12月22日に決勝が放送されるM-1グランプリ。ラストイヤーにして初出場を果たしたダイタクの吉本大(だい)と吉本拓(たく)は、一卵性の双子コンビだ。近年、芸人の間では「今年は行くのでは」と言われることが多かったというダイタクが、準決勝での敗退が続いた心境と、決勝直前の思いを語った。(前後編の前編)
──もうどのネタをやるかは決まっているのですか。
拓:1本目は何となく決めています。2本目は3つくらい準備しているので、その中から展開とかお客さんの雰囲気で判断して、いちばんいいものをやりたいと思っています。
──ネタ選びは、かなり迷いましたか?
拓:コンビ歴が15年ともなるとネタはたくさんあるんでね。周りの人に、あれやれば? これやれば? って、めちゃめちゃアドバイスされるんです。僕らも逆の立場のとき、言っていましたけど。そのリクエストの数が多過ぎて迷いましたね。ただ、最終的には、いちばん信頼している放送作家と仲間の意見を参考にしました。彼らがいいと思っているネタで、僕らもいいと思っているネタがあったので。それをやろうかなという感じです。
──去年の令和ロマンのようにトップバッターだったらネタを変えるみたいなことも考えているのですか。
拓:それはないですね。そこまで考え出すと切りがないので。
大:令和ロマンは変態ですから。くるまは、ある意味、M-1をゲームみたいに捉えることができる。どう攻略するか、どのネタを選んだら勝率がアップするのか、とか。それはすごい。でも、それは僕らには絶対にできない。それって、楽しいんかな? と思っちゃう。そもそも生き方の違いだと思うんです。僕らの人生、ずっと行き当たりばったりなんで。そのほうが何か起こるかわからないので、楽しいじゃないですか。
──ラストイヤーでの初出場ということもあって、後輩にも何度となく先を越され、2人はもっとも涙がたまっていた組のうちの一つだと思うんです。2021年の準決勝後、ファイナリストの発表がすべて終わり、最後、出場者たちが深々と頭を下げるのですが、ダイタクだけ呆然と立ち尽くしていた姿が印象的でした。
大:結婚式のネタをやったときですね。周りの芸人に100%、行ったと言われていたんですよ。僕ら的にも手応えがすごかったので、これで行けなかったらきついなという思いがあった。そうしたら、マジで呼ばれずに……。
「もう縁がないのかな、とも思っていた」
──近年は毎年、今年こそはと言われていました。
大:結成5~6年目の頃に、このまま続けていれば決勝いけるよ、って周りの人に言われていたんです。それで2015年、M-1が復活した年に初めて準決勝まで行けて。周りをみたらまだ若いほうだったので、本当だ、そのうち行けるんだなと思ったんです。でも、来年かな、再来年かなと思っているうちに行けないままずるずると年数だけが経っていって、焦りが強くなっていった。ここ1~2年はあきらめというか、もう縁がないのかなとも思っていました。M-1のことばっかり考えていたら、他のことがまったくできなくなってしまう。なので、考えてるけど、考えてないフリをしていましたね。でないと、精神が不安定になるだけなので。
──それだけの思いがあった割には、ファイナリスト発表の瞬間、リアクションが控えめだったのが意外でした。
大:僕も自然と涙が出るものなのかなと思っていたのですが、7番目に呼ばれたじゃないですか。これまで5度、準決勝で負けているので、5組目くらいを過ぎても呼ばれないと、ほぼあきらめてしまうというか。あれ、今年もダメなのかな、と。だから、喜びよりもホッとしたというのが大きかったんです。あっぶね~、みたいな。
拓:ホッとしましたね。本当に。感覚で言うと、(難しい)手術が成功したあと、みたいな。
──決勝が決まって、どんな変化がありましたか。
拓:若いお客さんが多い劇場だと、露骨にウケるようになりましたね。僕らがファイナリストになったというのを知っているから。ただ、(京都の)祇園花月とかだと初めてのお客さんも多いので、そうはいかない。一般の人はM-1ファイナリストの名前なんて、まだ知らないですから。でも、スベっても「いやいや(M-1の)ファイナリストだから」って心のどこかで思えるようになりました。ただ、スベるのとは、ちょっと意味合いが違うんだぞ、と。
「千鳥の大悟さんと飲んだとき……」
──先ほどの、M-1のことを考えてるけど考えてないフリをしていた、という言葉はズシリときました。
大:ほとんどの芸人がそうだと思いますよ。M-1って、夢破れている人のほうが圧倒的に多いじゃないですか。王者ということでいえば、過去、19組しかいない。この前、千鳥の大悟さんと飲んだときも「M-1のこと、ほとんど覚えてないもん」って話していて。「全部滑ってるから、いい思い出なんて1つもない」と。4回も決勝に行ってる人ですら、そうなわけですから。
── M-1は魅力的だから全身全霊を傾けたいけど、それをやってしまうと身を滅ぼしかねないという怖さがありますよね。
拓:特に今の若い子たちはM-1にどっぷりはまってから芸人になっているので、命をかけている子たちばかりなんです。僕らも同じような思いはあるんですよ。でも、それを彼らみたいに表に出さないというだけで。
──なぜこれまでなかなか準決勝の壁を破ることが出来なかったのでしょうか。
大:みんなおもしろいし、選ばれなくてもしょうがないと思っていましたけど、内心は、僕らのほうがおもしろいのに、と思っていましたよ。
拓:M-1という大会の性格に合う合わないはありますよね。M-1はどちらかというと、満塁ホームランを打てるようなコンビというか、強い表情や動き、インパクトのある大喜利的な笑いのほうが強いと思うんです。でも、僕らはホームランよりもヒットや二塁打を重ねて得点していくタイプなんですよ。なので、盛り上がりという意味では、もう一歩という印象を持たれていたんじゃないですかね。
そこは僕らの課題で、一発にかけるようなネタを作ったこともあったんですよ。でも、そうすると俺たちのよさがなくなっちゃうな、って。僕らのよさはやっぱりやりとりであり、間であり、テンポなんで。それでコンスタントに笑いを取っていく。そこには自信を持っていたので、いつかどこかで評価されるだろうという思いはありました。
(「双子ネタ」の苦悩を語った後編に続く)
■取材・文/中村計(ノンフィクションライター) ■撮影/山口京和
■単独ライブ「ダイタクの伝家の宝刀」を2025年2月20日(木)に東京・有楽町よみうりホールにて開催!前売券(4000円)はFANYチケットで12月22日(日)11:00から12月25日(水)11:00まで先行販売、12月30日(月)10:00に一般発売。