正月の風物詩である箱根駅伝。「3強」の争いといわれる今回は、どこが先頭で大手町のゴールに飛び込んでくるのか。強豪校・注目選手の評価からレース展開の予想まで、長距離陸上界のレジェンドである瀬古利彦氏(DeNAアスレティックスエリートアドバイザー)が語り尽くした。【前後編の前編】
101回目となる今回の箱根路の大きな見所は、10月の出雲駅伝、11月の全日本大学駅伝を制した国学院大の「大学駅伝三冠」への挑戦だ。そこに連覇を目指す青学大、前回2位で三冠を逃した駒沢大が立ちはだかる「3強」の構図といわれる。1月2日の往路中継の解説も務める瀬古氏はこう言う。
「3強とその下には差がありそうです。しかし、前回も“駒沢一強”の前評判に反して青学が勝ったわけで、当日の箱根で何が起きるかは本当にわからない。解説者泣かせですが、面白い展開になるのは間違いない」(以下、「」内は瀬古氏)
すでに二冠を獲った国学院大の強みは、長いレースの“後半”にある。出雲では前半3区は5位以内をキープしつつ、4区の野中恒亨(2年)からは3連続区間賞。5区の上原琉翔(3年)でトップに立つと、最終6区の平林清澄(4年)が差を大きく広げた。全日本でも5区の野中と6区の山本歩夢(4年)の区間賞の走りで2位に浮上。7区の平林で首位の青学大に4秒差まで迫ると、アンカーの上原が首位でゴールした。
「一言で言えば、層が厚い。2月の初マラソンで2時間6分台を叩き出したエース・平林君の実力が図抜けていますが、彼に続く力を備えた選手が何人もいる。レースを組み立てる前半だけでなく、後半も持ち堪えられるわけです。10月に練習の取材に行ったら、平林君の練習が素晴らしいのはもちろんのこと、他にも10人以上が同じような長距離のロードのためのメニューをやっていました。
前田康弘監督は駒沢大出身。マラソンに近い距離を走らせ、箱根でも勝ってきた大八木弘明監督(現・駒沢大総監督)の教え子です。大八木さんの練習法を踏襲しているのだと思います」
とはいえ、そのまま勝てるほど箱根は甘くないと瀬古氏は続ける。
「国学院は箱根で前回の総合3位が最高。まだ“勝ち方”を知らない。出雲や全日本と違って山登りの5区と山下りの6区という特殊区間の難しさもあります。初優勝と三冠が懸かるプレッシャーは大変重いはずです」
青学は「前回より強い」
その点、この10年で7度の総合優勝経験を誇るのが青学大だ。
「青学は“こういう展開なら勝てる”という自信を原晋監督だけでなく選手も持っている。“箱根だけは絶対に勝つ”という姿勢が強いんです。前回の優勝メンバーが7人も残っていて、チーム力は前回を凌ぎます。前回の山登り5区で区間2位の若林宏樹君(4年)と山下りの6区で同じく区間2位の野村昭夢君(4年)という経験者も揃っています」
前回は太田蒼生(4年)が3区で日本人歴代最高記録を叩き出す走りを見せ、駒沢大の絶対的エースと目されていた佐藤圭汰(3年)を逆転。優勝の原動力となった。
「大舞台で太田君のようなゲームチェンジャーが出現するのが青学大。原監督は選手を調子に乗せるのが上手で、16人の登録メンバー全員を乗せた時の青学は実に強い」
12月12日の壮行会でも原氏は自信をのぞかせたが、「そうは言っても心中に不安はあるはず」と瀬古氏は付け加えた。
「1年前も12月初旬に原監督と食事をした時は、チーム内でのインフルエンザの流行などで“今回はヤバいです……”と口にしていた。それが蓋を開けたら優勝。12月の最後の調整にも結果は左右されるのです」
総合優勝8回の駒沢大もチャンスはあるという。
「今回は大エースの篠原倖太朗君(4年)のチームです。主軸の佐藤君を欠きながら出雲、全日本で2位に入るのは、さすが藤田敦史監督。ただ、箱根で優勝するには佐藤君の復帰がマストになる」
ダークホースは? と問うと間髪入れず「中央大」を挙げた。
「予選会からの勝ち上がり組ですが、1万mの平均タイム(上位10人)は全出場校で1位(28分15秒62)。トラックの力では国学院や青学よりも上です。前回は直前にインフルエンザ感染で力を出せない選手が出たが、いい選手が集まっている。あとはトラックではなく、ロードの20kmで力を出せるかどうか」
全日本4位の創価大、同5位で瀬古氏の母校である早稲田大の存在も気になる。
「創価大にはいい選手がいるが、優勝は厳しいのでは。花田勝彦監督を迎えて3年目の早稲田は、3番手争いに絡む力はつけていると思います」
(後編へ続く)
【プロフィール】
瀬古利彦(せこ・としひこ)/1956年、三重県生まれ。高校時代はインターハイで800m、1500mで2年連続二冠を達成。早稲田大学では箱根駅伝で4年連続して「花の2区」を走り、3、4年次では区間新を更新。大学時代からマラソンでも活躍し、国内外のマラソンで戦績15戦10勝。現在はDeNAアスレティックスエリートアドバイザーとして活動する。
※週刊ポスト2025年1月3・10日号