今春に2度目の上方漫才大賞を受賞し、単独ツアー「笑い飯の漫才天国」を控えるお笑いコンビ・笑い飯は、漫才や大喜利のほかにも、演技の仕事など活躍の幅を広げている。哲夫(49)と西田幸治(50)の2人に、決勝が近づくM-1グランプリについても聞いた。(前後編の後編。前編から読む)
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──最近、哲夫さんは急激に活躍の範囲を広げていますよね。昨年、大河ドラマ『どうする家康』にも出演していました。儒学者の林羅山役で。
哲夫:いっぺん、お寺巡りの番組をやってたことがあって。それを観てくれていた人が、あいつがええんちゃうかって推薦してくれたみたいです。去年は久々に大河ドラマを1話から全部観てたんですよ。おもろいな、と思って。そしたら出演の話があったので不思議な縁やなと思いましたね。
──前々から決まっているのではなく、始まってから途中でオファーを受けるわけですか。
哲夫:そうなんです。マネージャーから「大河ドラマからオファーがあったんですけど、断っておきましたから」って言われて。なんで断るの? と。
──勝手に?
哲夫:丸刈りにするのがマストの役だったので絶対に「嫌や」って言うと思って、って。いやいや、そんくらいするで、って。ほんで、出ますって言い直してもらったんです。
──西田さんもNetflixの『トークサバイバー』に出ていましたよね。あれもお笑い番組だけど、ちょっとドラマっぽいつくりで。
西田:ダントツ、下手でしたね。もうセリフを言うだけで必死で。周りの人に散々言われましたから。下手やな、って。
「塾の経営」「地元・奈良テレビのレギュラー」
──哲夫さんは教育者としての顔も認知されるようになってきました。以前から格安の塾を運営していて。ああいう面が知られてしまうというのは芸人としてはちょっと困るんだよなというのもあったのですか。
哲夫:それはありましたよ。だから、表立っては言っていませんでしたし。ただ、取材させて欲しいということだったのでね。もう人生も折り返し地点まで来たので、ええかな、と。お陰で仕事の幅も広がったので、ありがたい話ですよ。
西田:僕は10月から、奈良テレビでブラブラしながら大喜利をする番組(『笑い飯西田のてくてく大喜利』)が始まりまして。
──それは関西圏だと観られるんですか。
西田:いえ、奈良だけです。
──あ……、そうなんですね。奈良は2人の地元ですもんね。
哲夫:僕は密かに朝ドラをねらってるんですよ。メッセンジャーの黒田(有)さんが朝ドラの『ブギウギ』に出たことで今、再ブレイク中なんです。朝ドラに出ると犯罪者のイメージもすっかり払拭されるんやな、と(笑)。
──黒田さんは過去にやらかしてしまったことがありましたもんね。でも『ブギウギ』はおもしろかったですから。
哲夫:朝ドラは出て損はないんやな、と。丸刈りでも何でもしますよ。マネージャーに言っとかんと。
M-1は「僕らがいちばんふざけていましたから」
──今、M-1シーズンのまっただ中です。今年は記念すべき20回大会なんですよね。近年は東京勢の活躍が目立ちます。東京勢が4連覇中ですから。2人が出ていたころ、2000年代は関西勢の方が断然、優位だったのに。
哲夫:漫才が全国区になったということなんでしょうね。僕らの頃は、漫才は関西弁じゃないとあかんみたいな風潮もありましたから。なので、それはそれで喜ばしいことやと思うんです。けど、関西出身の僕らかするとぼちぼち関西の王者が出てきて欲しいですね。
──近い将来、関西勢でM-1の頂点に立てそうな人たちはいますか?
西田:いますけど、名前はあげられないですね。言ったことで、変な影響が出たら申し訳ないじゃないですか。おもしろいらしいよってなると、どうしても観る人のハードルが上がってしまうので。
──先日、関西の大御所漫才師の方が「最近のM-1は、漫才意外のところで演者がふざけ過ぎじゃないか」と苦言を呈していたんです。M-1の格が下がるようなことをすべきではない、と。
西田:僕らがいちばんふざけていましたから。何も言えませんね。
哲夫:今やったら僕らはふざけてないかもしれないです。みんなきちんとしてるから、おもしろいんであって。昔、冬のオリンピックでスノーボードの国母和宏選手が選手団の正装をちょっと着崩していて、バッシングを浴びましたよね。あのイメージに近いかな。オンリーワンやから、ある種の主張になる。みんな着崩していたら、僕はむしろ逆にきちんと着たい方なんで。
──3度目の上方漫才大賞も目指すのですか。
哲夫:もう、いろんな人に獲って欲しいかな。
西田:2回目でもけっこうな重圧なんですよ。絶対にスベれない的な、ね。中川家さんとかやすとも(海原やすよ・ともこ)さんも2回獲ってるんですけど、2組が出てきたときのお客さんの沸き方がえげつないんで。名前が出ただけで、わーっとなって。本人が出てくると、さらに歓声があがる。うちらなんて出ていっても、おー、くらいなもんですよ。同じ2回受賞でもぜんぜん同列じゃない。だから中川家さんややすともさんたちに早く3回目を獲って欲しいなというのはあります。
(了。前編を読む)
◆取材・文/中村計(ノンフィクションライター)