「紀州のドン・ファン」と呼ばれた和歌山県田辺市の資産家・野崎幸助さん(当時77)を殺害した罪に問われていた元妻・須藤早貴被告(28)の裁判員裁判。須藤被告は殺人罪と覚醒剤取締法違反の罪に問われていた。12月12日、判決を見届けようと大勢の傍聴人が詰めかけた和歌山地裁で、法廷から出てきた人々が興奮気味に話した。
「無罪! 無罪だ!」——22回に及んだ公判を複数回傍聴したライターが語る。
「裁判長は『元妻が殺害したとするには合理的な疑いが残る』と無罪判決の理由を語りました。最も大きなポイントは、事件性の核心である『須藤被告が野崎さんにどうやって覚醒剤を飲ませたのか』を、検察側が具体的に指摘できなかった点でしょう。
野崎さんが摂取した覚醒剤は食事や飲料に混ぜても強烈な苦味があり、飲み込むことは難しいとされていた。あるとすればカプセルに入れるやり方ですが、遺体からのカプセル成分検出は指摘されていない」
今回の裁判で裁判員となったのは男性2人、女性4人の6人。最後の被告人質問となった11月15日、男性の裁判員が須藤被告に繰り返し質問をしていたという。
「覚醒剤を何らかの形でプレゼントし誤飲させた可能性があると疑った男性裁判員が『野崎さんに何かプレゼントをしたことがありますか』と問うと、須藤被告は『いや、ないです』と即答。20回ほど応答を繰り返していましたが、被告が小さい声ながら即答する姿に、裁判員が納得したような表情で質問を終えた様子が印象に残っています。女性の裁判員は質問していませんでした」(同前)
今回の判決言い渡し後、記者クラブ主催で、裁判員の記者会見が実施された。会見に出てきたのは1人、20回ほど質問していたその男性だった。20代会社員の男性は、ミュージシャン・米津玄師(33)のような、顔が見えにくい長髪のパーマ。前出・記者は、男性の話す姿から真面目そうな印象を受けたという。
「須藤さんの印象として、真摯に裁判を受けている感じがしました。裁判官から、マスコミの報道とか、裁判に出た証拠以外は見ないでくださいと言われた。有罪だという目で見れば有罪に見えるし、無罪だと思えば無罪に見える。中立な目で見ようと裁判官から言われていました」(裁判員の男性)
無罪を言い渡された瞬間、弁護人を見つめて涙を流した須藤被告。過去の公判では「何年間も人殺し扱いされた」と主張していたが、これで釈放とはならない。
「須藤被告は、野崎さんと出会う前に別の男性から現金約2980万円を騙し取ったとする詐欺罪で、今年9月に懲役3年6か月の有罪判決を受けており、勾留されているんです」(同前)
検察側による控訴はあるのか。今後も注目は続きそうだ。