45年ぶりとなる非常戒厳令の発令で韓国国内を大混乱に陥れた尹錫悦(ユンソンニョル)大統領(63)。尹氏の弾劾訴追を主導し、尹政権打倒の急先鋒となっているのが野党・共に民主党代表の李在明(イジェミン)氏(61)だ。
李氏は少年工として働きながら中学高校の検定試験に合格。大学卒業後、弁護士となった苦労人で、2010年に城南市長となり政界に進出。京畿道知事を経て、2022年の大統領選に出馬した。尹氏に僅差で破れたものの、その5か月後には共に民主党代表に就任している。
たたき上げの庶民派として人気が高い李氏だが、「彼こそ疑惑のデパートです」と語るのは、漢陽女子大学(ソウル市)助教授の平井敏晴氏だ。
「市長や知事としての実績が評価される一方、対北朝鮮協力事業をめぐって民間企業に北朝鮮に計800万ドルを不正送金させた疑惑や、知事時代の民間企業への便宜供与疑惑など、数々の疑惑が浮上してきました。
なかでも最も注目を集めたのが、城南市長時代の土地開発不正疑惑です。開発をめぐる関連条例可決のために議会議長に賄賂を供与したとされる問題で、関与した関係者5人が不審死や自殺を遂げました」
これまでに背任、外為法違反など7事件11容疑で起訴され、すでに有罪判決が出ているものもある。平井氏が続ける。
「前回の大統領選に出馬した際に、当選目的で虚偽の発言をしたとして公職選挙法違反に問われた裁判では、11月の一審で有罪判決が出ました。控訴中ですが、来年の春前に二審、5月頃には最高裁の判決が言い渡される見込みです」
有罪判決が確定すれば、李氏は被選挙権を剥奪され、仮にこの先弾劾訴追が可決されても次の大統領選に出馬することはできない。韓国政界に精通する大韓金融新聞東京支局長の金賢氏が言う。
「与党・国民の力は最高裁で李氏の有罪判決が出るまで政権を延命させて時間稼ぎする狙いでしょう。逆に、李氏からすれば、なんとしても有罪判決前に尹氏を引きずりおろし、大統領選を行なわなければならない。
次期大統領候補として最も高い支持率を誇る李氏は、出馬さえできればまず当選する。そうなれば大統領の不逮捕特権により内乱罪を除いて司直の手を免れることができる。今後も弾劾訴追を連発すると表明しているのも、彼なりの焦りの表われだと見られています」
仮に李氏が次期大統領になると、尹政権で改善した日韓関係は再び冷え込むことになる。
「李氏は徹底的な反日・親北派の政治家です。尹氏の政策を『日本に擦り寄る屈辱外交』だと断じ、福島第一原発の処理水を『核汚染水』と呼んだ。来年は日韓国交正常化60周年ですが、李氏が大統領になれば融和ムードは吹き飛ぶでしょう」(金氏)
魑魅魍魎だらけの韓国政界。苛烈な抗争はまだ続きそうだ。
※週刊ポスト2024年12月27日号