Infoseek 楽天

《改正法が施行》大麻の規制強化で飛び出す「陰謀論」 ”新物質”が添加され危険ドラッグ化する”薬物市場”の闇

NEWSポストセブン 2024年12月29日 16時15分

 様々な規制に対して海外事情を事例に出し、日本は世界に取り残されているので規制を撤廃せよと主張されることがよくある。だが、規制撤廃派が訴える海外事情は、彼らにとって都合がよい事情だけを抜きとっていることも少なくない。12月12日に施行された改正麻薬取締法と改正大麻取締法により、大麻由来成分のCBD(カンナビジオール)の販売規制基準が明確になった。違法と合法の線引きがはっきりしたことを愛好家は歓迎するのかと思えば、そうでもないらしい。『脱法ドラッグの罠』を上梓するなど、長年、違法薬物関連の取材を続けるライターの森鷹久氏が、危険ドラッグ化がすすむCBD商品についてレポートする。

 * * *
「日本最大級のCBDショップ」を自称し、ラブホテルや風俗店、ナイトクラブなどが立ち並ぶ東京・渋谷で営業していた「GRAY TATOO」なるショップの経営者が、違法な麻薬成分を含む植物片を客に販売した疑いで警視庁に逮捕された。

 このショップでは、大麻由来の成分(CBD)を含む植物片やリキッドが販売されていることで知られていた。今回の逮捕容疑はCBDではなく、それ以外の違法な麻薬成分を含む商品を「合法」と偽って販売した疑いが持たれたことによる。店の利用客から幻覚や体調不良を訴える声が相次ぎ、これまでに11人が救急搬送されたことが確認されており、従来の成分に新たな物質を加えた新しい商品によって、人への悪影響が出た格好である。かつて脱法ハーブが「危険ドラッグ」へとたどった道が、いまも続いていることが分かる。

 筆者は「危険ドラッグ」が問題視された十数年前から、最初は「合法」をうたって販売される様々なドラッグに関する取材を続けている。TBSがニュースとして公開した、摘発直前の店内取材映像を見る限り、客も店もある程度「販売されている商品が違法である」こと、お互いに良くないことをしているのを承知でいると受け取れた。筆者も取材でこれまで同様の光景を幾度と目撃してきたが、お互いあうんの呼吸ともいうべきか、薬物を「隠語」で呼んだり、その効能を確認するなど、怪しげな薬物の受け渡しの作法をよく承知しているのだ。

本当にその成分は「合法」で「人体に影響がない」のか

 数年おきに「合法」をうたう植物片やリキッドが、世に出回る。筆者が確認できたものはことごとく、法規制の穴をつくような形、その時点で違法と言い切れないかもしれないがグレーな状態で販売されていた。当然、すぐに当局によって規制される。そして、その新たな規制をすり抜けようと成分の化学式を少し変えただけの「新物質」が、新しい「合法」なものとして販売される。そうした過程を繰り返す中で、摂取することで人体にどのような影響を及ぼすか全くわからない化学物質が完成してしまい、人の健康を損なうだけでなく、物質の作用によって正常でなくなった人が事故を発生させたこともあった。その結果、「新物質」とはまったく関わりが無い一般人が死亡する事件に至ったのだが、繰り返される悲劇を知ってもなお、今の規制はおかしいと主張する人たちがいる。

「ガチでムカつきますよ。マスコミも無断で隠し撮りしてるし、ハナから相手が捕まるとわかっていて取材している。CBDがいかに国家や政府、権力にとって都合が悪いのか、という気しかしませんね」

 興奮した様子で話すのは、以前、体調不良者が続出したことで問題になった「大麻グミ」を仕入れ、店舗で販売していた千葉県内在住の男性(40代)。男性は、警察やマスコミを批判し、時に「権力者に都合が悪い」などといった陰謀論まで引き合いに出して自身や愛好者、同業者、そして今回逮捕されたショップ店長を擁護し、正当化を試みる。

 冒頭で紹介したショップ店長の逮捕劇、実は警視庁から事前に新聞社やテレビ局の担当記者に「リーク」があり、各社の記者やディレクターが、客の「フリ」をして店内に潜入。ニュースでは、逮捕前の店内の様子を隠し撮りした映像が繰り返し流れ、記者と店員のリアルなやりとりまで公開されたが、隠語が飛び交い、まさに「違法薬物のやりとり」であった。しかし男性は、自身の正当性を訴え続ける。

「大体、大麻を規制するから、こうした危険なドラッグが出てきてしまうんです。そもそも、危険性のないCBD商品(男性は“合法大麻と呼ぶ”)だって、規制しまくるから、売る側も困って成分を変え続けて、結果人体に影響が出てしまう違法なものを販売せざるを得なくなる。取り締まりが、体調不良を起こすような利用者を生み出している」(大麻グミを販売していた男性)

 大麻には依存性や幻覚作用があり、常習すると脳を萎縮させると指摘されているので、その主成分であるCBDを取り締まるには根拠がある。12月12日から施行された改正麻薬取締法と改正大麻取締法により、CBD製品に明確な基準が設けられた。違法と合法の線引きがはっきりしたのだから、合法の範囲でビジネスをすればよいことのはずだが、それでは不満らしい。

 このような主張は、筆者がこれまで取材してきた危険ドラッグを製造したり販売する人、そして当然愛好者の間からも聞かれた。だが、本当にその成分は「合法」で「人体に影響がない」のかを問うと、誰もが押し黙る。

 現在、日本国内で出回っている「合法」とされる植物片やリキッドのほとんどは、葉っぱや液体に、添加物をまぶしたり溶かしたりしたものである。その添加物の多くは中国国内から輸入されている化学物質由来だが、輸入され、ドラッグとして世に出回る度に、従来の化学物質に少しだけ手を加えてることで「別の化学物質」を作り上げ、法規制の隙間を狙うように販売されてきた。この流れは、警察庁と厚生労働省が、脱法ドラッグに代わる新しい呼称として「危険ドラッグ」と名付けた2014年、いやその前から変わっていない。そして、これらの化学物質を加えることで人体にどんな影響があるのか、誰もよくわかっていないことも変わっていない。

製造者や販売者が反社会的組織とつながっている例も

 違法の認定を逃れるために使われる化学物質は、次々と移り変わってきた。共通しているのは、それらが使われ始めるタイミングで、日本の法律に抵触しない化学式を持つという点だけだ。通常の食品や薬品など人が摂取するものであれば、安全基準に合わせた検査が必要で、それに合格しないものは流通されない。だが、今回のCBD製品なものを売買する界隈では、安全性は二の次にされてきた。「大麻より安くハイになれる」ことから、安全性を度外視する愛好者も多い。

 主に法規制や取締状況によって変わる化学物質を輸入する場合、研究用などと称して日本国内に堂々と持ち込まれる。それらを、日本国内の業者や個人が植物片にまぶしたり、液体に溶かしてして「商品」として販売する。そしてこの過程に、化学物質がどんな成分であるのかを第三者がチェックする、という機会は存在しない。だから、製造者も販売者も「合法」とうたいつつ、自身が一体、客に何を販売しているのか、きちんと把握している例はほぼゼロなのだ。前出の男性も、筆者の質問には押し黙ってしまうが、結局、取り締まる側とのいたちごっこは続くしかないのだと、筆者に不穏な笑みを見せ吐き捨てる。

「マスコミや役所の人みたいなお堅い人たちにはわかりませんし、わかってもらおうとも思いませんよ。海外を見てください。娯楽用大麻がどんどん解禁されて、日本では逆に“大麻使用罪”が出来たり、規制がより厳しくなっている。そんなことも知らないで大麻の攻撃ばかりやっている。クソですよ、クソ」(大麻グミを販売していた男性)

 タイでは2019年に「医療目的」での大麻が合法になり、2022年には「麻薬リスト」からはずれた。その結果、日本を含む世界中から愛好家が殺到し、事実上の「娯楽目的」での使用が可能になったという話は確かに有名だ。だが、そのタイでも大麻の再規制が2025年にも新たな法律で定められる見込みだ。「乱用などはおきない」と愛好者が主張してきたはずが、乱用者が相次いでいるためだ。そのことを男性に指摘すると、やはり「世界の権力者」などといった陰謀論が飛び出す。

 CBDは大麻という植物、天然物質由来でナチュラルだから違う、取り締まる必要がないと強弁する人たちがいるが、そのナチュラル信仰のようなところにつけ込まれて、危険に身を置いている可能性を知るべきだろう。新法では合法とみなされる成分含有量の基準が明確になったのに、それを無視したり、法律の抜け穴をくぐるために、人体への影響を誰も把握しない物質を添付し危険ドラッグ化したものを生み出し続けている。なんとなく植物が元ならそんなに悪くないのではと、ふんわり考えてCBD商品と称する新物質を選んでいる人たちは、ナチュラルからはほど遠い人口の合成物を取り込んでいることになる。危険ドラッグが社会問題化した時も、自身が使用している危険ドラッグが「自然由来のもの」だから体に悪影響がない、と考える人は少なくなかったが、この「勘違い」をしている人は、今も一定数存在するだろう。

「合法」をうたいつつ、含有される成分が何なのかもしっかり把握せず、さらにその成分が人体にどのような影響を及ぼすかの臨床試験もされていない、そして毎度のように体調不良者や死者まで出てしまう。結局のところ、遵法意識が極めて希薄で、自身の快楽さえ優先させられればよい、といった人々の手で危険な薬物が世に出回っているだけだ。製造者や販売者が、暴力団などの反社会的組織とつながっている例も、筆者が取材した限り少なくない。悲惨な結果の責任など誰も取るつもりはなく、泣きを見るのは、だまされて購入したり使用する客や、その客が引き起こす事故に巻き込まれる一般市民だけだ。

 今回、摘発されたようなショップや愛好家は、誰にも迷惑をかけていないとよく言う。だが、本当にそうだろうか。彼らが売買するものは嗜好品という楽しいものではない。そして屁理屈を駆使して謎の嗜好品を使い続ける、無責任で利己的な一部の人たちによって、真面目に暮らす市民の生活や人生は脅かされる。だから、本当に危ない、と訴え続けなければならないという思いは、危険ドラッグの取材を始めた当時も今も変わらない。

この記事の関連ニュース