支持率は低空飛行を続け、もはや政界における新年の興味関心事項は“ポスト石破”に移ったと言っていい。自民党内でも複数の候補の名前が挙がるが、いずれも看板の掛け替えという印象が拭えない。取材を進めると、最有力シナリオとして「まさかの国民民主党・玉木雄一郎総理」が浮上していることがわかった。予算成立のメドが立たずに追い詰められた石破茂・首相が、退陣を条件に野党の協力をとりつけ、予算を成立させて退陣するというシナリオだ。【前後編の後編。前編から読む】
石破首相からの「会ってくれ」
玉木氏を長く取材してきた政治ジャーナリスト・藤本順一氏が語る。
「玉木氏がきっちりケジメをつけて3月に国民民主の代表に復帰すれば、次期総理の可能性が見えてきます。国民民主党は総選挙後も支持を大きく伸ばしている。世論調査の次の総理に相応しい政治家で玉木氏がトップになっていれば、自民党もその存在を無視できないでしょう。村山政権と同じ構図で、玉木首相誕生はあり得る」
自民党は1994年に社会党、新党さきがけと3党連立を組んだ際、223議席を持つ第一党だったにもかかわらず、70議席しかない社会党の村山富市・委員長を首相に担いだ。
「石破首相が退陣した後、改めて国民民主党の103万円の壁引き上げ要求を全面的に受け入れて玉木氏を首相に担ぎ、自民、公明、国民民主の3党で連立を組む。そうすれば国民の支持も得られるし、参院選を自公国で戦ったほうが有利という計算が成り立つ。3月石破退陣のケースでは、他の自民党の首相候補より玉木首相のほうがかなり可能性が高いシナリオだと思います」(同前)
なんと衆参37人の小政党の代表である玉木氏が次期首相の本命だというのだ。だが、政治のプロほど、「玉木首相」実現の可能性は高いと予測している。
30年前の自社さ連立の際には村山首相擁立の仕掛け人で、現在は玉木氏の相談役でもある亀井静香・元自民党政調会長も、「玉木首班」は十分あると見ている1人だ。亀井氏は最近、石破首相本人から相談を受けて大連立を勧めたと明かす。
「今、自民党は過半数割れし、国会運営は厳しい。石破総理も政権運営に行き詰まっている。石破が『会ってくれ』というから、この前、会ったんだ。『少数政権になってやりようがない。どうすればよいか』と言うから、俺は『大連立やるしかない』と答え、『他に思いつくか?』と言った。
それに対して石破は、『いやぁ、大連立を組むと言っても、相手がこんな自民と組んでくれるものか』と悩んでいた。だから、今の世界情勢を見れば混乱しているなかで日本国内がバラバラではいけない。今こそ大連立を組まねばならんと言っておいたよ」
大連立と言っても、亀井氏が想定している相手は立憲民主党ではない。玉木首班による連立政権だと言う。
「あそこ(立憲民主)は労組がついているから自民党としては組めないだろうが、小沢一郎には10人くらい子分がいる。国民民主の玉木を首班にして自公と国民民主、小沢を含めた立憲民主の一部と連立をつくればいい。
連立を組む場合、小さい政党が大である自民党を助けようとは思わんでしょう。小さい政党をシャッポに据え、大きな自民党がこれを助ける。こうしないと小っちゃい政党とは組めない。権力を持つためには、自民党は嫌でも納得せざるを得ない。自社さの時もそうでした。ただし、玉木を総理にする場合、石破は総理を辞めなければならないが、引導を渡せる者がいるかが今の問題だな」
追い込まれれば自民党内の空気も変わる。ある自民党関係者は「予算が成立しないとなれば、当座の危機を脱するために“玉木総理やむなし”の声が高まるだろう」とした。
公明までも野党側に
その石破首相はたとえ3月国会を乗り切れたとしても、さらに危機が続く。25年前半最後のヤマ場は通常国会会期末の6月。夏の参院選を前に、野党が対決姿勢を示すために内閣不信任案を提出するのは確実とされる。
その場面もカギを握るのは国民民主の動向だ。国民民主が野党側に同調して賛成に回れば、内閣不信任案は成立し、石破首相は内閣総辞職か、解散・総選挙かの選択を迫られる。
「石破さんは『国民の信を問う』と衆院解散を打つでしょう。そうなれば7月に衆参ダブル選挙が行なわれることになるが、今の自民党が衆院の過半数を回復できる可能性は極めて低い」(政治評論家・伊藤達美氏)
衆参ダブル選挙でも、参院選単独となっても、選挙後の情勢次第で玉木氏を首相に担ぐ2つの動きが出てくる。
一方は3月同様に、「玉木首相」で自公国3党連立、あるいは立憲の一部を含めた連立を組む亀井シナリオだ。もう一つは、玉木首班による非自民連立政権だ。前出・藤本氏が指摘する。
「参院選後に参院の勢力まで与野党伯仲状況になれば、自民党が玉木氏を首相に担ぐ前に、立憲民主党が玉木首班による非自民連立政権に向けて動く可能性が高い。自民党が議員数で第一党でも、過半数を割っていた場合、野党共闘すれば総理を取れる。かつて野党8党派が連立を組んで自民党から政権を奪った細川政権のやり方です。
細川政権の仕掛け人だった小沢一郎氏はこの構想を口にして、103万円の壁についても、『自民党にお世辞を言ってやってもらう必要はない。玉木君は自分の政権でやればなんぼでもやりやすい』と玉木氏に呼びかけている。当然、選挙後は様々なアプローチをするはずです」
これまで20年以上、自民党と連立を組んできた公明党も国民民主に擦り寄っている。臨時国会では政治資金の流れを監視する第三者機関の「政治資金監視委員会」設置法案を自民党ではなく、国民民主と共同提出した。
玉木首班の非自民連立に公明党まで加われば、まさに細川連立の再現だ。
2025年の政界は、石破政権の危機が深まるほど、与党と野党が玉木氏を奪い合い、首相に担ごうとする動きが強まりそうだ。
(前編から読む)
※週刊ポスト2024年1月3・10日号