚や子どもを持たない選択をした人々への偏見が、個人の自己肯定感を深く傷つける────。これらはすべて、時代遅れの価値観がもたらす副産物と言えるだろう。
そんな“昭和な呪い”を解き放つために生まれた書籍、『あなたの生きづらさ“昭和な呪い”のせいでした』の著者であり、これまで3万人以上の婚活相談をサポートしてきた松尾知枝氏が、現代人が抱える「生きづらさ」の根源を指摘する。
「これまで数多くの女性の婚活をサポートしてきました。その中で強く感じたのは、多くの方が“結婚したい”のではなく、“結婚しなくては”と無意識に自分を追い込んでいるという現実でした。この言葉に象徴されるように、私たちの中に根付く“昭和な呪い”は、気づかぬうちに生き方や考え方を制限しています」
そして、松尾氏は“昭和な呪い”という無意識の束縛を解き放つ鍵は、その“呪い”の存在にまず気づくことだと言及する。
職場や日常生活で何気なく使われ、無意識のうちに受け入れられている“昭和な呪い”的なフレーズの数々。松尾氏は、特に現代社会で議論の的となっているテーマに関連するものを厳選し、それらを「空気を読めの呪い」、「ジェンダーの呪い」、「24時間戦えますか?の呪い」、「年齢の呪い」、「ママなんだからの呪い」、「マウンティングの呪い」、「アットホームの呪い」という七つの「呪い」として体系的に分類した。
今回は、「ジェンダーの呪い」について紹介していく。【全3回の第3回。第1回から読む】
最下層に属する日本のジェンダーギャップ指数「ジェンダーの呪い」から考える“昭和な呪い”
スイス非営利財団世界経済フォーラム(WEF)が発表している。世界各国の男女格差を数値化したジェンダーギャップ指数。2024年、日本は156か国中118位と低位に位置し、先進国の中で最低レベル、アジア諸国の中で韓国や中国、ASEAN諸国より低い結果であった。そんな状況も鑑みながら、松井氏は語る。
「未だに『女は家庭を守る存在』や、『男は大黒柱であるべき』といった古風な昭和な固定観念や偏見が、ジェンダー・バイアスとして残っている日本。こういったジェンダーバイアスは、ややもすると、仕事や教育、生活の場面で不平等を生み出し、個人の能力や選択肢を制限し、社会の多様性を損ないかねないのではないでしょうか……?
こちらのフレーズを読んでみてください。
『部長は大きな取引を成立させた』
『保育士は子どもたちの世話をした』
『パイロットは長距離フライトを無事に完了させた』
読んでみて、どちらの性別を思い浮かべましたか?
「部長」「パイロット」は男性を、「保育士」は女性を思い浮かべたのではないでしょうか。これが私たちが普段気づかずに持っている、ジェンダー・バイアスの一例です。政治、経済、教育、健康の4つの分野で男女平等の度合いを示すジェンダー・ギャップ指数でも日本は特に政治、経済の分野では女性の参加が少ないと指摘されています。
自分で好きに選んだ行動が結果として「男らしさ」「女らしさ」というジェンダーに結びつくのなら問題ないとして、やりたいことがあっても性別を理由に『男(女)らしくないんじゃない?』『女(男)のくせに』と言われてチャレンジすることを諦めるのは、まさにジェンダーの呪いではないでしょうか。」
そして、未だによく見聞きする典型的な“昭和なジェンダーの呪い”として松尾氏は、以下のようなフレーズを列挙する。
「男だから気にすんな」
「ジェンダーギャップ指数の順位が日本は低いと話題にされる時、たいていの場合、女性への不平等をなくしていこうという意味で言われることが多いです。しかし裏を返せば、それだけ男性も生きづらさを抱えているということでもあります。
「男だから気にすんな」は男が細かいことにいちいち目くじらを立てるな、感情的にならずに受け流せという呪いの言葉ですね。人間誰しも感情を持つ生き物だし、男だからという理由だけで嫌なことがあってもクールに振る舞わなきゃいけないなんて、よく考えてみたらとても奇妙です。「マッチョ」というのは、強きょう靱じんさ、逞たくましさ、勇敢さといった男らしさを示す言葉ですが、「男なんだから」という言葉が暗に意味している男の規範や評価基準は、マッチョという言葉によく表れています。
「男子厨ちゅう房ぼうに入らず」もマッチョイズムな考え方に紐づいていますね。男は炊事などしないで仕事を頑張れという考えが根底にあるのでしょう。ハッキリ口に出して言わなくても、心の中でそう思っている人は(女性も含めて)少なくないのでは。何を隠そう昔の私も「キッチンは女の聖域」という呪いを固く信じていたぐらいなので(笑)」
○類似する呪いのフレーズ
「男なんだから我慢すべき」
「男子厨房に入らず」
「マッチョ」
「女子力が高いね!」
「女子力と聞いて真っ先にイメージするものは、合コンや飲み会でのサラダの取り分け!昔はサラダ取り分けが女子力になると信じられていて、合コンに参加した女性同士でどっちがサラダを取り分けるかでフォークを奪い合う事件も勃発したほどです。今では逆に「あざとい」って思われちゃうみたいですね(笑)。
女子力は明確な定義があるわけではなく、判断はまちまちです。外見だと、髪形やメイク、ファッション、お肌の手入れまで抜かりなくこなす。内面では決して出しゃばりすぎず、周囲へのきめ細やかな配慮も忘れず、それに加えて料理上手! 部屋はピカピカ! バッグの中がきちんと整理整頓されているのも大事なんだそうです。「ハードル高っっ!」と唸うなったのはおそらく私だけではないでしょう(汗)。全方位に完璧を求められるなんて、女子力ってまさに「無理ゲー」ですね。
そもそも、女子という性別が理由であるだけで部屋をいつも綺麗でピカピカに保てるとは限らないし、料理がうまいとは限りませんよね(飲食業界には男性の料理人もいっぱい)。それなのに「実は料理が苦手で……」と婚活のご相談に来られるお客様はあとを絶ちません。性別に関係なく、掃除が好きな人、料理が得意な人、共感力が高い人はいます。それをわざわざ「女子力」に限定されることで重荷に感じる人もいるでしょう」
○類似する呪いのフレーズ
「(社長・偉い人)の隣に座って」「お酌は女性がお注つぎして」
「手酌はお嫁にいけないよ」「女性ならではの感性を期待してるよ」
「料理できるコはモテるよ」「細かい作業は女性が向いているね」
「やっぱり女子は共感力が高いから」「お茶出しは女性が」
「女の子なんだから部屋を綺麗にしなさい」
その他にも、典型的な“昭和な呪い”が松尾氏の著書に掲載されているので、気になる方は是非、ご一読いただけたら。
また、これらの昭和な呪いのフレーズに気づくことで、人間関係のストレスを回避できると松尾氏は語る。
「気づくことができれば、“昭和な呪い”を乗り越え、自分の可能性をもっと広げることができます。反応ではなく選択する。「呪いに気づく」とサラッと書いてしまいましたが、実はここはとても重要なポイントです。呪いは、人からの要求や期待、固定観念を含んであなたのもとに飛んできます。その時、どう対応するかで今後の道が大きく分かれます。
今までだったら、呪いの言葉を条件反射的に受け止めて反応してしまい、後でモヤモヤしていたかもしれません。これからは呪いの言葉を言われた時、すぐに反応する必要はありません。「おや?」と気づいて、立ち止まるのです。動画を途中で止めたい時の一時停止ボタンを押すような感じで。時間にしてひと呼吸分ぐらいでしょうか。
言われたことにすぐ反応しない「間」を持つだけで呪いをどう扱うか、自分で主体的に選択できるようになります。間を置くだけで呪いをかけてこようとする相手のペースに乗らないでいられます。「反応」ではなく「選択」する。これを意識するだけで呪いに、意志を持って立ち向かえるようになります」
さらに、松尾氏は、“昭和な呪い”の固定観念をよしとしてしまう、自分自身の内面に恒常化された価値感こそが最大の“昭和な呪い”であり、それを解くことの最大の鍵だと語る。彼女が婚活コンサルの中で、クライアントさんから好評だった“呪い”を解き放ち自分自身を取り戻すために効果的な選りすぐりのワークが本書の中にが掲載されているので、気になった方は、是非、御一読いただきたい。(了。第1回から読む)
【プロフィール】
松尾 知枝(まつおちえ)/婚活コンサルタント、株式会社インプレシャス 代表取締。10歳から8年間、児童養護施設で暮らす。つらい幼少期を経て、 自身で考案したメンタルエクササイズにより呪いを解き、目標達成する面白さに目覚める。新卒で日本航空に入社。CAとして国内線、国際線に乗務。2011年より自身の経験と心理学をベースにした婚活支援を行う。自己肯定感を高め、心から望むライフデザインを描きたい女性から 大きな支持を受ける。情報番組出演や東京都の婚活支援事業、ゼクシィ縁結びのコラムに監修として携わるなど、活躍の場を広げている。著書に『3ヶ月でベストパートナーと結婚する方法』(かんき出版)、『3年以内に成功する男、消える男』(フォレスト出版)、『1日5分で夢が叶う 日記の魔法』(中経出版)、『あなたの生きづらさ”昭和な呪い”のせいでした』(小学館)。