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《「首謀者を殺さないといけない」と思い込ませ……》宮城・柴田町男性殺害事件 被害者の長男の妻が霊媒師になりすまし、次男を操って父親を殺害させるまで

NEWSポストセブン 2024年12月13日 16時14分

 2023年4月、宮城県柴田町の住宅玄関先で、住人の村上隆一さん(54=当時)が血まみれで死亡していた事件について、殺人などの罪に問われていた「隆一さんの次男」と「隆一さんの長男の妻」の裁判員裁判で、仙台地裁(宮田祥次裁判長)はそれぞれ懲役20年、懲役28年の判決を言い渡した(求刑懲役23年、30年)。

 判決では「長男の妻」が、架空のLINEアカウント「霊媒師JUN」を駆使して「次男」を操り、村上隆一さんを殺害させたと認定された。目的は隆一さんの退職金などの獲得、そして「長男の妻」を頂点とした売春・美人局詐欺グループによる犯罪の証拠が明るみに出るのを阻止するためだったという。【前後編の後編。前編から読む】

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 村上隆一さんとその妻・Aさんは、「隆一さんの次男」である村上直哉被告(26)とその兄・保彰が幼い頃に離婚した。その後、Aさんと直哉被告、保彰との3人で暮らしていたが、直哉被告が裁判で言うには、ネグレクト状態にあったという。被告人質問で直哉被告が当時のことを振り返り、こう語っている。

「母は家にいなかった。僕は、掃除や洗濯、風呂を洗ったり、買い物行ったり、様々なことをやっていました。兄は私が小6のころ、いつのまにかいなくなっていた。その後から金を渡されて、1週間2000円で生活したり、普通に弁当を買って食べてと言われていましたが、2〜3日でなくなるので、チョコスティックパンを1本一食として暮らしていました」(直哉被告の証言)

「死ぬ前に黒く見えた」

 のちに隆一さんのもとに引き取られたが、幼い頃、兄弟2人で家にいるところを、村上敦子被告(48)に「助けてもらい、普通の生活を送らせてもらうようになった」(同前)ことから、直哉被告は敦子被告に対し、特別な思いを抱いていた。

「私には母という言葉に良い記憶がないので母とは思わなかったが、味方だと思ってた」(同前)

 そんな思いから、兄が敦子被告と結婚したのちの2019〜2020年に、直哉被告は敦子被告と不倫関係になる。直哉被告のLINEに「JUN」なるアカウントが表示されたのは、その直後だった。

「LINEの『知り合いかも?』から追加しました、とJUNさんから連絡を受けて、知らない人だったんで、詐欺かなと思って調べたのですが、大丈夫そうだということで、やり取りして、結果、向こうが、敦子さんの知り合いだと言っていました。本名はサトウジュンイチさん。敦子さんにそういう知り合いがいるか確認すると、『いるけど何で?』と言われた」(同前)

 過酷な幼少期を送る中で、直哉被告は自分が「霊能力がある」と思うようになっていた。「壁から人が出てきたり、成人してから警備の仕事をしているとき、踏切に血まみれの人が歩いていたが、車を降りたら消えていた」(同前)など、過去の不思議体験を法廷で語る。隆一さんの姉である叔母も、同様の“霊能力”があり「隆一さんが死ぬ前に黒く見えた、と言っていました」という。

 敦子被告は2021年6月に脳梗塞を発症したというが、その直前に直哉被告は「敦子さんの首筋あたりが黒く見えた」のだそうだ。「何かな? と思っていましたが、叔母は死が近い人は黒く見えると言っていたので、それかなと」と、直哉被告は当時を振り返る。担当弁護人に対しても「緑……黄緑に近い色が表層にあって、その上に青い色がちょっとグラデーションになっている」などと法廷で唐突に“オーラ診断”をする一幕もあった。

 そんな直哉被告にとって、「霊媒師JUN」も“同じ力”を持つ者同士だったようだ。ある日、敦子被告が男性と出かける際に直哉被告がJUNに相談したところ、JUNは「(直哉被告を)見えないようにするので、行っていいですよ。声をかけない限り、バレないです」と告げたのだという。つまりJUNの力で直哉被告は透明人間状態になったというのである。

「敦子さんが男性と出かけて解散するまで、ずっとつけまわしていました。解散直後に敦子さんに声をかけて『見てたぞ』って話をしました。敦子さんは気づいていませんでした。JUNさんは人の認識を逸らす能力があると、私はそう思いました」(同前)

刺された父から言われた言葉

 直哉被告にとってJUNは、日常の相談相手であるだけでなく、このように“ピンチの時に霊的な力を与えてくれる存在”となってゆく。そんな2022年12月、敦子被告が新型コロナウイルスに感染し、のちも体調不良が続いていたことから、絶大な信頼を寄せるJUNに“敦子は呪われているのか”と尋ねると、2023年1月、次のようなLINEが届いた。

「俺も入院して死にかけたことがある」

 直哉被告はこの返答から、“敦子被告は呪われている”と思ったのだという。その直後、実母AさんのことをJUNに尋ねると、「Aの裏に周り、必ず手助けをしている人がいる。その人が柱となって、Aを支えている。Aの周りの首謀者を殺さないといけない」とJUNは返答してきたのだという。さらに事件の2か月前には、「父もAを助けている1人だ」「間違いないと思う」とも送信してきたことから、直哉被告は「信じられない気持ちが強いが、JUNさんが言うなら……」と信じてしまった。

「具体的に父の殺害を考えたのは2023年4月になってからです。JUNさんからは『脳梗塞になって5月で2年になる。死ぬ確率が高くなる』『時間がない』と言われていて、4月に入り、あと1か月しかないと思っていました。4月1日に、敦子さんに対して、父を殺すことについて違う言葉で説明しましたが、敦子さんは殺害を理解していると思いました」(直哉被告の証言)

 こうして直哉被告は“敦子被告にかけられた呪いを解くため”に実の父親の殺害を決意し、2023年4月17日、隆一さんとの麻雀後に刺身包丁で隆一さんを刺して立ち去った。

「刺したあと、父は振り返って、私と話すことができた……『何してるの?』と聞かれ、『ごめん』。『捕まるぞ』と言われたので、『そうかもしれない』と答えました。そして『帰れ』と言われたので、『はい』と言って帰りました。車で出発し、途中で何かアリバイ工作として、父のLINEを操作して私とトークしているように見せました」(同前)

 霊媒師JUNのアカウントは事件数日後に消えている。直哉被告もJUNとのトークを削除している。しかし、警察の捜査により、直哉被告がJUNに対して送信した内容は判明している。またJUNのアカウント登録時に使われた電話番号が、敦子被告の実家の固定電話番号であることもわかっている。そしてJUNのメッセージは、敦子被告が普段使用している携帯電話のテザリング機能を使用して送信されていることもわかっている。判決ではこうした証拠から「霊媒師JUNは敦子被告だった」と認定しているが、驚くことに、事件から1年後の裁判員裁判の場でも、直哉被告は「JUNは敦子被告」だとは認めなかった。

「疲れましたぁ~~」

「JUNさんが敦子さんだとは思わない。サトウジュンイチだと思っています」(直哉被告の証言)

 当然ながら、敦子被告もこれを認めていない。

弁護人「あなたがJUNのアカウントを使ったことは?」
敦子被告「ないです!!」
弁護人「くどいけど、直哉さん宛に、JUNのアカウントを使って発信したことは……」
敦子被告「ないです!」

 質問を遮ってまで、きっぱりした口調で否定。直哉被告から呪いの話を聞いたことも「ないです!!」と、同様に強く否定していた。そんな売春・美人局詐欺グループの頂点である敦子被告には、元夫の松野新太との間に3人の子がいる。そのうち一番下の長男が情状証人として出廷し、「母としては自慢の母」と、敦子被告への思いを語った。

「人を助けたりすることが多かった。手本のような母。自分がしてもらったことを、同じようにしていきたい」(長男の証言)

 事件前に、長男と姉はそれぞれ新築一軒家を購入している。長男はその際、初期費用として隆一さんに150万円を借りていたが、事件で隆一さんが殺害されたのち、「息子の保彰と直哉から、返済しなくていいと言ってもらっています」と、事件で借金返済を免れていることも語った。また隆一さんの長男・保彰は、隆一さんの葬儀の場において、伯母を差し置いて、退職金を受け取ることを決めていた。振込後は敦子被告と共にこれを管理、費消している。

 長男から見て「自慢の母」である敦子被告は、判決で「殺人事件の首謀者としてJUNにも成りすまし、直哉被告を言葉巧みに隆一さん殺害へと誘導し、自己の手駒として自らの手を汚さないようにして殺人を実行した」と指摘されている。またその動機についても、裁判所は「美人局の証拠を握っている可能性がある隆一さんの存在を脅威に感じ、証拠等が明るみに出ることを防ぐために隆一さんを殺す動機があった」と認定した。

 敦子被告は法廷で終始、眉間に皺をよせ、また直哉被告の被告人質問の際に突然嗚咽するなどといった行動があったが、検察官が懲役30年を求刑した論告の日、閉廷後にはまた違った面を見せた。

「疲れましたぁ~~」

 ひときわ明るい声で弁護人らにそう話しかけ、傍聴席にいた家族らに笑顔で手を振り「大丈夫~?」などと話しかけ始め、裁判長から注意を受けていた。霊媒師JUNを偽装し、「味方だと思っていた」という直哉被告を操り、我が子に金を貸してくれた隆一さんを殺害させながらも、法廷で「JUNは自分ではない」と言い張り続けた敦子被告は、控訴審でも同じように主張し続けるのだろうか。

【プロフィール】
高橋ユキ(たかはし・ゆき)/1974年、福岡県生まれ。ノンフィクションライター。2005年、女性4人の傍聴集団「霞っ子クラブ」を結成しブログを開設。以後、フリーライターに。主に刑事裁判を傍聴し、さまざまな媒体に記事を執筆している。『つけびの村 山口連続殺人放火事件を追う』(小学館文庫)、『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』(小学館新書)など、事件取材や傍聴取材を元にした著作がある。

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