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【江夏豊インタビュー】若い才能のある選手のメジャー移籍は「大いに結構」「頑張ってこいよと後押ししたい」 もし大谷翔平と対戦するなら“こう抑える”

NEWSポストセブン 2024年12月11日 11時12分

「江夏の21球」「オールスター9連続奪三振」……球史に刻まれる数々の名場面を残した男は、76歳になった。今夏には、酸素吸入器をつけた車椅子姿でグラウンドに姿を見せ、ファンに動揺が走った。それ以降、公に姿を見せていない“伝説の左腕”は今、野球人生をどのように振り返るのか。野球人・江夏豊が、球界に伝えておくべきことをすべて語り尽くした。《聞き手/松永多佳倫(ノンフィクション作家)》【全3回の第1回】

応援されない立場でメジャーへ挑戦した身

 夏に開催された巨人・阪神のOB戦で、びっくりした人も多かったかもしれないな。俺が車椅子姿で一塁側ベンチから現われたものだから、関係各位に大きな動揺を与えたらしい。あの時は少し足腰が弱っていたためだったが、今は好きな肉をモリモリ食べて、そして大好きだったタバコも止めてきちんと節制しているから心配ご無用だ。でも、色々とありがとうと言いたい。

 70代後半の年齢にさしかかり、同世代の訃報を聞くと何とも言えない気持ちに駆られる。だからこそ、強い意志を持って人生を過ごしていきたいとも思っている。今回は野球界に言い残すことがないように、今の想いを伝えようと思う。

 今の日本のプロ野球を見ると、若い才能のあるピッチャーや野手たちがこぞってポスティングやFAの権利を行使してメジャーへ移籍している。大いに結構なことだ。時代の趨勢を鑑みても「行くな」と言うのは無理だし、行くんだったら「頑張ってこいよ」と後押ししてやりたい。

 だって俺は応援されない立場でメジャーへ挑戦した身だったから。ちょうど40年前、西武を1年で退団した俺は新天地を求めてメジャーに挑戦した。今とは違ってメジャーなんて言ったらどうかしたのかと疑われるほど、アメリカと日本の間にはとてつもなく大きな壁があった。

 そんな経緯もあって、誰からも「頑張ってこいよ」と声をかけられず、寂しい思いをした記憶がある。行くからには頑張ってこいよ、怪我をするなよ、期待してるぞという声は励みになる。周りの期待もあるとは思うが、俺がそうだったように、日本人としてのプライドを大切にしてもらいたい。

 規格外の活躍を見せる大谷翔平選手は、技術はもちろん感性が素晴らしい。信じられないスピードで進化をし続けている。あれだけ高い順応性があるということは特技であり特殊なことだろう。もの凄く喜ばしいことだ。アスリートが“たられば”を言っちゃいけないが、あえて言わせてもらうと、もし俺が彼と対戦するならどうするか。

 左対左だから、見せ球、勝負球は自ずと決まってくる。大谷にも特別な対応ではなく、際どい外でカウントを取り、最後はインコースの勝負球。我々の時代には王貞治という偉大な左バッターがいた。やっぱりいいバッターと対戦できたことが自分の野球人生にとって多大なプラスになっているし、貴重な財産にもなる。技術はひとりだけでどうこうできるものではない。盗める範囲で大いに盗めばいい。技術とは、そういうものだから。

何かに欠けてる感じがした今年の阪神

 今回の日本シリーズはクライマックスシリーズ(CS)で勝った横浜DeNAが下克上のごとく日本一になったが、近年そのCSの賛否が叫ばれている。新たなチャンスを与えれば、外野からの声がうるさくなるのはどの分野でも同じだ。だから「これが満点だ」なんて言えない。一番大切なのは、ファンの人に納得してもらうこと。その部分さえ忘れなければ、抜本的な改革を恐れずに進めていくのは大いに賛成だ。

 やはり阪神のことは気になるが、今シーズンを振り返ると、どこか足りないというか、何かに欠けてる感じがした。でも言い換えれば、それが「伝統」なんだとも言える。

 順調に戦ってきたのに最後で足を引っ張られたというか、一生懸命やっているんだけど、何かが物足りない。それが阪神の“お家芸”じゃないだろうか。成績が悪ければじゃあ指揮官が悪いのか、フロントが悪いのかと言われる。誰がやっても毎年同じことをやんや指摘されるのが、このチームの特色。愛すべきチームだけにそれを脱して奮起を願うばかりだ。

(第2回へ続く)

【プロフィール】
江夏豊(えなつ・ゆたか)/1948年、兵庫県生まれ。1967年に阪神入団後、南海、広島、日本ハム、西武と渡り歩く。1984年に引退。オールスターでの9連続奪三振、日本シリーズでの「江夏の21球」など様々な伝説を持つ。

松永多佳倫(まつなが・たかりん)/1968年、岐阜県生まれ。琉球大卒業後、出版社勤務を経て執筆活動開始。近著に『92歳、広岡達朗の正体』(扶桑社)などがある。

※週刊ポスト2024年12月20日号

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