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《踏切自殺強要事件だけじゃない》無報酬奴隷状態の職場は「存在する」と話す中年男性の告白 会社に生きるすべてを握られ「逃げることは死ぬことと同じ」だった

NEWSポストセブン 2024年12月25日 16時15分

 いじめられる側に問題がある、という言説にこそ問題があることを、普通ならば多くの人が理解することだろう。ところが、その被害者が成人男性となると、被害者にも何らかの原因があるのではと言い出す人が少なからず出現する。だが、衣食住や人間関係を縛られたら、大人の男性であっても正常な判断も行動も不可能になる。そして、生殺与奪の権を握った人間は、その力に酔ったようになり、驚くほど残酷になる。ライターの宮添優氏が、見過ごされがちな成人男性の虐待被害についてレポートする。

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 東京・板橋区の踏切で2023年12月に発生した人身事故。事故で亡くなった50代の男性は当初、自殺とみられていた。しかしその後の捜査によって、勤務先の社長や従業員たちから、踏切の中へ入るよう被害者が強要されていたことが発覚。さらに、男性がプロレス技をかけられたり、熱湯を浴びせられたり、肛門に棒を突っ込まれるなど、日常的に虐待を受けていたことも明らかになり、殺人、監禁などの容疑で社長ら4人の男が逮捕された。

 事件発生から丸一年後に逮捕へ至った理由について、大手紙社会部記者が解説する。

「発生直後から、警察は事件性を疑い捜査をしていました。すでに今年夏前にはすでに新聞、テレビなどのほぼすべての報道各社が事件を把握しており、取材をスタートさせていました。ただ、やはり証拠が少ないのか、警察からはマスコミ各社に”捜査の妨げになるから事前の周辺取材はNG”ときつくお達しが出ていた。特に、被害者周辺の情報が少なく、遠方に身寄りがあるけど縁が薄く、そういうことが重なって逮捕まで時間がかかったのです」(大手紙社会部記者)

 亡くなった被害者は、北海道・函館出身で、高校中退後に地元で働き始め、20代で上京。いくつかの仕事を経て、件の職場には2015年頃に入社した。一度はこの会社を退職したが、数年前に復帰していたとみられる。虐待がいつ頃から始まったかは不明だが、逮捕された男らの押収されたスマートフォンからは、被害者が邪魔だという趣旨のやりとりや、先に触れた虐待の様子をおさめた動画も出てきたという。

 つい先日は、2024年2月に全身あざだらけで住みこみだった元従業員が死亡した三重県四日市市の事件で、雇い主だった飲食店経営者と従業員が傷害致死容疑で逮捕された。体には古い傷跡が他にも残っていて、普段から暴行を受け続けていたのではと疑われている。

自分が悪い、といわれればそれまでですが

 似たような事件が相次ぐ中「同じような境遇の人は何千人といるはず」と話し涙ぐむのは、茨城県在住の介護職の男性(50代)だ。

「踏切内に立たされた男性は、最後バンザイのような格好をしていたと報道で見ました。しかも、その様子を見張られていたとまで。直前には、川にかかる橋の上から飛び降りるよう強要もされたといいます。どんな気持ちだったのか。逃げるに逃げられず、最後は絶望の中で亡くなったのでしょうね。給与ももらえず、奴隷のような状況だったはず。私も同じ境遇でしたから、苦しさがわかります」(介護職の男性)

 実はこの介護職の男性も、40代後半まで県内や首都圏の現場を転々とする土木作業員だったが、職場環境は「凄惨」そのものだったと振り返る。

「まず給与は手取り20万ほどですが、そこから会社の寮代が3万引かれる。寮といっても、会社内のプレハブ倉庫なんですけどね。給与は、仕事でミスをすると暴力を受けるだけではなく罰金まで告げられ、同い年の同僚は罰金で給与がマイナスになっていたこともあった。自分より10歳以上若い社長、さらに若い従業員からは叩かれたり、裸にされたりしていました」(介護職の男性)

 つらい状況だったとはいえ、すでに立派な成人男性であれば、その場から逃げ出す、という選択肢もあったのではないか。筆者がそう指摘すると、男性は「生きるためには逃げられない」とうなだれた。

「手に職をつけなかった自分が悪い、といわれればそれまでですが、40過ぎまで建設現場を転々としてきて、気がつけば50歳手前で資格もない。となれば、大手はもちろん、中小建設会社からはお呼びがかからない。そういうわけで、もっと小さな会社、もっといえばモグリの会社に頼るしかなくなる。でもモグリでブラックの会社には、だいたい元不良の社長や上役がいて、我々のような中高年の作業員はいじめられるか搾取される。それでも、自宅も会社借り上げのアパートだし、給与も会社からもらわないと生活できない。生きるためのすべてを会社に握られており、逃げることは死ぬことと同じですから」(介護職の男性)

 その職場でも、複数の中高年作業員が、仕事が遅い、などの理由で給与を取り上げられていた。それどころか、派遣先から支払われた給与の大部分を社長や経営陣が「横取り」もしていた。だが、搾取される中高年スタッフの誰もが「見て見ぬふり」をした。搾取される中高年のうち、やはり数人は、社長などから日常的に暴力を受けたが、みな「冗談」を装った。各々が「自分はいじめられていない」と自分に言い聞かせるように、叩かれても罵声を浴びせられても、金を奪われてもヘラヘラと笑顔を作るのだ。

 ミスをすると叩かれたり給与を減らされるため、皆懸命に働く。だが、ミスして怒られる恐怖にびくついて仕事に力が入らず、当然、注意力散漫になる。そしてまたミスをしてしまい怒鳴られるの繰り返しで、中高年作業員は相次ぎ精神的な不調に陥り、失踪する前に自死を選ぶ仲間もいた。

「頼れる身寄りもない俺らのような中高年にとっては、いじめられても殴られても金をとられても、そこしか無くなっちゃうんだよ。行政にも無視される。卑屈だろうがなんだろうが、生きなきゃいけない。でもそこで死ねって言われたら、もう本当に死ぬしかなくなるのかもしれません」(介護職の男性)

 弱者が救済されない社会になったのか、それとも、弱者が強者に搾取されても見過ごされる社会になったのか。弱者に転落しないために、弱者をつくって虐待を繰り返すのか。この事件が物語るのは、日本社会の闇そのものかもしれない。

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