セ・リーグでレギュラーシーズン3位からクライマックス・シリーズ(CS)、日本シリーズを勝ち抜き、26年ぶりの日本一に輝いたDeNA。最後の試合となった第6戦、頂点に導く活躍を見せたのが、今シーズン途中に電撃復帰した筒香嘉智(33)だった。そんな筒香はNEWSポストセブンの取材に応じ、米国で過ごした5年の日々を振り返った。【前後編の前編】
* * *
パ・リーグの王者・ソフトバンクに対して3勝2敗と王手をかけ、本拠地・横浜スタジアムに戻った日本シリーズ6戦目。「5番・左翼」でスタメン出場すると、2回に先制の中越えソロ、5回2死満塁で走者一掃の適時二塁打を放つなど4打点の大活躍で勝負を決めた。
決して順風満帆ではなかった。今季は57試合出場で打率.188、7本塁打、23打点。苦しい時期のほうが長かった。
「DeNAに復帰してから投手との間がなかなか合わなくて。アメリカの投手と感覚が違うので、間の取り方をずっと探していました。シーズン中は試合があるのでなかなか調整できなかったんですが、日本シリーズに入る3日前ぐらいの練習で急に見つかって。
『この感覚で打席に入ったら打てるんじゃないか』という手ごたえがありました。メジャーに行く前の形に戻したというより、新しい感覚が自分にアジャストしたイメージですね」(筒香、以下同)
復帰戦の活躍は鮮やかだった。1673日ぶりとなるNPB復帰戦となった5月6日のヤクルト戦で、8回2死一、二塁の好機に右中間へ逆転3ラン。本拠地は大歓声に包まれた。逆転勝利の立役者となったが、筒香は「本当にたまたまです。感覚がしっくりこなかった。このまま打てるほど甘くない」と苦難を覚悟していた。
米国は天然芝の球場が多いが、日本は人工芝の球場が多い。硬い地面による負荷から徐々に腰や膝に張りが出るようになった。スパイクを変えるなど対策を施したが、コンディション作りに苦慮した。次第に快音が聞かれなくなり、6月下旬以降はスタメンから外れるように。蓄積していた疲労で体のバランスも崩してしまい、左脇腹の疲労骨折で7月上旬から1か月以上戦列を離れた。
「1人の選手である以上、試合に出て勝利に貢献したいという気持ちは当然です。チームに貢献できていない申し訳なさがありました。米国でも経験したことですが、眠れなかったり、食欲が落ちた時もありました」
だが、自身が苦境にあえいでいた時期も周囲に気を遣い、声を掛けていた。メジャーに挑戦する以前から筒香を知る選手、チームスタッフは「人柄が柔らかくなった」と口をそろえる。もちろん勝利への執着心、闘争心が薄くなったわけではない。米国で紆余曲折を味わったことで視野が広がり、メンタルをコントロールできるようになったのだろう。
「このままじゃダメだ」日本シリーズの流れを変えた選手発ミーティング
筒香も5年ぶりに復帰したDeNAの変化を感じていた。
「先輩、後輩問わず、チームを意識した会話が増えたなとは感じました。個人成績は大事ですが、チームのことを考えられる選手が1人でも多い組織は強くなると思います。
クワ(桑原将志)もそうですし、戸柱(恭孝)さんも若手のためにあえて厳しいことを言うときがありました。嫌われ役になってもいいからチームのために発言することはなかなかできることではないですし、チームの結束力がより強固になったと感じました」
ソフトバンクに2連敗でスタートした日本シリーズも、選手たちが自発的に行った緊急ミーティングが流れを変えるきっかけになった。試合後に筒香、桑原、戸柱、柴田竜拓、神里和毅が話し合い、「このままじゃダメだ」と危機感を覚えて他の選手も巻き込んだ。
「3戦目の試合前に選手だけでミーティングを開き、思いをぶつけあいました。4戦目以降も自然に選手たちが集まり、試合前に話し合って。僕だけでなく、日本シリーズに出場した経験がある宮﨑(敏郎)さん、(山﨑)康晃、石田(健大)も話してくれました。日本一になったからという結果論ではなく、チームの雰囲気が明らかに変わったと思います」
26年ぶりの日本一の瞬間、筒香が穏やかな表情で三浦大輔監督、選手、スタッフたちと抱き合っていた姿が印象的だった。
視線はすでに来季に向けられている。チームは11月19日に秋季トレーニングを終えたが、「キャンプやオフに打撃の土台を固めるタイプ」だという筒香は、現在も午前中から打撃練習で打ち込んでいるという。
「ファンの方たちに少し恩返しできたかなと思いますけど、やっぱりレギュラーシーズンで3位だった悔しさがありますし、その現実は受け止めなければいけません。リーグ優勝して日本一を達成することが最も価値があることだと思います。個人的には迷惑をかけてしまいましたが、最後に良い感覚がやっと戻ってきたので来年が楽しみです」
(後編に続く)
◆取材・文/平尾類(フリーライター)