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10月の衆院選では「失態は許されない」中で行われた要人警護・警備 "見せるか見せないか"で異なるその手法

NEWSポストセブン 2024年12月15日 16時15分

 警察や軍関係、暴力団組織などの内部事情に詳しい人物、通称・ブラックテリア氏が、関係者の証言から得た驚くべき真実を明かすシリーズ。今回は、時代や世相など状況によって変化してきた要人警護・警備のポイントについて。

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「今年の選挙は大変だった。大臣クラスの候補者が街頭演説を行う時も、著名な政治家が応援にくる場合も厳戒態勢。急に決まって準備にする時間もなかったが、失敗は許されない。寝る間もなかった」と10月に行われた衆議院議員選挙の警護・警備について、警察官らの間ではそのような声が多かったと聞く。

 東京都の某選挙区で大臣クラスの候補者の身辺警護にあたったという警察官は、こんなことを言っていた。「ずっと警護につかなければならない候補者がいたので、これまでになく緊張感のある選挙だった」。この数年、この警察官の所轄エリアになる都心近郊の選挙区には大臣クラスの候補者がいなかったが、石破政権の組閣で警護対象となる候補者が出たという。警察官は、「ひと昔前は、ボディーガードなど身辺警護をするSP以外、聴衆に警備をしている姿を見せない手法が中心だったが、今は見せる警備に変わってきた。多くの警察官が警護や警備をしている姿を見せることが、テロなどへの大きな抑止力になっている」と話す。

 選挙戦を取材していた某新聞の記者は「今回の警備・警護は、これまで以上に態勢が強化されていた。安部晋三元首相の銃撃事件以来、初めての大型国政選挙だから、警察も必死だったんだろう」と話す。「2023年4月には応援に出向いた演説会場で、岸田文雄前首相に向かって爆発物が投げ込まれるという事件もあった。連続して国のトップが襲撃を受けるのを阻止することができなかった警察に、これ以上の失態は許されなかった」(記者)。

 多くの選挙区で、これまで以上に多くの警察官が警備・警護に動員され、公園などでの演説では聴衆が近づきすぎないよう演台と聴衆との間に距離を置き、聴衆用のエリアを設置。集まった人たちに金属探知機で手荷物検査を行ってから、エリアに誘導。演台の背後には後ろからの襲撃を回避するための防弾用の板が設置されたという。警備の死角が出ないよう多くの警察官が候補者に背を向け聴衆に向かって立ち、不審者がいないか目を光らせていたこともあり、大きな事件もなく選挙は終わった。

慣れてきた頃が危ない

 選挙なら見せる警備が効果的だが、「外国からの要人などを警護する場合、必ずしも見せる警備ができるとは限らない」と記者はいう。場所によっては警備が日本的な景色や風景の邪魔になったり、歓迎しようと集まった沿道の人々の視線を遮ってしまうからだ。視線を遮ってでも警備で固める場所ももちろんあるが、歓迎ムードを分かりやすく提示するために、一部で警備の形式を変更して、ものものしくない雰囲気を演出するようなことをしているようだ。

「少し古くなるが、その姿を一目見ようと多くの人々が沿道に群がった故ダイアナ妃とチャールズ皇太子の来日の時などでは、沿道の最前列に子供や車いすに乗ったお年寄りなどが優先された。目線が低いので後ろになってしまえば前は見えない。普通に考えて当然のことだが、ここに警備のポイントがある」という。

 警察官が沿道最前列に並ぶことはできないが、不審者が国賓を襲うことは阻止しなければならない。「その場合、子供や車いすのお年寄りが最前列にいれば、不審者はそれを超えなければならず、沿道から急に飛び出してくるのを阻止する形になる」と記者はいう。つまり、現場の警察官が不審者を確認するまでに少し猶予がある可能性があるのだ。もちろん、不審者があえて乗り越えなければならない場所を選んで襲撃するとは限らない。しかし、いかなるケースも想定しながら警備をすることが現場の警察官には求められるのだ。

 自然豊かな地方の地を要人が訪れる時、日本らしい美しい景色を堪能してもらうのもおもてなしになるが、要人警護を考えれば好ましいとはいえないらしい。「沖縄の地を外国の要人が訪れた時、目の前にサトウキビ畑が広がっていた。どこまでもサトウキビ畑が広がっていたので、高所から狙われる危険はなかった。だが畑の中に隠れてしまえばどこからでも飛び出してこれる状況に、警察官らは景色の邪魔にならないよう、自分たちもサトウキビ畑に身を潜め警備していたんだ。真夏の沿道に尻を向け、何十人の警察官がサトウキビ畑に腹ばいになって警戒していたのを見た時は、さすがに大変だなと思った」と、記者はいう。ドローンを飛ばせば不審者などすぐに発見できるのではと思うが、広い範囲をくまなくカバーしつつ不審者に対処するには警察官の手が必要なのだ。

 ドローンや金属探知機、防弾板など警護・警備に新しい手法が取り入れられているが、どれも使うのは人間。記者は「事件があり、新しい機材などが導入されている時は誰もが緊張感を持っているが、慣れてきた頃が危ない」と指摘する。警備・警護している警察官や現場が”ここは大丈夫、うちは問題ない”と思い始めた時が、本当の警備の死角かもしれない。

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