死後400年以上たった現代でも、時代を超えて愛されるウィリアム・シェイクスピア。その中でも、三大喜劇の一つとして上演されてきた『ヴェニスの商人』は、友達の大切さや正義について考えさせられる不朽の名作だ。そんな同作が草彅剛(50)の主演で生まれ変わる。俳優の野村周平(31)、佐久間由衣(29)らが脇を固め、演出は森新太郎氏(48)が務める。今回、主人公・シャイロックのライバル役・アントーニオを演じる俳優・忍成修吾(43)が、稽古の様子や本作への意気込みを語った。
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「草彅さんはすごく面白い方で、以前ドラマで共演した時のことを覚えてくださっていて、『おばあちゃんをいじめていた子ね!』『どう、元気? 元気?』と気さくに声を掛けてくださいました」
忍成と草彅は2009年に放送されたドラマ『任侠ヘルパー』(フジテレビ系)以来、実に15年ぶりの共演だ。
「草彅さんはいつも自然体なんですけど、誰かが演技の質問をするとそれに対する答えにすごく華があって面白いんですよね。だから、みんなが集まって、周りに輪ができています。僕も早くあの輪の中に入りたいですね(笑)」
忍成は1999年にドラマ『天国に一番近い男』(TBS系)で俳優デビュー。2014年には大河ドラマ『軍師官兵衛』に出演し、正統派から悪役やいじめっ子役など、幅広い演技で活躍してきた。しかし、今回の“アントーニオ”役を稽古するなかで、驚きがあったという。
「あらかじめネットの声やあらすじを拾って、自分なりのアントーニオを作って稽古に臨んだんです。アントーニオは主人公のライバル。だから堂々と立っているような強い感じを思い浮かべていました。でも、稽古をするなかで猫背で鬱々とした陰険な動きをイメージして演じるようになりました。
まだ僕の中で役を作り上げている途中で、ガチっと固まった時にどんなアントーニオになっているか楽しみでワクワクしています」
過去に2度、演出・森氏の舞台を経験している忍成だが、森氏の舞台には、“とにかく食らいつく”という心意気で臨んでいるという。
「森さんの演出は舞台上で役者を休ませない。セリフがないところでも『息を止めるな!』『心拍が休んでる!』みたいに言われるんです。本当になんでそこが見えるのってところを的確に見てくださる。それでだんだん役が入ってくると、面白いものが生まれてくるんです。でもエネルギーを出し切るのでとにかく大変ですね(笑)」
今は舞台『ヴェニスの商人』にフルコミットしているという忍成だが、20代の時には役者業を離れ、アルバイト暮らしも経験していた。
アルバイト時代の転期
「20代後半の時は、役者の仕事だけでは食べていけなくてアルバイトをしていたんです。自分が役者をやって生きていくのは難しいんじゃないかって、悶々としていた時期もありました。その時に出会ったのが鳶職の親方で、男らしい人だった。
『単純に助けてやるのは簡単だけど、それじゃ嫌だろ』と言われて、自然とその人の下で働き始めました。誰かが取ってきた仕事じゃなくて、自分で働いてお金を稼いだっていう気持ちを実感して、それが活力になっていきましたね」
心の奥底にあった本当の自分を知り、次第に自分の中からエネルギーが出てきて、仕事も流れにのってきたという。
「親方はいまだに舞台を見にきてくれたり、『挫けたら来いよ』と言ってくれます。当時の仲間もしょっちゅう飲みにいっていますし、あの時期の経験があるからこそ、今の自分があると思っています」
舞台に立ち続ける
忍成さんは10月まで舞台『Come Blow Your Horn〜ボクの独立宣言〜』に出演。プレイボーイで独身生活を謳歌するアラン・ベーカー役を演じ切った。舞台と映像の大きな違いはお客さんから感じる雰囲気だと語る。「特にお客さんが集中している時の目線は圧倒的に怖い」という。
「1年に1回は舞台に立ちたいと思っているんです。役者としてのレベルを保つのに大事なので。それに加えて1カ月とか2カ月とか長い時間をかけて台本に向き合うことができるのは、すごく幸せなことだなと思っています。『あの場面のセリフがここで回収されていたんだ』とか気づかせてくれます」
舞台『ヴェニスの商人』12月6日から東京公演がはじまる。現在は稽古の真っ只中だ。
「森さんが演出されるから草彅さんがこれまでにないシャイロックになっていて、他のキャラクターすべてがそうなってる。昔からいるキャラクターなのになぜか新しい。
でも、ちゃんとシェイクスピアの『ヴェニスの商人』になってるんです。現代的になっているから自分に近い存在として見ることができる。僕は自分の出番じゃないところは、つい笑いながら見てしまいます」
生まれ変わった新しい『ヴェニスの商人』はまもなく幕が上がる。