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【井上章一氏が選ぶ「2025年を占う1冊」】『論理的思考とは何か』アメリカ流の作文教育をはねつけた日本の教育界

NEWSポストセブン 2024年12月26日 16時15分

【書評】『論理的思考とは何か』/渡邉雅子・著/岩波新書/1012円
【評者】井上章一(国際日本文化研究センター所長)

 アメリカの大学へ留学した日本の学生は、しばしばレポートの作成になやまされてきた。提出した小論文が、まったく評価されないことが多いらしい。「採点不能」という判定結果も、しばしばつきつけられるのだという。

 西洋とちがって、日本では論理的に物事を考える習慣が根づいていない。教育が暗記にかたよりすぎている。以上のような理由を思いつかれる人も、なかにはおられよう。しかし、そのせいではない。同じ西洋の、たとえばフランスの学生も、アメリカでの小論文執筆は苦手であるという。

 どこの国でも、学生は論理的な思考になじむよう、きたえられている。ただ、何をもって理にかなうとみなすかの基準は、文化圏によってことなる。ある地域では理詰めと判断される考えが、べつのところでは非論理的だときめつけられる。日本人学生のレポートが、アメリカの教師から低く評価されやすいのも、そのためだ。

 著者は、アメリカ、フランス、イラン、日本で作文教育の実情を調査した。それぞれの国々で、どのような文章指導がなされているのかをあらいだす。また、たがいの違いもうかびあがらせた。

 のみならず、その差違が学生のレポートにも投影されていることを、つきとめる。日本人学生が、本質的に非論理的なのではない。日本で理屈の筋がとおるようにしつけられた者は、アメリカ流の理路になじみづらくなる。ただ、それだけのことだと著者は言う。

 敗戦後の日本に、占領軍はアメリカの作文教育をもちこんだ。だが、けっきょくなじまない。日本の教育界は、これをはねつけた。日本流の理路を堅持しようとするこの文化力には、よほど強い何かがあるようだ。

 レポートだけにかぎらない。国際的な討議の場でも、たがいの理詰めをわきまえておくことは役にたつ。この本では、米、仏、日、イランの4類型にわたる理路が紹介されている。そして、それらをマスターすれば、こわいものはない。ビジネスにも、おすすめ。

※週刊ポスト2025年1月3・10日号

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